見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一一三

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「あわわわわ……」

 見ると、大隊長が腰を抜かして震えていた。
そういや居たな。

「どうする?お前、仇を討ってみるか?」

 オオムカデンダルが意地悪な言い方をする。
大隊長は震える足を必死に叩いた。
俺にも覚えがある。
大隊長もまた、責任感の強い男だった。
恐怖に抗えなくとも退けないのだ。

「くっ……!是非もない」

 大隊長はそう言うと剣を構える。
だが、どう見ても勝ち目はない。
控えめに言っても殺されるだろう。

 俺は大隊長とオオムカデンダルの間に入った。

「待って下さい。将軍が敵わないのに無茶です」

「無茶は承知だ。だが、将軍を殺されて、おめおめと逃げ帰れるかっ!」

 確かにその通りだ。
この男の責任感の強さと帝国に対する忠誠心は、一人逃げ帰るのを良しとはしない。
だったら戦って散るしかない。そう考えているのだろう。

 俺はルドム将軍に歩み寄ると、膝をついて胸に耳を当てた。

 ……

 聞こえる。
弱々しいが心臓は動いている。

「……将軍はまだ生きている。アナタが今、連れて帰れば助かるかもしれない」

 大隊長は俺の言葉を聞いて、目を大きく見開いた。  

「本当かっ!」

「本当です。でもかなり弱々しい。早くした方がいいでしょう」

 俺の言葉を聞き終わるよりも先に、大隊長はルドムに駆け寄った。

「将軍!ルドム将軍!」

 大隊長はルドムの体を起こすと彼を背負った。

「……今は将軍が先だ。これで終わりではないぞ」

 大隊長は帝国とルドムの面子を守ろうと懸命に強がった。
敵ながら天晴れだと思う。

「いいぞ。早く行きな。でもこの赤ん坊は返さんけどな」

 オオムカデンダルが念を押す。

「くそっ……!」

 大隊長は心底悔しそうにオオムカデンダルを睨み付けた。
この状況で二人を救出するのは無理だ。
その事は大隊長が一番理解している。
優先順位で言えば赤ん坊が一番なのだろうが、とてもオオムカデンダルから奪い返すのは無理だと感じているのだろう。

 そして、それは正解だ。
ならば確実に救える方を優先する。
大隊長は見た目と直情的な性格からは結び付かないほど、的確な判断で行動していた。

「……それでお前、その赤ん坊をどうするつもりだ」

 ここまで成り行きを見守っていた蜻蛉洲が、沈黙を破ってオオムカデンダルに尋ねた。

「この赤ん坊の『悪魔の証』を蜻蛉洲、お前、調べろよ」

「なに?」

「お前好きだろ?遺伝子研究とか細胞を顕微鏡で見るの」

「……お前、いい加減にしろよ。何故僕が」

「嫌なの?」

「……別に嫌とは言ってな」

「じゃあ決まりな。令子」
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