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本編
運命交差点
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ビビ子は焦っていた。
この大会にチャコとジンが出場している事を知ってしまったからだ。
もし当たる事になったらどうすれば良いのか、全く想像もつかない。
今のうちに会ってみるべきか。
それとも当たらない事を祈って、しらを切り通すか。
どっちにしても平常心ではいられなかった。
「どうしたの?」
落ち着かないビビ子を見て美紅が声をかけた。
「え? あ、いえ。何でも無いです……」
美紅にも切り出しにくい。
ビビ子は口ごもった。
「……行って話してきても構わんぞ」
牛嶋が言った。
ビビ子ははっとする。
そうだ。牛嶋は自分の事も隊長達の事も知っている。
それでも会って来いと言うのはどう言う事か。
「別に他意など無い。行って言いたい事が有るのなら言ってくれば良かろう」
相変わらず牛嶋の言う事は謎である。
自分達の秘密がバレるのを心配する事は無いのだろうか。
「……心配? 別に秘密にする事など無い。知られたからと言って困る事も、変更するべき事も無い」
かつてこれほど堂々とした悪の組織を見た事が無い。
ビビ子は呆れると言う感情では言い表せない、何か新鮮さにも似た様な感情を感じた。
「何だ、おめえの仲間かよ。何なら呼んでくれば良いじゃねえか」
唯桜がそう言って酒をあおった。
酒さえあればこの人は機嫌が良い。
ここへ隊長達を連れて来る?
本気で言っているっぽい所が、また悩みを大きくさせる。
本当に連れて来ても良いのだろうか。
少なくともこの人達は気にしないのだろう。
ビビ子は取り敢えず立ち上がった。
「……私、ちょっと行ってきます」
そう言ってビビ子はジンの元へと向かった。
「唯桜くん。本当に良いのかい?」
デストロイヤーゴが唯桜に尋ねた。
相変わらず謎の紳士キャラが抜けていない。
だが、唯桜は特に気にもしていなかった。
「良いんじゃねえか。旦那も良いって言ってる事だし」
唯桜はそう言うと、だははははっと笑いながらまた酒をあおった。
「まあ、君が良いと言うのなら私は止めはしないが」
デストロイヤーゴはそう言って闘技スペースを見た。
既に次の試合の準備が整った様子である。
司会者がアナウンスをする。
「お待たせしました。一回戦最後の試合です! 第四試合、ブラッククロウチーム対バーサーカーチーム!」
読み上げられて両チームの選手が闘技スペースへと集まってきた。
会場がわずかにざわめく。
見た目に不気味な者が数名目に付く。
「……おい」
唯桜が牛嶋と美紅に声をかけた。
しかし二人ともその前から既に気付いて、闘技スペースに注視していた。
「あれの事? 本当だったのね……」
美紅が動揺している。
牛嶋は相変わらず無反応、無表情である。
しかし、興味を持っている事は間違いが無かった。
じっと一人の男を見据えている。
ローブに身を包んだ人物が、幽鬼の様にたたずんでいるのが目に付く。
その中からわずかに覗いた顔は三人の良く見知った顔であった。
金属質の仮面。
鈍く光った双眼。
「……スイフトだ」
唯桜が犬歯を剥き出してニヤリと笑う。
「な? 嘘じゃ無かっただろ?」
唯桜は何故か嬉しそうにそう言った。
「あれは……本人なのか」
牛嶋が呟く。
唯桜は答えに詰まった。
「……正直解らねえ。雰囲気は全然違っていたが、俺の名前を呼びやがった」
唯桜は以前出会った時の事を思い出していた。
「……どう言う事かしら」
美紅が困惑した様に言う。
「何でえ?」
「……反応は確かにスイフトの物よ。でも中身は別人かも知れない」
唯桜に対して美紅が答える。
「……別人? どう言う事だ」
「スイフトの中身である九条大揮の生体反応とは微妙に違うって事」
微妙にとはどう言う意味だよ、と唯桜が更に突っ込んだ。
「九条本人の様でもあるし、別人の可能性もあるしって事。大体、百年以上も経過しているのに九条本人が健在ならその方が謎だわ」
「何だよそれ。ハッキリしやがれ。データ解析はおめえの仕事じゃねえか」
「……うるさいわねえ。解らない物は解らないわよ。私だって困惑してるんだから」
美紅はイライラする気持ちを抑えてそう言った。
何故違う反応なのか。
何故全部違うのでは無く一部が違うのか。
まるで凄く似ているけど、双子の弟とかそんな感じである。
双子と言えども別の生物である。
幾ら似ていても反応は違う。
だが、今美紅が見ている反応は七割は本人だが三割は他人と言う事を表している様な反応である。
こんな事は初めてだし、有り得なかった。
「一体どう言う事なの……」
美紅はスイフトをじっと見つめた。
その視線に気付いたのか、スイフトもこちらを見た。
「野郎。何の為にこんな所に居るのか知らねえが、今度こそぶっ殺してやるぜ」
唯桜が一人ごちる。
「多分、僕達を始末しにだろうねえ」
デストロイヤーゴが口を挟んだ。
「……どう言うこった?」
「ブラッククロウは黒いカラスの私設チームだからさ。つまり刺客だ」
デストロイヤーゴはそう言って唯桜を見た。
この大会にチャコとジンが出場している事を知ってしまったからだ。
もし当たる事になったらどうすれば良いのか、全く想像もつかない。
今のうちに会ってみるべきか。
それとも当たらない事を祈って、しらを切り通すか。
どっちにしても平常心ではいられなかった。
「どうしたの?」
落ち着かないビビ子を見て美紅が声をかけた。
「え? あ、いえ。何でも無いです……」
美紅にも切り出しにくい。
ビビ子は口ごもった。
「……行って話してきても構わんぞ」
牛嶋が言った。
ビビ子ははっとする。
そうだ。牛嶋は自分の事も隊長達の事も知っている。
それでも会って来いと言うのはどう言う事か。
「別に他意など無い。行って言いたい事が有るのなら言ってくれば良かろう」
相変わらず牛嶋の言う事は謎である。
自分達の秘密がバレるのを心配する事は無いのだろうか。
「……心配? 別に秘密にする事など無い。知られたからと言って困る事も、変更するべき事も無い」
かつてこれほど堂々とした悪の組織を見た事が無い。
ビビ子は呆れると言う感情では言い表せない、何か新鮮さにも似た様な感情を感じた。
「何だ、おめえの仲間かよ。何なら呼んでくれば良いじゃねえか」
唯桜がそう言って酒をあおった。
酒さえあればこの人は機嫌が良い。
ここへ隊長達を連れて来る?
