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本編
ドンの部屋
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「倒したのか……」
チャコが呟いた。
「いや」
唯桜が答える。
「勝手にくたばりやがった」
そう答えて唯桜はネルソンを見た。
最後までネルソンは唯桜の圧倒的な力に食らい付いて来ていた。
ベイリーフ・ブラックのパワーも落ちる事無く唯桜と張り合っていた。
しかし蓄積されるダメージ量が違った。
ネルソンは唯桜と打ち合う度に、計り知れないダメージを生身の体に受けていた。
守護精霊が無傷でも同調している契約者はそうはいかないのだ。
ほとんど同調の影響が無い、一割程度の同調率が当たり前の中で、ネルソンはフルパワーとも言える五割の同調率を目指した。
その結果がこれであった。
「な、俺の方が強えだろ」
唯桜はネルソンの亡骸にそう言うと変身を解いた。
ネルソンが倒れた事で、組織の構成員達ももう抵抗する者はいない。
アオイにも抵抗する気力は無かった。
自分はネルソンの様には出来ない。
そのネルソンがここまでやって敗れたのだ。
これは自分達全員の敗北と同義だ。
アオイはそう考えていた。
「良くやったね、唯桜」
ゲニウスが唯桜を褒める。
「有り難うございます」
唯桜が頭を下げた。
「さあ、もう『なぐりこみ』はお終いっ。帰ろ、かーえろ」
ゲニウスが帰路に就こうとした。
ガキ大将がケンカに勝って気分良く帰ろうとしているのと何ら変わりが無かった。
「オヤジ、スンマセン。ちょっと待ってもらえませんか」
唯桜が帰ろうとするゲニウスを呼び止める。
「なんだい?」
「あ、いや。マキが見当たらないんで」
そう言うと唯桜はアオイに尋ねた。
「おい。マキは……女は何処だ?」
アオイはネルソンを膝に抱いたまま答えた。
「アンタの女か。ドン・ロッゴの部屋に居る……」
そう言ってアオイはピタッと動きを止めた。
待てよ。
ドン・ロッゴの部屋?
そう言えば、これだけの騒ぎの中でドン・ロッゴは現れなかった。
建物が半壊する様な騒ぎである。
構成員もほぼ全員がここに集まっている。
なのに何故ドン・ロッゴは現れないのか。
アオイは妙な感覚に囚われた。
だが、何がどうなのか自分でも違和感に気付かなかった。
「そいつの部屋は何処だ。案内しろ」
唯桜がアオイに詰め寄る。
「オラが案内するよ」
コンタの声がした。
見るとコンタが側に立っている。
「コンタ……」
アオイは恨みがましい目でコンタを見た。
どうして加勢しなかったのか。
何故自分達を見捨てたのか。
アオイの目がそう訴えている。
「済まねえアオイ。言い訳するつもりはねえ。けんどオラ、ずっと組織のやり方には疑問を持っていたんだあ。だから迷っていた……」
コンタがその真意を語った。
「大神唯桜が帰ってくるかも知れねえと聞いた時、そんな訳ねえと思っただよ。フェイスofディストラクションの裁定から逃れられる者は居ねえだ。けんどもし大神唯桜がそれさえ破って帰ってくると言うのなら、それが出来ると言うのなら、それはオラに組織を抜けろと神様がおっしゃっていると思っただよ」
唯桜はコンタの言葉を聞いて鼻で笑った。
「人をコイントスの代わりに使うんじゃねえよ」
コンタが申し訳無さそうに頭を掻いた。
「解ってるだ。別に自分の責任を転化しようとしてる訳じゃねえ。結果がどっちに転んでも、その責任は負うつもりだった。ただホンのちょっとアンタに期待したかっただけだあ」
