見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六六

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「言い忘れたことがあってな」

 黒猫はそう言って前足で耳の後ろをこすった。
言い忘れたこと?

「なんでここに居ると判った」

 俺は疑問に思って尋ねた。
そしてすぐに馬鹿な質問をしたと後悔した。

「まだ言うか。面倒だから説明はしない」

 そうだった。
聞いてもどうせ理解できないとか言われるのだ。

「で、言い忘れたこととは?」

 俺は詮索は諦めてとっとと用件に入る。
まだ寝足りない。
早く寝たいのだ。
昼前に寝た筈だが夜になっている。
相当に疲れている事だけは明らかだった。

「実はあるものを入手してもらいたい」

「あるもの?」

 俺は意外な注文に思わずオウム返しした。

「ああ、例のお前の仲間の女。アレに使う素材が足りない」

 アレとか言うな。

「彼女に使う素材?治療に使う素材なら薬屋か。なんと言う治療薬だ?」

 俺は薬屋にお使いに行くくらいでオーバーな、と思った。

「薬じゃない。この世界の薬なんてだいたい粗悪品だし、中には何の効き目もない迷信に基づいた物まである。そんなのは要らん。自分で作れる」

 まったくなんて言い草だ。

「じゃあ何が欲しいんだ」

「ミスリル銀と言う物を知っているか?この世界にはそう言う銀があるんだろ?」

 俺は驚いた。

「ミスリル銀だって?」

 ミスリル銀はマジックアイテムだ。
と言うよりもマジックアイテムを作るのに必要な稀少な素材だ。

 とても軽い上に鋼よりも強く、銅のように加工しやすい。
その上見た目は銀のように美しく、魔力を帯び、また魔力を増幅もする。

 ミスリル銀一塊で一財産である。
そんな物を手に入れられる金など持ち合わせてはいない。

「手に入れるのも難しいが、まあ何とか探してみよう。で、金は?」

 彼女の為ならばやらない訳にはいかない。
目的から遠回りする事になるが、それも仕方がなかろう。
問題は流通量の少なさだ。
量によっては相当に駆けずり回る羽目になる。

 だが、オオムカデンダルは不思議そうに答えた。

「金?なんで金がいる?」

 おいおい、冗談はよせ。
俺に強奪しろとでも言うのか。

「金がなければ買えないだろ?アンタの世界では物はタダなのか?」

「何を言っている。情報には採掘が可能だと記されているぞ。鉱山では一攫千金を夢見て何人もの人間が集まるともな」

 採掘?本気か?
ミスリル銀の銀鉱は一般的には『超危険区域』だ。
一般人は元より寄り付かないし、国によっても入山は厳しく制限されている。

 何もミスリル銀の盗掘を心配しての措置ではない。
ミスリル銀とモンスターはセットだからだ。
ミスリル銀の鉱山には必ずモンスターがいる。
それも上位ランクの危険なヤツほど棲み着く傾向にある。

 メイジが言うにはミスリル銀の『魔力帯同性質』と『魔力増幅性質』を魔力の高いモンスターほど好むからだと言われている。
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