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本編
ドン・ロッゴとMr.キム
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ドン・ロッゴは威厳に満ちた口髭を指で弄びながら、ほうと言った。
「Mr.キム。面白い話だがこんな話を信じろと?」
一方、Mr.キムと呼ばれた男は両手を開いて肩をすくめた。
「言いたい事は解る。だが実際に各地で成果を挙げている。放ってはおけまい」
ロッゴは目を細めた。
確かに噂は耳にしている。
一度お目にも掛かりたいとは思っていた。
しかし、この男の話に乗るのはどうなのか。
Mr.キムとは、仮の名だと言われている。
本名は解らない。
ロッゴの組織と対立する、黒いカラスのフィクサーだ。
「それでもアンタはこの話に乗るしか無い」
「……なに?」
Mr.キムの言葉にロッゴは思わず眉をひそめた。
「そいつらの正体は、アンタの所のルービーを殺った奴等だ」
「何だと!」
「間違いない。その中の一人は五枚看板を一人で全滅させ、また別の一人はウチのタバコの密売拠点と奴隷集積所を襲った男だ」
キムは一瞬怒りを滲ませたが、それをいつまでも表に出す事はしなかった。
「ウチの特別顧問も、ソイツに煮え湯を飲まされた。かなりの腕前なんだがな。それでもこのザマだ」
キムは後ろに立つスイフトを親指で指した。
背後でスイフトは沈黙を守っている。
この男がスイフトか。
ロッゴはキムの背後に立つ人物を値踏みをする様に眺めた。
噂には聞くが実物を見るのは初めてだった。
黒いカラスの処刑人と言えば、この業界で知らない者は居ない。
その強さは人間離れしていると言う。
この男が黒いカラスに居るからこそ、ロッゴ率いるネグラムは全土を牛耳る事が出来ないのだ。
「スイフトか……。噂には聞いているがね。そんな男でも手に余る奴等を一体どうやって倒そうと言うのか」
ルービーを殺され組織の一大拠点を奪われたダメージは計り知れない。
ロッゴとて、報復出来る物なら当然そうしたい。
敵の素性が完全に解るまでは迂闊に手は出せまいと思っていた。
チンピラを使って探らせた事もあるが、恐怖のあまりメッセンジャーに仕立て上げられて戻ってきた。
相当な組織だと思っていたのだ。
しかし、これだけの事をやってのける奴等がたったの三人とは信じられない。
「最新の情報によれば、現在は五名だ。魔人会とか名乗っているらしい」
「魔人会?」
「ルービーの所に出入りしてた何でも屋が居ただろう。確かヤーゴとか言うチンピラだ。そいつとあと一人女が居るらしい。子供の様だが」
ルービーが使っていたならロッゴが知る由も無いが、要は裏切り者と言う事か。
だが、三人が五人になったからと言って組織としては小さい事この上無い。
中小どころか零細だ。
「そんな奴等にしてやられているとはな」
ロッゴは自嘲気味に笑った。
「仕方があるまい。それだけの力を持っていると思えば考え方も改まる」
確かにキムの言う通りだ。
実際、黒いカラスは組織としてはネグラムよりも後発で規模も小さい。
それでも勢力を二分する存在なのは、スイフトの存在による所が大きい。
こんなのが三人も居ると言うのか。
ロッゴは目眩がした。
しかもスイフトを圧倒する様な奴なら、勝ち目など無いに等しい。
「解るだろう? 如何に不味い事が起こっているか。アンタはこの話に乗るしか無い」
キムは最初の言葉を繰り返した。
ロッゴはしばらく沈黙した後に、解ったと短く答えた。
「……で、どうするつもりだ」
そう言ってロッゴは気持ちを切り替えようと部下に酒を持ってこさせた。
グラスに酒を注ぐと、キムにも勧めた。
キムは目の前のグラスを眺めながら話を続けた。
