見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七五

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 俺は考え込んだ。
比較的簡単に思い付くのは遠距離攻撃か。
バジリスクの射程外から弓などで攻撃を加える方法だ。
標的が小さく意外とすばしっこいバジリスクだが、武器として弓を使う射手や猟師ならやれなくもなさそうだ。

 だが、ここには二人しかいない。
俺は弓は扱えるが門外漢だ。
デカい標的に射かけるならまだしも、小型モンスターを正確に射るのは無理だろう。

 一発で仕留めなければならない。
外せば必ず反撃を受ける。
バジリスクは小型モンスターながらも臆病な性格ではない。

 自分に対する攻撃には徹底的に抗戦してくる。
向かってこられたら面倒だ。

「たたかうの?」

 女が言った。

「判らん。できれば会いたくないがミスリル銀を手に入れるのは絶対だからな。必要なら戦わなければならないだろうな」

 俺は女を見た。

「そういえば君は戦わないのだろう?よく今まで無事で居られたな。あの細かな資料を一人で作ったなんて今でも信じられないくらいだ」

 本当に信じがたかった。
細かさはもちろんの事、モンスターの種類と分布はとても貴重な情報だ。
地形やルートまで微に入り細にわたりと完璧と言っていい精密さである。
国の公式情報よりよほど有用だ。

「別に必要だったから作っただけよ。斡旋所に渡したのは役に立つだろうと思ったから渡しただけで、ついでだわ」

 女は興味なさそうに言った。
かなり凄いことなのだが自覚はなさそうだ。

「しかしいくら何でもその格好は危険すぎる」

 俺は彼女の普段着姿を見て言った。
単純に心配だったし、かえって山を登りにくいだろう。

「私は冒険者じゃないの。鎧なんて真っ平ゴメンだわ。それにそんな装備を揃えるお金もないし」

 そう言えば両親を探していると言っていたな。
他に家族は居ないのだろうか。
俺は尋ねてみた。

「いないわ。私一人よ」

「君はいくつだ?」

「……十七」

 見た目に若いだろうとは思っていたが、まさか十七だとは。
薄汚れた格好にボロボロの衣服のせいで二〇代後半に見える。

「二年前に親御さんが居なくなったと言っていたな。それからずっと一人で?」

「そう」

 なんてこった。

 十五歳から一人でこのモンスターだらけの山に登っているのか。
到底信じられない。

俺が十五の頃と言えば冒険者になった頃だ。
駆け出しのハナタレ小僧でしょっちゅう失敗しては大怪我をしていた。
それでも俺は男だし、村では一番冒険者に向いていると大人たちに言われていた。

 実際、冒険者になった後も才能ある新人冒険者と言われ、この若さでミラーナイト級になる最速記録も打ち立てた。

 それを彼女は……

 俺は驚きと、何だか判らないモヤモヤした気持ちが混ざった複雑な心境だった。
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