見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一一五

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「俺たちには愛国心があった。だからこそ個人のエゴで国を食い物にする豚どもが許せなかった。自由とわがままをはき違える馬鹿ども、平等と公平を混同する愚か者ども、そういった奴らを滅ぼして祖国を建て直す志が俺たちにはあった」

 オオムカデンダルはハッキリとした口調でそう語った。
いつものオオムカデンダルとはどこか違う、確かな意志のような物を感じる。

「……だが、結果は我々の敗北で幕を閉じた。非常に残念だが仕方がない。これも運命だ。国民は俺たちよりも、政府とその先兵である『ベクターシード』の勝利を願ったのだからな」

 オオムカデンダルの『ベクターシード』という言葉に、蜻蛉洲の表情がわずかに反応した。

「俺たちは元の世界には戻れない。いや、遠い未来にはどうか判らんが、少なくともこの世界では『科学』よりも『魔法』が発達している。いくら待っても俺たちが必要とする科学的な下地は発展しないだろう。俺たち自身が自ら発見でもしない限りな」

「……それが結社を再開するのと何の関係があるんだ」

 蜻蛉洲はまだ懐疑的だ。
表情も言葉もオオムカデンダルの意見に納得していない。

「隠居はやめだ。この世界を俺たちの手で理想の世界にする」

「貴様……!」

「あら、大胆」

 蜻蛉洲と令子はそれぞれの反応を見せた。

「ここは確かに俺たちの祖国ではないが、どこでもいい。理想郷を創る。一から歴史を創るのだ。数千年後、俺たちの名前が記された新たな『古事記』が語り継がれているだろうよ」

 蜻蛉洲もさすがに口が開きっぱなしになっている。

「世界征服に破れたから今度は創世記だと?馬鹿かお前は!?」

 ようやく蜻蛉洲はその言葉を吐き出した。

「もう、諦めろ。大人しくしていろよ……!」

「いやなこった」

 オオムカデンダルが即答で拒否する。

「百足君、なぜ急にそんなことを?」

 令子が疑問を口にした。
その質問はもっともだ。
俺も是非聞きたい。

「ここがクソみたいな世界だからさ。他に理由があるか?」

 またずいぶんな言い草だな。
俺はこれでも、ここで二〇数年生きている訳だが。

「何だか判らないアザが体にあるから赤ん坊を殺す?国家の繁栄に貢献する国民だぞ。それが例え王族でもだ。人口が激減して存亡の危機だったどっかの国が聞いたら噴飯ものだ」

 オオムカデンダルの言葉には怒気がこもっていた。
怒っているのだ。

「自分の国の人間を愛をもって守れない奴らなどに、国などもったいない。ましてや帝国を名乗るなど片腹痛いぜ。だったら俺たちがもらってやる。世界征服の足掛かりにでもさせてもらおう」
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