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本編
限界スタート
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「勇者ロットと仲間達チームから、次鋒ロット選手!」
司会者のアナウンスにロットは軽く手を挙げて応えた。
会場から歓声が上がる。
何と言っても伝説の勇者ロットである。
今大会注目度ナンバーワン、優勝候補である。
勇者ロットが負けた話など聞いた事が無い。
「ははっ。こりゃあ負けられないね」
ロットは笑って観客席へ手を振った。
スイフトは相変わらず静かに佇んでいる。
だが、仮面の中ではじっとロットを見つめているに違い無い。
「それでは次鋒戦、始めて下さいッ!」
ジャアアアアアアアアアアアアアンッ!
いつもの様に銅鑼が鳴った。
スイフトはスイッチが入ったかの様に動き出す。
ロットは腰から愛剣を抜いた。
「……抜かないのかい?」
ロットが尋ねたが、スイフトは答えなかった。
ただボーッと突っ立っている様に見える。
あくまで見えるだけである。
ロットはスイフトの隙の無さに感心していた。
なるほどねえ。
近くで見るとこりゃあ相当な物だ。
珍しくロットは攻めあぐねた。
だが相手に付き合う必要は無い。
こっちはこっちで勝手にやらせて貰う。
ロットは懐から疾風の指輪を取り出した。
それを指へとはめる。
「速さの種はまだ効いている。いきなりトップスピードからだ!」
スイフトの異常な強さはもう解っている。
様子を見る必要など無かった。
指輪をはめた瞬間から、ロットには周りがゆっくりに感じられた。
装着者の速さを倍々にする力を持つ指輪である。
速さの種により基礎スピードが上がっている今、指輪の効力はとんでもない事になっていた。
「チャコの仇って訳じゃ無いけど、覚悟!」
ロットはダッ! と駆け出した。
スイフトが反応するよりも速くロットが脇を駆け抜けた。
擦れ違い様に胴を抜かれた。
ギャリッ!
スイフトの脇腹が火花を散らす。
しかし装甲に覆われたスイフトの体は傷一つ付いていない。
ロットは愛剣エドウィン・キングの刃を見た。
特に刃こぼれを起こしてはいなかったが、斬れないとなると直接斬るのはあまり意味が無い。
「……プレートアーマーくらい軽く斬れるんだけどねえ」
ロットは頭を掻いた。
そんな事を言っても仕方が無い。
斬れない物は斬れないのだ。
違う方法を考えなければ。
ロットは振り返るとスイフトを見た。
スイフトの双眼が青白く点灯している。
「またその目かい。怖いなあ」
ロットの速さを見て解析する気になったのか。
弱点を探ろうとしている事は確かだった。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ、何だよアイツ。両目光りっぱなしじゃねえか」
唯桜が嬉しそうに馬鹿笑いした。
「スカしてやがるくせに、分析分析で大忙しじゃねえか。必死だなオイ」
そう言って旨そうに酒をあおる。
実際上機嫌で飲む酒は格別である。
「分析した所でどうにもならねえ力を見せ付けてやりゃあ良いんだよ。やっちまえ!」
唯桜は明らかにロットを応援していた。
誰かを応援するなんて珍しいなと思っていたが、単純にスイフトが気に入らないだけなのか。
美紅は納得した。
ロットが構えた。
勇者ロットが構えを見せるのも、これまた珍しい。
愛剣エドウィン・キングがうっすらと光をまとう。
「ふッ!」
息を吐きながら剣を振った。
ビシイッ!
一瞬の間をおいて、スイフトが反り返った。
スイフトは衝撃を受けた自分の胸を見た。
何かうっすらと傷の様な物が付いている。
それはロットも目撃した。
傷は付いた。だがそれだけか。
表情が険しい物になる。
想像以上に硬い。
大技は隙が大きくなるが、今の自分のスピードならばそれは問題が無い。
大技連発で行くしか無いか。
気が重かったが仕方が無い。
やらねばならんのなら、やるしかないのだ。
「シッ!」
短く息を吐きながら連続で剣を振った。
目に見えない斬撃が無数に飛ぶ。
ロットの体が押されて行く。
胸や腹に、そして顔にまでも無数の傷が付いている。
しかし、どれもダメージになっているとは言いがたかった。
ロットは更に腰を落として構えた。
何やら呟いている。
ロットの愛剣が一層輝きを増した。
バットを構える様に大きく剣を振りかぶった。
これならどうだッ!
ロットは心の中で叫んだ。
「タイガーヒットッ!」
ロットが鋭く剣を振り抜いた。
常人の目には見えない斬撃が、虎のイメージをまとって飛ぶのが誰の目にも見える。
巨大な虎が一直線に駆けて行く。
流石のスイフトも体をよじって身を庇った。
ガアオオオオンッ!
虎の咆哮の様な衝撃音が響き渡る。
スイフトは初めて大きく吹っ飛んだ。
ガシャガシャガシャンッ!
