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本編

ウチの女神様は

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間も無く食事が運ばれた。
大量の酒も一緒だ。
五人は食事をしながら予選を見物した。
因みに魔人会は招待チームだ。
予選は無条件通過である。

「しかしアレだな、思ってたより参加者ってな多いな」

唯桜がジョッキを片手に言った。

「今回は団体戦だからな。単純に人数だけならいつもの五倍だ。参加数自体はそれほど変わって無いだろう」

デストロイヤーゴはそう言って予選試合を見守った。
各選手達が手にした武器を見ている。
大会は格闘用の武器なら使用は認められている。
例えば剣や槍、変わった所では鎖とか投擲武器なんかも認められている。

大雑把に言えば銃火器は認められない、それ以外は大体認められると言う認識で問題無い。
同じ飛び道具でも、弓は最近認められる様になった。
参加者のレベルが上がってきたのと、観客達の刺激を求めるニーズに応えた結果である。

そうは言っても弓使いはやはり多くない。
相手が盾を装備していたら簡単に接近を許してしまうからだ。

デストロイヤーゴは参加者の武器や傾向を細かくチェックしていた。
出来れば三人には変身はして欲しくない。
と言うかあまり知られたくは無い。
特に唯桜は、変身後の全身銃器の使用はアウトである。

まあ、唯桜の化物染みた強さでは変身する様なピンチは訪れまい。
百歩譲って変身したら、それこそ素手で全員皆殺しに出来るだろう。
そう言う意味では、確かにヤーゴやビビ子にまで出番が回ってくる事は無いだろう。

問題は優勝した後である。
目的を達成出来なかったネグラムが、簡単に帰してくれる筈は無かった。
だとすれば、勝ちを拾える強さの刺客が紛れ込んでいると考えるのが普通だろう。

俺達を倒せる算段があると言う事だ。
それが何なのか。
早目に見極めなければ、とデストロイヤーゴは考えた。

唯桜がローストチキンに手を伸ばした時、美紅が一言言った。

「唯桜。それは食べない方が良いわ」

唯桜は手にしたローストチキンを眺めた。

「そうか」

珍しく唯桜は文句も言わずにローストチキンを皿に戻す。
デストロイヤーゴとビビ子は訳が解らずキョトンとした。

「おい」

唯桜が料理を運んで来た案内役の男を呼んだ。

「は、はい……」

恐る恐る男が唯桜の側にやって来る。

「お前、コレ食ってみろ」
「え?」
「良いからコレを食え」

男も意味が解らずキョトンとした。
唯桜は食べ掛けて止めたローストチキンを男に渡す。

「ウチの女神様がコレを食うなって言うんだよ。代わりにお前が食ってみろ」

男は真っ青になった。
そんな事を言われても自分は何も知らない。
まさか本当に毒でも入っているのか。
料理人が勝手に毒を盛ったと言うのか。
だとしたら、コレを食べたら自分は死ぬじゃないか。

いやいやいや。
食べもせずに何故そんな事が解るのか。
単に用心の為に俺に毒味をさせようと思っているだけかも知れない。

「わ、解りました……」

男は覚悟を決めてローストチキンを頬張った。
幾らなんでも本当に毒が入っている訳は無い。
他の飲み物や料理には手を付けている。
コレだけにピンポイントで毒が入っていると何故解るのか。
大丈夫だ。単なる言い掛かりか、当てずっぽうだ。

男はそう考えてチキンを呑み込んだ。
ビビ子とデストロイヤーゴは、男をじいっと見つめていた。
逆に牛嶋と美紅は全く興味を示していない。
無視して勝手に他の料理を食べていた。
唯桜は背もたれに肘を掛けると、男を見上げた。

「どうだ。旨いか?」

唯桜が男に尋ねる。

「あ、は、はい。美味しいと思います」
「……そうか。そりゃ良かった」

唯桜がそう言った直後。

ぐぼおおおっ!
突然男が床に嘔吐した。
ビビ子が、ひいっ! と短く叫ぶ。
そのまま吐瀉物は真っ赤な鮮血に変わった。
大量の血を床にぶちまけ、男はその上に倒れた。
デストロイヤーゴはゆっくり男を覗き込んだ。

「……死んでるな」

デストロイヤーゴが呟いた。

「最後の食事が旨くて良かったじゃねえか。不味かったら目も当てられねえ……」

唯桜はそう言って床に倒れた男を見た。

「まあ、ウチの女神様は死神なんだけどな」

うひゃひゃひゃひゃひゃ!
唯桜の笑い声が響き渡った。
ビビ子は驚いて声も出ない。
それでも何とか絞り出した声で唯桜に言った。

「そんな、酷いです。毒が入っていると解ってて食べさせるなんて」

ビビ子が唯桜を責める様に見た。

「……料理を出したのはコイツらだ。もし見破れなかったらお前が死んでたかも知れねえんだぜ」

唯桜は平然と言い返した。
確かにその通りである。
どこにも責められるべき点は無い。

「おめえにはおめえの意見が有って良いと思うぜ。それで死んだとしても一切文句を言わない覚悟が有るならなあ」

唯桜の言葉がビビ子の胸にドスンと響いた。

そんな覚悟は……無かった。
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