見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八八

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 どかっ!

 肩から全体重をかけてコカトリスにぶつかった。
強化されたこの体とそれに補助器の力、それを全開にしてコカトリスにぶつけた。

「クケッ!?」

 コカトリスが初めてうめいた。

「オオオッ!」

 俺はそのまま渾身の力でコカトリスを押しきる。
モンスターは見た目よりも重いのが相場だ。
体重差はおそらく一五〇キロ程度。
今の俺ならやれる。

「オオアアアッ!」

 全力で押す。
崖下まであともう一歩だ。
だが、コカトリスも馬鹿ではない。
落ちまいと抵抗する。

「クアーッ!」

 大きく鳴いて俺を弾き飛ばした。

「うおあっ!」

 俺は真後ろへ弾き飛ばされる。
そして背中で地面をこすった。

「あっつ!」

 慌てて首を起こしてコカトリスを確認した。
駄目だ、今逃がしたらもう同じシチュエーションは作れない。

 俺は必死に起き上がりながら、とっさに魔法を使った。

「タンブルッ!」

 瞬間的にコカトリスがよろめく。
俺の唯一の魔法、タンブル。
立っている者を転ばせる魔法。
子供のイタズラ魔法。

 それを唱えた。

 俺はその瞬間を見逃さない。
コカトリスが転ぶ瞬間。
よろめき体勢を崩した瞬間。
コカトリスの体が地面に接する直前。

 ここだ!ここしかない!

 俺はもう一度突っ込んだ。

 ギュンッ!

 空気を切り裂く音が耳に聞こえる。
俺は矢のように一直線にコカトリスへと跳んだ。
空中で体を抱えて反転する。

 その体勢から全力でコカトリスを蹴り飛ばした。

 ドコオッ!

 体勢を崩してよろめいていたコカトリスは、ダメ押しのキックを食らって踏みとどまる事はできなかった。

「コケーッ!」

 俺の耳には『おのれ!』と言っているように聞こえた。
あのくらいでは死ぬまいが、時間稼ぎにはなる。
銀を採掘する時間まであるかは判らなかったが。

 だが一息ついている暇はない。

 俺はナイーダの姿を探した。
ナイーダは地面に座り込んでいた。
無理もない。
まさに絶体絶命だったのだ。
俺は立ち上がるとナイーダまで駆け寄った。

「立てるか?」

「……うん」

 そう言うとナイーダは俺の差し出した手を掴まえて立ち上がった。

「この山はモンスターがミスリル銀に惹かれて寄ってくるわ。急がないと」

 さっきまでのピンチを少しも引きずる事なく、ナイーダはすぐに坑道内に向かった。
俺の方が呆気にとられるくらいだ。
ここまで強くないと今日まで一人では生き残れなかったのか。
 いや、たぶんそうなのだろう。

 俺は感心しながらナイーダの後を追った。
再び坑道内に入る。
俺は散らかった道具を集めて銀の採掘に取り掛かった。

 横目でナイーダを見る。
ナイーダは両親の変わり果てた姿をジッと見つめていた。

 胸が締め付けられた。
こんな少女が二年がかりで両親を探していた。
その結末がこれだ。
石になった両親との再会。
その気持ちはどんなものか、とても言葉では言い表せなかった。
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