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本編
ジオングかよ
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「ぬうっ。またしても人間が……」
邪神は美紅の身体を借りて悔しさを露にした。
鼻っ柱にシワをよせ、ロットを睨み付けた。
「邪神も神様とは言え、テメエ人気ねえなあ……ひゃっひゃっひゃっひゃっ」
唯桜が笑った。
「恐れないのか。崇めないとも……」
邪神は怒りに震えていた。
新たに現れた人間も自分を崇めない。恐れもしない。
向かって来ようとしている。
前に地上に来た時、果たして人間はこうだっただろうか。
もうどのくらい前かも忘れたが、四、五百年くらい前だったかも知れない。
あの時はたらふく人間を喰った。
当分もう人間はいい、と言うくらい喰った。
人間は逃げるばかりで、刃向かう者など居なかった。
ある意味可愛い存在だ。
ウサギの様に逃げ惑い、捕まえるとピイピイ哭くのだ。
それを聞きながら一人づつ喰らう。
旨い。最高に旨い。
数ヵ月の内に食い尽くし、食べるべき人間もやがて居なくなった。
そうして渋々地上を離れたのである。
それがたった数百年、飽きて見向きもしなかったせいで、いつの間にかこんな不敬な人間が増えているとは。
思い上がったこの人間達を、邪神は許せなかった。
ウサギの様に逃げ惑う、あの可愛い姿を見せない。
捕まえても、苛めても可愛くピイと哭きもしない。
それを思うと邪神は、本当に腹立たしかった。
「人に仇為す邪神を今度こそこの手で倒す」
ロットが剣を抜いて宣言した。
「……生意気な。正義の為にと抜かすつもりかッ。人間如きが!」
邪神が威嚇する。
ロットは少しも怯まなかった。
「……正義の為にとは言わない。だが人間の為に、貴方を倒します」
「人間の為だと……何だ、お前は」
ロットは尋ねられて胸を張った。
手にした盾と剣を構える。
「私は人間の為に立つ者です」
滅多に盾を使わないロットであったが、相手が邪神ならば遠慮無く使う。
盾に刻まれたエンブレムが鈍く光った。
「人間の為に立つ者……」
邪神が呟く。
「ケッ。流石は勇者様だ。一々言う事が違う。……だが見直したぜ」
唯桜がそう言ってロットを見た。
ロットは笑って唯桜を見返す。
「悪党を標榜する貴方達に、これ以上カッコイイ所を取られたくありませんから。……さあ、今のウチに」
ロットが前に出る。
唯桜はロットの背後に匿われた。
「ちっ……! まさか生身の人間に匿われる日が来るとはよ」
唯桜はもつれる足取りでその場を離れる。
今はとにかく酸を洗い流さなければ、どんどん腐食が進んでいく。
何とかヘッジ・ブルまで辿り着かなければならない。
「待て。まだお前を解放した覚えは無いッ!」
邪神が唯桜の背中に向かってスネーク・ビュートを伸ばす。
「やらせませんよ!」
ロットがスネーク・ビュートを叩き落とす。
邪神がロットを見た。
「邪魔をするなッ! 人間ッ!」
邪神が再び酸を吐いた。
ロットは素早く盾を掲げた。
「盾よッ!」
ロットと邪神の間を見えない壁の様な物が遮った。
酸は全て見えない壁によって阻まれる。
「魔法障壁……その盾、神の祝福を受けているなッ」
邪神がロットを忌々しい目で見た。
「これでも一応勇者と呼ばれる身です。このくらいの装備はね」
「小癪な……」
ロットは、ハッとした。
完全に気配を消して忍び寄る影に気付いたからだ。
自分でさえもここまで気配を殺す事は出来ない。
ましてや、こんな至近まで接近を許すなど有り得なかった。
邪神の背後から牛嶋が突然現れた。
いや、突然現れた様に見えただけである。
実際にはもっと前から居た筈だ。
何も無い空間からフッと浮かび上がる様に現れたと錯覚する。
愛刀を大上段に構え、それを一気に袈裟斬りに振り下ろす。
ズバッ!
