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一〇七
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「お、おい……!」
俺は思わず声に出した。
誰にと言う訳でもない。
しかし、オオムカデンダルも蜻蛉洲も、令子までもが無表情だった。
眉ひとつ動いていない。
なんだ。この無反応具合は。
かえって異様だ。
「アレを使わないなら見る意味もないわね。私は先に席に着かせてもらうわ」
令子はそう言うと、くるりと背中を向けて『家』へと歩き出した。
「待て、女。赤子を置いて行け」
ルドムが去り行く令子を呼び止めた。
「なにかしら?」
令子が振り返った。
「その赤子を返せと言っている」
ルドムが冷たく言い放つ。
フィエステリアームを仕留めて、いつもの調子が戻ってきたのか。
「百足君、返してもいい?」
令子はオオムカデンダルに尋ねる。
たぶん令子も蜻蛉洲も、赤ん坊などどうでも良いのだろう。
返さないと言っているのはオオムカデンダルなのだから。
「いーや。駄目だね」
オオムカデンダルの答えは予想通りのものだった。
そんなに意地悪がしたいのか。
「何故この赤ん坊を殺す。理由を言えば返してやる」
オオムカデンダルが提案した。
「殺す訳ないだろう。貴様がそうと決めつけているだけだ」
確かに。
その通りだ。
ルドムが正しい。
「嘘をつくなよ。俺は人の心が読めるんだよ。お前はこの赤ん坊を殺す」
「……何故そう言いきれる?」
ルドムが尋ねる。
「これを見ろ」
オオムカデンダルが、どこからともなく小さな筒を取り出した。
あれは……
確か『懐中電灯』だ。
俺がオオムカデンダルからもらったバックパックに付いていた、スイッチを入れると光る不思議な筒だ。
俺は自分のバックパックを確かめる。
無い。
いつの間に取られたのか。
「これはな、人間が嘘をつくと、光って教えてくれる魔導具だ」
オオムカデンダルは堂々とハッタリを述べた。
「なんだと……」
ルドムの眉がピクりと動く。
「たわけた事を……」
「やってみせよう」
オオムカデンダルはそう言うと、懐中電灯をルドムに向けた。
「筒よ。嘘をつく者をあぶり出せ」
オオムカデンダルの親指が、カチリとスイッチを押すのが見える。
カッ!
見事、懐中電灯は光を放ち、薄暗くなりかけた辺りの中でルドムの顔を照らした。
「くっ!」
眩しさにルドムは目を細める。
「な?」
オオムカデンダルは両手を開いて見せた。
「……!」
ルドムの顔が忌々しそうにオオムカデンダルを睨み付けた。
「おかしな導具を……」
ルドムの表情に苦悶が見える。
「……話せば返すのだな」
遂にルドムが折れた。
やはり殺すつもりだったのか。
俺は驚きを隠せなかった。
「その赤子は忌み子なのだ」
ルドムが低い声で言った。
忌み子?
忌み子とはなんだ?
俺は思わず声に出した。
誰にと言う訳でもない。
しかし、オオムカデンダルも蜻蛉洲も、令子までもが無表情だった。
眉ひとつ動いていない。
なんだ。この無反応具合は。
かえって異様だ。
「アレを使わないなら見る意味もないわね。私は先に席に着かせてもらうわ」
令子はそう言うと、くるりと背中を向けて『家』へと歩き出した。
「待て、女。赤子を置いて行け」
ルドムが去り行く令子を呼び止めた。
「なにかしら?」
令子が振り返った。
「その赤子を返せと言っている」
ルドムが冷たく言い放つ。
フィエステリアームを仕留めて、いつもの調子が戻ってきたのか。
「百足君、返してもいい?」
令子はオオムカデンダルに尋ねる。
たぶん令子も蜻蛉洲も、赤ん坊などどうでも良いのだろう。
返さないと言っているのはオオムカデンダルなのだから。
「いーや。駄目だね」
オオムカデンダルの答えは予想通りのものだった。
そんなに意地悪がしたいのか。
「何故この赤ん坊を殺す。理由を言えば返してやる」
オオムカデンダルが提案した。
「殺す訳ないだろう。貴様がそうと決めつけているだけだ」
確かに。
その通りだ。
ルドムが正しい。
「嘘をつくなよ。俺は人の心が読めるんだよ。お前はこの赤ん坊を殺す」
「……何故そう言いきれる?」
ルドムが尋ねる。
「これを見ろ」
オオムカデンダルが、どこからともなく小さな筒を取り出した。
あれは……
確か『懐中電灯』だ。
俺がオオムカデンダルからもらったバックパックに付いていた、スイッチを入れると光る不思議な筒だ。
俺は自分のバックパックを確かめる。
無い。
いつの間に取られたのか。
「これはな、人間が嘘をつくと、光って教えてくれる魔導具だ」
オオムカデンダルは堂々とハッタリを述べた。
「なんだと……」
ルドムの眉がピクりと動く。
「たわけた事を……」
「やってみせよう」
オオムカデンダルはそう言うと、懐中電灯をルドムに向けた。
「筒よ。嘘をつく者をあぶり出せ」
オオムカデンダルの親指が、カチリとスイッチを押すのが見える。
カッ!
見事、懐中電灯は光を放ち、薄暗くなりかけた辺りの中でルドムの顔を照らした。
「くっ!」
眩しさにルドムは目を細める。
「な?」
オオムカデンダルは両手を開いて見せた。
「……!」
ルドムの顔が忌々しそうにオオムカデンダルを睨み付けた。
「おかしな導具を……」
ルドムの表情に苦悶が見える。
「……話せば返すのだな」
遂にルドムが折れた。
やはり殺すつもりだったのか。
俺は驚きを隠せなかった。
「その赤子は忌み子なのだ」
ルドムが低い声で言った。
忌み子?
忌み子とはなんだ?
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