見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三一

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「どうぞこちらへ」

 カウンターの受付嬢が奥の別室へと案内する。
俺はそれに従い別室で待った。

 しばらくすると斡旋所の所長が現れた。
四〇代くらいの中年の男性だ。
それなりに有名人なので知った顔である。

 確か自身も冒険者の出で、現役時代はハイパーナイトクラスの射手だった筈だ。

「やあ、レオ。よく帰ってきてくれた」

 所長がそう言って握手を求めてきた。
だが、口調とは裏腹に眼は真剣だ。

「……上手くいかなかったのか?」

 開口一番所長が切り出した。

「……最低限の成果しか報告できません」

 俺がそう告げると所長は少し意外そうな顔をした。

「最低限の成果?」

 俺は起こったことを出来るだけそのままに語った。
ただし、オオムカデンダルたちのこと以外をである。
彼らに関しては口外できない約束になっている。

 話を聞き終えて、所長は腕を組んで考え込んでしまった。

「……これはどう受け止めればいいのか」

 所長が考えていることは判る。
ミラーナイトクラスの冒険者を集めてニチーム送ったのだ。
これは捜索や探索の任務としては異例である。

 何度か送った冒険者が全員行方不明になったことを受け、所長が独断で増員したのだ。
もともとはこんなに大掛かりな依頼ではなかったらしい。

 ベテラン冒険者だった経験からの判断か。
さすがは元ハイパーナイトクラスである。

 にもかかわらず、これはハッキリ言えば失敗したと言ってもおかしくない結果だ。

 ミラーナイトクラスの冒険者が全滅。
俺がたった一人生き残ったのは、ただの偶然だ。

 化け物を倒せたのも偶然上手くいったということにして話しただけで、実際は俺が倒した訳でもない。

 依頼は調査と探索だ。
そういう意味では依頼は達成されたと言っていい。
だが生存者なし、探索チーム全滅では独断で増員した所長の立場はない。

 一つの依頼が達成されて、より大きな別の問題がまた新たに発生しただけである。

 所長はさぞ頭が痛かろう。

「では、自分はこれで」

 所長に同情はするが俺は他にやることがある。
階下で報酬を受け取って準備を整えたら、俺はすぐにでも出発するつもりだ。

「あ、ああ。ありがとう、ご苦労だったな」

 所長はそう言って一緒に立ち上がった。

「ところで、その背負い袋は変わってるな。職人にオーダーメイドしたのか?」

 所長が目ざとく気付いた。

「ええ、まあ。そんなところです」

「ひょっとしてすぐに旅立つつもりか?」

 俺は所長の顔を見た。
どうしてそんなことを聞くのか。

「いや……何か……ただならぬ雰囲気だからな」

 どうやら表情や雰囲気に出てしまっていたようだ。

「……個人的にプニーフタールに関連する情報を集めながら狂信者たちを追うつもりです。宛は全くありませんがね」

 俺は簡単にそう告げた。
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