狙い過たず。
牛嶋の刀は邪神の宿る美紅の首を、胴体と真っ二つに切り離した。
「ッ!?」
「なんとッ!」
邪神もロットも同時に驚愕した。
まさか、本当に美紅の首を刎ねるとは。
ただの刀では美紅の首は斬れない。
ただ斬ったのでも同じく斬れまい。
牛嶋の腕と愛刀、両方揃って初めて可能な事である。
美紅の首はスローモーションの様に宙を飛んだ。
弧を描いて高く舞い上がる。
そして。
美紅の目が、カッと見開かれる。
邪神は首だけになった美紅を、まだ操った。
ギューンと加速するとヘッジ・ブルへヨロヨロと向かう唯桜を、あっという間に追い抜いた。
「ははははは。あの小僧を殺せば良いのだろう? この女の記憶は役に立つ!」
唯桜を迎え入れようとヘッジ・ブルの外で洗浄の用意をしていたゲニウスに向かって邪神は一直線に飛んだ。
ビビアンがそれに気付く。
「ゲニちゃん!」
ビビアンはゲニウスを庇う様に、自らの身体を被せた。
流石に魔歌を詠う時間は無い。
ゲニウスは驚いてビビアンの顔を見た。
ビビアンが目を見開いて、ゲニウスを見ていた。
「……ビ……ビビアン?」
ゲニウスがビビアンを呼んだ。
「はい……」
ビビアンが応える。
「おいおい。勝手に盛り上がんなよ。ちゃんと間に合ってたろう?」
ゲニウスとビビアンの背後から声がする。
振り返ると、ジンとチャコが立っていた。
「なあ。これ……どう言う状況?」
二人を見るチャコの腕の中には、必死にもがく美紅の首があった。
邪神は美紅の身体を借りて悔しさを露にした。
鼻っ柱にシワをよせ、ロットを睨み付けた。
「邪神も神様とは言え、テメエ人気ねえなあ……ひゃっひゃっひゃっひゃっ」
唯桜が笑った。
「恐れないのか。崇めないとも……」
邪神は怒りに震えていた。
新たに現れた人間も自分を崇めない。恐れもしない。
向かって来ようとしている。
前に地上に来た時、果たして人間はこうだっただろうか。
もうどのくらい前かも忘れたが、四、五百年くらい前だったかも知れない。
あの時はたらふく人間を喰った。
当分もう人間はいい、と言うくらい喰った。
人間は逃げるばかりで、刃向かう者など居なかった。
ある意味可愛い存在だ。
ウサギの様に逃げ惑い、捕まえるとピイピイ哭くのだ。
それを聞きながら一人づつ喰らう。
旨い。最高に旨い。
数ヵ月の内に食い尽くし、食べるべき人間もやがて居なくなった。
そうして渋々地上を離れたのである。
それがたった数百年、飽きて見向きもしなかったせいで、いつの間にかこんな不敬な人間が増えているとは。
思い上がったこの人間達を、邪神は許せなかった。
ウサギの様に逃げ惑う、あの可愛い姿を見せない。
捕まえても、苛めても可愛くピイと哭きもしない。
それを思うと邪神は、本当に腹立たしかった。
「人に仇為す邪神を今度こそこの手で倒す」
ロットが剣を抜いて宣言した。
「……生意気な。正義の為にと抜かすつもりかッ。人間如きが!」
邪神が威嚇する。
ロットは少しも怯まなかった。
「……正義の為にとは言わない。だが人間の為に、貴方を倒します」
「人間の為だと……何だ、お前は」
ロットは尋ねられて胸を張った。
手にした盾と剣を構える。
「私は人間の為に立つ者です」
滅多に盾を使わないロットであったが、相手が邪神ならば遠慮無く使う。
盾に刻まれたエンブレムが鈍く光った。
「人間の為に立つ者……」
邪神が呟く。
「ケッ。流石は勇者様だ。一々言う事が違う。……だが見直したぜ」
唯桜がそう言ってロットを見た。
ロットは笑って唯桜を見返す。
「悪党を標榜する貴方達に、これ以上カッコイイ所を取られたくありませんから。……さあ、今のウチに」
ロットが前に出る。
唯桜はロットの背後に匿われた。
「ちっ……! まさか生身の人間に匿われる日が来るとはよ」
唯桜はもつれる足取りでその場を離れる。
今はとにかく酸を洗い流さなければ、どんどん腐食が進んでいく。
何とかヘッジ・ブルまで辿り着かなければならない。
「待て。まだお前を解放した覚えは無いッ!」
邪神が唯桜の背中に向かってスネーク・ビュートを伸ばす。
「やらせませんよ!」
ロットがスネーク・ビュートを叩き落とす。
邪神がロットを見た。
「邪魔をするなッ! 人間ッ!」
邪神が再び酸を吐いた。
ロットは素早く盾を掲げた。
「盾よッ!」
ロットと邪神の間を見えない壁の様な物が遮った。
酸は全て見えない壁によって阻まれる。
「魔法障壁……その盾、神の祝福を受けているなッ」
邪神がロットを忌々しい目で見た。
「これでも一応勇者と呼ばれる身です。このくらいの装備はね」
「小癪な……」
ロットは、ハッとした。
完全に気配を消して忍び寄る影に気付いたからだ。
自分でさえもここまで気配を殺す事は出来ない。
ましてや、こんな至近まで接近を許すなど有り得なかった。
邪神の背後から牛嶋が突然現れた。
いや、突然現れた様に見えただけである。
実際にはもっと前から居た筈だ。
何も無い空間からフッと浮かび上がる様に現れたと錯覚する。
愛刀を大上段に構え、それを一気に袈裟斬りに振り下ろす。
ズバッ!
狙い過たず。
牛嶋の刀は邪神の宿る美紅の首を、胴体と真っ二つに切り離した。
「ッ!?」
「なんとッ!」
邪神もロットも同時に驚愕した。
まさか、本当に美紅の首を刎ねるとは。
ただの刀では美紅の首は斬れない。
ただ斬ったのでも同じく斬れまい。
牛嶋の腕と愛刀、両方揃って初めて可能な事である。
美紅の首はスローモーションの様に宙を飛んだ。
弧を描いて高く舞い上がる。
そして。
美紅の目が、カッと見開かれる。
邪神は首だけになった美紅を、まだ操った。
ギューンと加速するとヘッジ・ブルへヨロヨロと向かう唯桜を、あっという間に追い抜いた。
「ははははは。あの小僧を殺せば良いのだろう? この女の記憶は役に立つ!」
唯桜を迎え入れようとヘッジ・ブルの外で洗浄の用意をしていたゲニウスに向かって邪神は一直線に飛んだ。
ビビアンがそれに気付く。
「ゲニちゃん!」
ビビアンはゲニウスを庇う様に、自らの身体を被せた。
流石に魔歌を詠う時間は無い。
ゲニウスは驚いてビビアンの顔を見た。
ビビアンが目を見開いて、ゲニウスを見ていた。
「……ビ……ビビアン?」
ゲニウスがビビアンを呼んだ。
「はい……」
ビビアンが応える。
「おいおい。勝手に盛り上がんなよ。ちゃんと間に合ってたろう?」
ゲニウスとビビアンの背後から声がする。
振り返ると、ジンとチャコが立っていた。
「なあ。これ……どう言う状況?」
二人を見るチャコの腕の中には、必死にもがく美紅の首があった。
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