「そんなに難しい事をする訳では無いがね。地下闘技会を使う」
地下闘技会とは、非合法で行われる殺し合いである。
闘技会とは名ばかりで、賭けの対象である。
負ければ即死亡だが勝ち続けて王者になれば巨額の金が手に入る為、苛酷な現状にも関わらず参加希望者は後を絶たない。
組織の運営は黒いカラスとネグラムが六対四の割合で出資している。
互いの組織の不可侵的な協定の意味合いを持っていた。
「魔人会の連中は地下闘技会を知らない。今までの活動内容を見れば、利益に誘導されて行動している事が解る。だから、特別大会を開催して報酬を餌に誘き出す」
キムは声のトーンを一段落とした。
「五対五の勝ち抜き戦にして一人づつ分断する。そこに刺客をぶつける。勿論罠も仕掛けるがね」
そう言ってキムは背もたれにもたれ掛かった。
確かにシンプルな作戦だ。
「だが、誰をぶつけても勝てないのでは意味があるまい」
ロッゴが冷ややかに言う。
「だからわざわざこの話をアンタにしている。で、なければ全てこちらが単独でやっている」
ロッゴは沈黙した。
「探してもらおうか、勝てそうな奴を。居ませんでしたじゃ駄目だ。無理を承知で探し出してもらう」
ロッゴの眉がピクリと動いた。
キムは静かに立ち上がる。
「ウチはコイツが出る。それ以外にも幾つか宛がある。ネグラムの方が資金力も情報網も上だ。何でも良い、強い奴を探してもらおう」
キムはそう言うとテーブルを離れた。
そして出口へ向かいながら、あ、そうそうと言った。
「用意出来るなら別に人間には限らん。アンタのコネクションならそう言う宛もあるだろう」
背中越しにそう言って、キムは部屋から出て行った。
スイフトも後に従った。
ロッゴはその背中を黙って見送っていたが、やがてキムに勧めたグラスに目を移した。
「……流石は黒いカラスのフィクサーか。気を抜いて勧められた酒に口を付ける様なヘマはせんな」
そう言ってキムに勧めた毒入りのグラスを見てロッゴは笑った。
「Mr.キム。面白い話だがこんな話を信じろと?」
一方、Mr.キムと呼ばれた男は両手を開いて肩をすくめた。
「言いたい事は解る。だが実際に各地で成果を挙げている。放ってはおけまい」
ロッゴは目を細めた。
確かに噂は耳にしている。
一度お目にも掛かりたいとは思っていた。
しかし、この男の話に乗るのはどうなのか。
Mr.キムとは、仮の名だと言われている。
本名は解らない。
ロッゴの組織と対立する、黒いカラスのフィクサーだ。
「それでもアンタはこの話に乗るしか無い」
「……なに?」
Mr.キムの言葉にロッゴは思わず眉をひそめた。
「そいつらの正体は、アンタの所のルービーを殺った奴等だ」
「何だと!」
「間違いない。その中の一人は五枚看板を一人で全滅させ、また別の一人はウチのタバコの密売拠点と奴隷集積所を襲った男だ」
キムは一瞬怒りを滲ませたが、それをいつまでも表に出す事はしなかった。
「ウチの特別顧問も、ソイツに煮え湯を飲まされた。かなりの腕前なんだがな。それでもこのザマだ」
キムは後ろに立つスイフトを親指で指した。
背後でスイフトは沈黙を守っている。
この男がスイフトか。
ロッゴはキムの背後に立つ人物を値踏みをする様に眺めた。
噂には聞くが実物を見るのは初めてだった。
黒いカラスの処刑人と言えば、この業界で知らない者は居ない。
その強さは人間離れしていると言う。
この男が黒いカラスに居るからこそ、ロッゴ率いるネグラムは全土を牛耳る事が出来ないのだ。
「スイフトか……。噂には聞いているがね。そんな男でも手に余る奴等を一体どうやって倒そうと言うのか」
ルービーを殺され組織の一大拠点を奪われたダメージは計り知れない。
ロッゴとて、報復出来る物なら当然そうしたい。
