ドグラマ3

小松菜

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本編

十個の指輪

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全身に包帯を巻き付けた様な、不気味な見た目である。
それがまた長身痩躯である為、不気味さを倍増させている。

バイアーはその見た目で顔面から血を噴き出した。
唯桜の爪が包帯ごとバイアーの顔を切り裂いたからだ。
切れた包帯の境目から切れ長の目が覗いている。
それがカッと目を見開くと、ギョロリと唯桜を見た。

次の瞬間、出血がピタッと止まった。
噴水の如く噴き出していた血が、栓を捻った様に一瞬にして止まったのである。

「なるほど」

呟きながら唯桜はその様子をジッと見つめた。
出血が止まると、斬られた肉が集まりピタリと閉じていく。
そして、ものの一、二秒で傷跡さえ見えなくなった。
グラドスが不死身だった秘密は、確かにこいつの能力によるものだろう。

一言で治癒能力と言っても、言葉から想像するレベルとは完全に別物である。
まるでビデオの逆回し再生である。
ちょっとやそっと死にかけたくらいでは、致命傷にならないだろう。

「……筋肉ダルマの能力じゃ無いのが救いだな」

唯桜が一人ごちる。
グラドスの能力だったら完全にお手上げだった可能性もある。
グラドスとは別の能力で、しかも華奢で弱そうな奴の能力と言うのがツイている。

「普通の奴には倒せなくとも、俺なら殺れるぜ。その超回復速度を上回るダメージを与えれば良いんだろ」

唯桜はそう言ってバイアーに腕を向けた。
上腕が開いて銃身が顔を覗かせる。

「木っ端微塵にしてやる」

エネルギー弾をマシンガンで発射する。
着弾すると爆発する為、破壊力は通常のマシンガンの比では無い。

「死ね」

唯桜がエネルギー弾を発射しようとした、その時。

スウゥ……

「……なんだと」

バイアーが目の前で消えた。
幽霊の様に、薄くなってそのまま消えたのである。

「……もう、何でもアリだな」

唯桜が半ば呆れた様に言った。

「ははは。残念だったな。これでバイアーは捕まらんよ。お前達の負けだ」

ドン・ロッゴが高笑いする。

「意地悪するのも可哀想だから予め言っておくが、私がこの地位に居るのは運が良いからでは無い。この様にお前達雑魚とは実力の桁が違うからだよ」

ドン・ロッゴが笑みを浮かべて唯桜を見る。

「誰が雑魚だコラ……ドヤ顔しやがって。今、泣かしてやるから待ってやがれ」

唯桜がドン・ロッゴに凄む。

「唯桜、何をしている。まだ殺れんのか」

背後から牛嶋の声がした。

「もうすぐ終わるぜ。どうせそんな事言っても変身もしてねえんだろ? 見なくても解るぜ」

唯桜は振り返りもせずに答えた。
実際その通りであった。
牛嶋は未だ変身せずにグラドスをあしらっていた。

牛嶋は愛刀があればそれだけで、変身しなくてもかなりの強さになる。
怪力でタフネスとは言え特別な能力を持たないグラドスは、抜刀した牛嶋にとっては物足りない相手である。
倒せはしなくとも、負ける様な相手では無かった。
唯桜がバイアーを倒すまで、延々あしらい続けるだけである。

「……誰も私の力がこれだけだとは言っていないんだが。早合点し過ぎじゃないかね」

ドン・ロッゴが冷ややかに言う。

「偉そうに。てめえ自身は何もしてねえじゃねえか」
「王と言うのはそう言う者だ。周りに力を統べて我が物とする。そうですな、ナイーダ姫?」

ドン・ロッゴが不意にナイーダに話を振った。

「気安く話し掛けんじゃねえよ。この女はなあ、てめえみてえな汚れたおっさんと違って真面目で世間知らずの理想主義者だ。ガキ臭えが現実に負けねえ様に歯ぁ食いしばって根性見せてんだよ。てめえなんかと一緒にすんじゃねえ」
「……なら、王とは呼べんな。王とはどう言う者か、私が見せてやろう」

ドン・ロッゴがうそぶく。

「……まだ何か能力を持ってるのかな?」

ゲニウスが興味深そうにドン・ロッゴを観察する。

「あれは……」

ゲニウスがドン・ロッゴの指に気が付いた。
良く見れば全ての指に指輪が嵌められている。

「ひょっとして……あれ全部、守護精霊って奴の指輪なのか……?」

流石にゲニウスも驚いた。
もしそうなら、他にまだ見せていない守護精霊が八体居ると言う事になる。

「十対二か……まずいね、こりゃ」

ゲニウスが冷や汗を拭う。
数的不利は避けたい所だ。
唯桜達よりも弱かったとしても、敵がある程度の強さを持っているなら数的有利で挽回可能である。

「唯桜! あまり時間を掛けちゃ駄目だ! 奥の手を出す前に頭を叩くんだ!」

ゲニウスが唯桜に命令する。

「ん? まあ、オヤジがそう言うなら」

唯桜は三度、爪を構える。

「あの小僧。また何かに気付いたのか……邪魔だな」

ドン・ロッゴが舌打ちをする。

「どうせお前にバイアーは見付けられん。先にガキを始末してやる」
「おい、タネはもうバレてるんだぜ? いつまで通用するつもりでいるんだ。この三流マジシャンが」

唯桜はそう言うと鼻から大きく息を吸い込んだ。

スウーんん……

確かにする。バイアーの匂いだ。
さっきまではドン・ロッゴの匂いだと思っていたが、これはバイアーの匂いだ。
今は別々に匂いを認識出来る。
唯桜の鼻は的確にバイアーの位置を捉えていた。

「そこだ!」

飛び出した唯桜が爪を振り上げた。
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