見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一一一

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「くそっ!この俺がこんな子供にッ!」

 ルドムが声を絞り出す。
だがルドムにも判っているはずた。
相手はただの子供などではない。
ハッキリとモンスターと言ってもいい。
俺でさえ、彼らの底を見たことがない。

 強さの上限がどれほどなのか。
皆目、見当もつかなかった。

「……」

 フィエステリアームは自分の両手をじっと見ていた。
何をしているのか。

「やあっ!」

 再び気合い一閃。
フィエステリアームの両腕が、今度は長く伸びた。

「なんだそりゃ……」

 俺は思わず声に出していた。
まるで昆虫の腕だ。肘から先が長くなっている。

「なるほどねぇ」

 オオムカデンダルが呟く。

「何がなるほどなんだ?」

 俺はオオムカデンダルに尋ねた。

「単純に攻撃が当たらないからリーチを伸ばしたって事だろ。まあ、まだその辺が子供の発想かな」

 オオムカデンダルが鼻で笑う。
しかし腕なんて、普通は伸ばそうと思って伸ばせる物ではない。

「!?」

 だが、実際に相手をしているルドムの表情には笑顔など微塵も見えない。
冗談みたいな戦法だが、ただでさえ苦戦しているのにあんなものを見せられては動揺するなと言う方が無理だ。

 見たところルドムは純粋な剣士だ。
魔法の類いは無いと見える。
多くの剣士はその代わりに、魔導具を携帯している事が多い。
魔導具があれば、魔力が無くても手軽に魔法を行使できる。

 大抵は一つの事しか出来ないが、魔力消費もなく、強力な効果を発揮できるのだ。
剣士にとってはありがたい。
ただし、強力な物ほど驚くほど高価だが。

 藍眼鉱の鎧を一式揃える帝国将軍様だ。
魔導具の一つや二つ、持っていると考えて間違いないだろう。

 ただ、それをアドバイスしていいものか。

 ひゅんっ!

 ルドムがフィエステリアームの首を狙って横一文字に剣を払った。
それをフィエステリアームは当然のようによける。

 フィエステリアームの首の前を、剣先がかすめるように通り過ぎた瞬間。
ルドムは剣をクルリと逆手に持ち変えた。

 何か来る。

 俺は直感的に察した。

「何かくるぞ!」

 俺はとっさに叫んでいた。
ほぼ無意識だった。

「チッ……!」

 忌々しそうに、ルドムが舌打ちをした。

 逆手に剣を持ち変えたルドムは、剣の柄に装飾された宝玉を突き出した。

 ガッ!

 突き出した宝玉がフィエステリアームの顔面を捉える。

 ボオオオオォォンッ!

 宝玉がフィエステリアームに触れたと同時に爆発した。

「うおおおっ!」

 俺は爆風に後ずさる。
腕で爆風をしのぎながら、細目で様子を伺う。

 あの爆風の中、ルドム平然としていた。
これも藍眼鉱の防具があればこそか。
ルドムにはまったくダメージはないように見える。

 フィエステリアームは。

 俺は反射的にフィエステリアームの姿を探した。
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