スイフトが地面に転がる姿を見て会場は大歓声に包まれた。
「ヨオシッ! ヨシ! ヨシ! ヨシ! それで良いぞ!」
唯桜が膝を強く叩いた。
酒の入ったグラスを初めて置いた。
ロットはまだ警戒を緩めない。
このくらいでやられるタマじゃ無い筈だ。
ロットは再び構えに戻った。
司会者のアナウンスにロットは軽く手を挙げて応えた。
会場から歓声が上がる。
何と言っても伝説の勇者ロットである。
今大会注目度ナンバーワン、優勝候補である。
勇者ロットが負けた話など聞いた事が無い。
「ははっ。こりゃあ負けられないね」
ロットは笑って観客席へ手を振った。
スイフトは相変わらず静かに佇んでいる。
だが、仮面の中ではじっとロットを見つめているに違い無い。
「それでは次鋒戦、始めて下さいッ!」
ジャアアアアアアアアアアアアアンッ!
いつもの様に銅鑼が鳴った。
スイフトはスイッチが入ったかの様に動き出す。
ロットは腰から愛剣を抜いた。
「……抜かないのかい?」
ロットが尋ねたが、スイフトは答えなかった。
ただボーッと突っ立っている様に見える。
あくまで見えるだけである。
ロットはスイフトの隙の無さに感心していた。
なるほどねえ。
近くで見るとこりゃあ相当な物だ。
珍しくロットは攻めあぐねた。
だが相手に付き合う必要は無い。
こっちはこっちで勝手にやらせて貰う。
ロットは懐から疾風の指輪を取り出した。
それを指へとはめる。
「速さの種はまだ効いている。いきなりトップスピードからだ!」
スイフトの異常な強さはもう解っている。
様子を見る必要など無かった。
指輪をはめた瞬間から、ロットには周りがゆっくりに感じられた。
装着者の速さを倍々にする力を持つ指輪である。
速さの種により基礎スピードが上がっている今、指輪の効力はとんでもない事になっていた。
「チャコの仇って訳じゃ無いけど、覚悟!」
ロットはダッ! と駆け出した。
スイフトが反応するよりも速くロットが脇を駆け抜けた。
擦れ違い様に胴を抜かれた。
ギャリッ!
スイフトの脇腹が火花を散らす。
しかし装甲に覆われたスイフトの体は傷一つ付いていない。
ロットは愛剣エドウィン・キングの刃を見た。
特に刃こぼれを起こしてはいなかったが、斬れないとなると直接斬るのはあまり意味が無い。
「……プレートアーマーくらい軽く斬れるんだけどねえ」
ロットは頭を掻いた。
そんな事を言っても仕方が無い。
斬れない物は斬れないのだ。
違う方法を考えなければ。
ロットは振り返るとスイフトを見た。
スイフトの双眼が青白く点灯している。
「またその目かい。怖いなあ」
ロットの速さを見て解析する気になったのか。
弱点を探ろうとしている事は確かだった。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ、何だよアイツ。両目光りっぱなしじゃねえか」
唯桜が嬉しそうに馬鹿笑いした。
「スカしてやがるくせに、分析分析で大忙しじゃねえか。必死だなオイ」
そう言って旨そうに酒をあおる。
実際上機嫌で飲む酒は格別である。
「分析した所でどうにもならねえ力を見せ付けてやりゃあ良いんだよ。やっちまえ!」
唯桜は明らかにロットを応援していた。
誰かを応援するなんて珍しいなと思っていたが、単純にスイフトが気に入らないだけなのか。
美紅は納得した。
ロットが構えた。
勇者ロットが構えを見せるのも、これまた珍しい。
愛剣エドウィン・キングがうっすらと光をまとう。
「ふッ!」
息を吐きながら剣を振った。
ビシイッ!
一瞬の間をおいて、スイフトが反り返った。
スイフトは衝撃を受けた自分の胸を見た。
何かうっすらと傷の様な物が付いている。
それはロットも目撃した。
傷は付いた。だがそれだけか。
表情が険しい物になる。
想像以上に硬い。
大技は隙が大きくなるが、今の自分のスピードならばそれは問題が無い。
大技連発で行くしか無いか。
気が重かったが仕方が無い。
やらねばならんのなら、やるしかないのだ。
「シッ!」
短く息を吐きながら連続で剣を振った。
目に見えない斬撃が無数に飛ぶ。
ロットの体が押されて行く。
胸や腹に、そして顔にまでも無数の傷が付いている。
しかし、どれもダメージになっているとは言いがたかった。
ロットは更に腰を落として構えた。
何やら呟いている。
ロットの愛剣が一層輝きを増した。
バットを構える様に大きく剣を振りかぶった。
これならどうだッ!
ロットは心の中で叫んだ。
「タイガーヒットッ!」
ロットが鋭く剣を振り抜いた。
常人の目には見えない斬撃が、虎のイメージをまとって飛ぶのが誰の目にも見える。
巨大な虎が一直線に駆けて行く。
流石のスイフトも体をよじって身を庇った。
ガアオオオオンッ!
虎の咆哮の様な衝撃音が響き渡る。
スイフトは初めて大きく吹っ飛んだ。
ガシャガシャガシャンッ!
スイフトが地面に転がる姿を見て会場は大歓声に包まれた。
「ヨオシッ! ヨシ! ヨシ! ヨシ! それで良いぞ!」
唯桜が膝を強く叩いた。
酒の入ったグラスを初めて置いた。
ロットはまだ警戒を緩めない。
このくらいでやられるタマじゃ無い筈だ。
ロットは再び構えに戻った。
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