見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八六

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 先にコカトリスが動いた。
シビレを切らしたか自分が優位に獲物を追い詰めていることを自覚しているのか。
 鶏独特の、一歩づつ警戒するような動きで迫ってきている。

 いよいよヤバいぞ。

 せめてこうなればナイーダだけでも逃がさなければ。
全滅したのでは死ぬ価値もない。
無駄死にだ。

「ナイーダ!逃げろ!」

 俺は大声で叫んだ。
コカトリスを引き付けてその間にナイーダを逃がす。
俺は岩陰から飛び出した。

 別に死のうとしている訳ではない。
一応自分も生き残る『予定』だ。
この足があれば、一人なら何とかなる。はずだ。

 壁を蹴り、地面を蹴り、跳躍を繰り返しながら移動する。
目指すはコカトリスの背後だ。
いや、コイツをコカトリスと思うのは一旦ヤメだ。

 コイツはでっかい鶏なのだ。

 普通に庭先で鶏を追うとき、背後からゆっくり近付く。
ならばコカトリスも背後から近付くのがベターだろう。

 対コカトリスの知識など持っていない。
有名モンスターほど、実はレアモンスターである事は多い。
噂が噂をよび、モンスターを有名にする。
実際にはレアモンスターだから逆に有名になっていくのかもしれない。

 しかしだからこそ情報は少なく、対策はほとんど確立されていない。
自分で確立するしかないのだ。
可能性のある方法ならば試してみる価値はあるだろう。

 ダッ!

 コカトリスが旋回するより早く、俺はコカトリスの後方上空へジャンプした。
そして頭上から背中へと飛び乗った。

 どうだ!
古今東西、コカトリスの背中に乗った奴など居まい。
だが、喜んでいる場合ではない。
武器も無しで、ここからどうやってコイツを仕留めるか。

「うおおっ!」

 コカトリスが狂ったように暴れだした。
俺を振り落とそうとしている。
相当なパワーだ。

「クソ!」

 俺は左腕のスモールシールドをコカトリスの後頭部に何度も叩き付けた。
強化された俺の腕力で思い切り叩く。
敵の攻撃を受け止める為の頑丈なシールドが、みるみるひしゃげていく。
我ながら馬鹿みたいな腕力だ。
文字通り馬鹿力である。

 だが、そんな馬鹿力で何度もシールドを叩きつけても、コカトリスは痛がるだけで傷一つついていない。

 これがモンスターの恐ろしさだ。
様々な能力や驚異的な身体能力よりも、『倒せない』と思わせる強靭な肉体。
これこそが人間がモンスターに感じる恐怖の大部分なのだ。

 だからこそ冒険者は技を鍛え、魔法を学び、強力な武器や防具を求める。

 それでやっとモンスターに『挑む』資格を得るという程度だ。
そこまでやってもモンスターの方が格上なのは全ての冒険者が認めるところだろう。

 冒険者がパーティーを組むのは、一人ではモンスターに対抗できないからなのだ。
残念ながらこれが事実である。

 しかし今、俺にはその全てが無かった。
武器は使えず、シールドはひしゃげ、仲間はいない。

「クソ!……やっぱり駄目か」

 俺は半ば諦めた。
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