見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
107 / 826

一〇七

しおりを挟む
「お、おい……!」

 俺は思わず声に出した。
誰にと言う訳でもない。

 しかし、オオムカデンダルも蜻蛉洲も、令子までもが無表情だった。
眉ひとつ動いていない。

 なんだ。この無反応具合は。

 かえって異様だ。

「アレを使わないなら見る意味もないわね。私は先に席に着かせてもらうわ」

 令子はそう言うと、くるりと背中を向けて『家』へと歩き出した。

「待て、女。赤子を置いて行け」

 ルドムが去り行く令子を呼び止めた。

「なにかしら?」

 令子が振り返った。

「その赤子を返せと言っている」

 ルドムが冷たく言い放つ。
フィエステリアームを仕留めて、いつもの調子が戻ってきたのか。

「百足君、返してもいい?」

 令子はオオムカデンダルに尋ねる。
たぶん令子も蜻蛉洲も、赤ん坊などどうでも良いのだろう。
返さないと言っているのはオオムカデンダルなのだから。

「いーや。駄目だね」

 オオムカデンダルの答えは予想通りのものだった。
そんなに意地悪がしたいのか。

「何故この赤ん坊を殺す。理由を言えば返してやる」

 オオムカデンダルが提案した。

「殺す訳ないだろう。貴様がそうと決めつけているだけだ」

 確かに。
その通りだ。
ルドムが正しい。

「嘘をつくなよ。俺は人の心が読めるんだよ。お前はこの赤ん坊を殺す」

「……何故そう言いきれる?」

 ルドムが尋ねる。

「これを見ろ」

 オオムカデンダルが、どこからともなく小さな筒を取り出した。

 あれは……

 確か『懐中電灯』だ。
俺がオオムカデンダルからもらったバックパックに付いていた、スイッチを入れると光る不思議な筒だ。

 俺は自分のバックパックを確かめる。

 無い。

 いつの間に取られたのか。

「これはな、人間が嘘をつくと、光って教えてくれる魔導具だ」

 オオムカデンダルは堂々とハッタリを述べた。

「なんだと……」

 ルドムの眉がピクりと動く。

「たわけた事を……」

「やってみせよう」

 オオムカデンダルはそう言うと、懐中電灯をルドムに向けた。

「筒よ。嘘をつく者をあぶり出せ」

 オオムカデンダルの親指が、カチリとスイッチを押すのが見える。

 カッ!

 見事、懐中電灯は光を放ち、薄暗くなりかけた辺りの中でルドムの顔を照らした。

「くっ!」

 眩しさにルドムは目を細める。

「な?」

 オオムカデンダルは両手を開いて見せた。

「……!」

 ルドムの顔が忌々しそうにオオムカデンダルを睨み付けた。

「おかしな導具を……」

 ルドムの表情に苦悶が見える。

「……話せば返すのだな」

 遂にルドムが折れた。
やはり殺すつもりだったのか。
俺は驚きを隠せなかった。

「その赤子は忌み子なのだ」

 ルドムが低い声で言った。
忌み子?
忌み子とはなんだ?
しおりを挟む

処理中です...