本気で言っているっぽい所が、また悩みを大きくさせる。
本当に連れて来ても良いのだろうか。
少なくともこの人達は気にしないのだろう。
ビビ子は取り敢えず立ち上がった。
「……私、ちょっと行ってきます」
そう言ってビビ子はジンの元へと向かった。
「唯桜くん。本当に良いのかい?」
デストロイヤーゴが唯桜に尋ねた。
相変わらず謎の紳士キャラが抜けていない。
だが、唯桜は特に気にもしていなかった。
「良いんじゃねえか。旦那も良いって言ってる事だし」
唯桜はそう言うと、だははははっと笑いながらまた酒をあおった。
「まあ、君が良いと言うのなら私は止めはしないが」
デストロイヤーゴはそう言って闘技スペースを見た。
既に次の試合の準備が整った様子である。
司会者がアナウンスをする。
「お待たせしました。一回戦最後の試合です! 第四試合、ブラッククロウチーム対バーサーカーチーム!」
読み上げられて両チームの選手が闘技スペースへと集まってきた。
会場がわずかにざわめく。
見た目に不気味な者が数名目に付く。
「……おい」
唯桜が牛嶋と美紅に声をかけた。
しかし二人ともその前から既に気付いて、闘技スペースに注視していた。
「あれの事? 本当だったのね……」
美紅が動揺している。
牛嶋は相変わらず無反応、無表情である。
しかし、興味を持っている事は間違いが無かった。
じっと一人の男を見据えている。
ローブに身を包んだ人物が、幽鬼の様にたたずんでいるのが目に付く。
その中からわずかに覗いた顔は三人の良く見知った顔であった。
金属質の仮面。
鈍く光った双眼。
「……スイフトだ」
唯桜が犬歯を剥き出してニヤリと笑う。
「な? 嘘じゃ無かっただろ?」
唯桜は何故か嬉しそうにそう言った。
「あれは……本人なのか」
牛嶋が呟く。
唯桜は答えに詰まった。
「……正直解らねえ。雰囲気は全然違っていたが、俺の名前を呼びやがった」
唯桜は以前出会った時の事を思い出していた。
「……どう言う事かしら」
美紅が困惑した様に言う。
「何でえ?」
「……反応は確かにスイフトの物よ。でも中身は別人かも知れない」
唯桜に対して美紅が答える。
「……別人? どう言う事だ」
「スイフトの中身である九条大揮の生体反応とは微妙に違うって事」
微妙にとはどう言う意味だよ、と唯桜が更に突っ込んだ。
「九条本人の様でもあるし、別人の可能性もあるしって事。大体、百年以上も経過しているのに九条本人が健在ならその方が謎だわ」
「何だよそれ。ハッキリしやがれ。データ解析はおめえの仕事じゃねえか」
「……うるさいわねえ。解らない物は解らないわよ。私だって困惑してるんだから」
美紅はイライラする気持ちを抑えてそう言った。
何故違う反応なのか。
何故全部違うのでは無く一部が違うのか。
まるで凄く似ているけど、双子の弟とかそんな感じである。
双子と言えども別の生物である。
幾ら似ていても反応は違う。
だが、今美紅が見ている反応は七割は本人だが三割は他人と言う事を表している様な反応である。
こんな事は初めてだし、有り得なかった。
「一体どう言う事なの……」
美紅はスイフトをじっと見つめた。
その視線に気付いたのか、スイフトもこちらを見た。
「野郎。何の為にこんな所に居るのか知らねえが、今度こそぶっ殺してやるぜ」
唯桜が一人ごちる。
「多分、僕達を始末しにだろうねえ」
デストロイヤーゴが口を挟んだ。
「……どう言うこった?」
「ブラッククロウは黒いカラスの私設チームだからさ。つまり刺客だ」
デストロイヤーゴはそう言って唯桜を見た。
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