敵の素性が完全に解るまでは迂闊に手は出せまいと思っていた。
チンピラを使って探らせた事もあるが、恐怖のあまりメッセンジャーに仕立て上げられて戻ってきた。
相当な組織だと思っていたのだ。
しかし、これだけの事をやってのける奴等がたったの三人とは信じられない。
「最新の情報によれば、現在は五名だ。魔人会とか名乗っているらしい」
「魔人会?」
「ルービーの所に出入りしてた何でも屋が居ただろう。確かヤーゴとか言うチンピラだ。そいつとあと一人女が居るらしい。子供の様だが」
ルービーが使っていたならロッゴが知る由も無いが、要は裏切り者と言う事か。
だが、三人が五人になったからと言って組織としては小さい事この上無い。
中小どころか零細だ。
「そんな奴等にしてやられているとはな」
ロッゴは自嘲気味に笑った。
「仕方があるまい。それだけの力を持っていると思えば考え方も改まる」
確かにキムの言う通りだ。
実際、黒いカラスは組織としてはネグラムよりも後発で規模も小さい。
それでも勢力を二分する存在なのは、スイフトの存在による所が大きい。
こんなのが三人も居ると言うのか。
ロッゴは目眩がした。
しかもスイフトを圧倒する様な奴なら、勝ち目など無いに等しい。
「解るだろう? 如何に不味い事が起こっているか。アンタはこの話に乗るしか無い」
キムは最初の言葉を繰り返した。
ロッゴはしばらく沈黙した後に、解ったと短く答えた。
「……で、どうするつもりだ」
そう言ってロッゴは気持ちを切り替えようと部下に酒を持ってこさせた。
グラスに酒を注ぐと、キムにも勧めた。
キムは目の前のグラスを眺めながら話を続けた。
「そんなに難しい事をする訳では無いがね。地下闘技会を使う」
地下闘技会とは、非合法で行われる殺し合いである。
闘技会とは名ばかりで、賭けの対象である。
負ければ即死亡だが勝ち続けて王者になれば巨額の金が手に入る為、苛酷な現状にも関わらず参加希望者は後を絶たない。
組織の運営は黒いカラスとネグラムが六対四の割合で出資している。
互いの組織の不可侵的な協定の意味合いを持っていた。
「魔人会の連中は地下闘技会を知らない。今までの活動内容を見れば、利益に誘導されて行動している事が解る。だから、特別大会を開催して報酬を餌に誘き出す」
キムは声のトーンを一段落とした。
「五対五の勝ち抜き戦にして一人づつ分断する。そこに刺客をぶつける。勿論罠も仕掛けるがね」
そう言ってキムは背もたれにもたれ掛かった。
確かにシンプルな作戦だ。
「だが、誰をぶつけても勝てないのでは意味があるまい」
ロッゴが冷ややかに言う。
「だからわざわざこの話をアンタにしている。で、なければ全てこちらが単独でやっている」
ロッゴは沈黙した。
「探してもらおうか、勝てそうな奴を。居ませんでしたじゃ駄目だ。無理を承知で探し出してもらう」
ロッゴの眉がピクリと動いた。
キムは静かに立ち上がる。
「ウチはコイツが出る。それ以外にも幾つか宛がある。ネグラムの方が資金力も情報網も上だ。何でも良い、強い奴を探してもらおう」
キムはそう言うとテーブルを離れた。
そして出口へ向かいながら、あ、そうそうと言った。
「用意出来るなら別に人間には限らん。アンタのコネクションならそう言う宛もあるだろう」
背中越しにそう言って、キムは部屋から出て行った。
スイフトも後に従った。
ロッゴはその背中を黙って見送っていたが、やがてキムに勧めたグラスに目を移した。
「……流石は黒いカラスのフィクサーか。気を抜いて勧められた酒に口を付ける様なヘマはせんな」
そう言ってキムに勧めた毒入りのグラスを見てロッゴは笑った。
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