コンタはそう言って唯桜を見た。
「それで全部許してくれなんて、そんな事を言うつもりもねえ。さ、アンタの女房はこっちだあ」
コンタは唯桜から目を逸らす様に歩き出した。
唯桜は何も言わずに黙ってコンタの後に続いた。
「……じゃあ帰宅組はヘッジ・ブルに乗り込んで」
ゲニウスは特に何も無かった様に帰り支度を進めた。
ゲニウスと唯桜は親子の様である。
見た目は唯桜が父親でゲニウスが子供の様だが、中身は逆である。
ゲニウスが父親で唯桜は息子の様だった。
ゲニウスに忠実であり命令には絶対服従の唯桜だが、唯桜が個人的にする事や考える事にはゲニウスは唯桜を尊重した。
唯桜に考えがあるのなら、それはその様にすれば良い。
ゲニウスはそう考えて唯桜のする事にはなるべく口出ししなかった。
唯桜はコンタに着いて建物の上層階へと登って行った。
もう、誰も居ない。
さっきまでの騒動で人員は全て中庭に集まっていた。
静寂に包まれた通路を二人は歩く。
やがて通路の奥に一部屋だけ他とは違う立派な扉が現れる。
二人はその扉の前に立った。
「ここがドン・ロッゴの部屋だ」
コンタが緊張した面持ちで言った。
「お前、怖いのか?」
緊張を察して唯桜が言う。
「ああ。怖い。アンタをここまで連れて来たけんど、ハッキリ言って二人ともここで殺されるだろうと思ってるだ」
コンタが無理に笑う。
殺されるのを前提にそれでも一緒に来たって訳か。
唯桜はコンタをまじまじと見た。
そしてコンタがここまで恐れるドン・ロッゴと言う男に興味が湧いてきた。
「……面白え。じゃあ閻魔様に会ってみるか」
そう言って唯桜は、扉を勢い良く開いた。
チャコが呟いた。
「いや」
唯桜が答える。
「勝手にくたばりやがった」
そう答えて唯桜はネルソンを見た。
最後までネルソンは唯桜の圧倒的な力に食らい付いて来ていた。
ベイリーフ・ブラックのパワーも落ちる事無く唯桜と張り合っていた。
しかし蓄積されるダメージ量が違った。
ネルソンは唯桜と打ち合う度に、計り知れないダメージを生身の体に受けていた。
守護精霊が無傷でも同調している契約者はそうはいかないのだ。
ほとんど同調の影響が無い、一割程度の同調率が当たり前の中で、ネルソンはフルパワーとも言える五割の同調率を目指した。
その結果がこれであった。
「な、俺の方が強えだろ」
唯桜はネルソンの亡骸にそう言うと変身を解いた。
ネルソンが倒れた事で、組織の構成員達ももう抵抗する者はいない。
アオイにも抵抗する気力は無かった。
自分はネルソンの様には出来ない。
そのネルソンがここまでやって敗れたのだ。
これは自分達全員の敗北と同義だ。
アオイはそう考えていた。
「良くやったね、唯桜」
ゲニウスが唯桜を褒める。
「有り難うございます」
唯桜が頭を下げた。
「さあ、もう『なぐりこみ』はお終いっ。帰ろ、かーえろ」
ゲニウスが帰路に就こうとした。
ガキ大将がケンカに勝って気分良く帰ろうとしているのと何ら変わりが無かった。
「オヤジ、スンマセン。ちょっと待ってもらえませんか」
唯桜が帰ろうとするゲニウスを呼び止める。
「なんだい?」
「あ、いや。マキが見当たらないんで」
そう言うと唯桜はアオイに尋ねた。
「おい。マキは……女は何処だ?」
アオイはネルソンを膝に抱いたまま答えた。
「アンタの女か。ドン・ロッゴの部屋に居る……」
そう言ってアオイはピタッと動きを止めた。
待てよ。
ドン・ロッゴの部屋?
そう言えば、これだけの騒ぎの中でドン・ロッゴは現れなかった。
建物が半壊する様な騒ぎである。
構成員もほぼ全員がここに集まっている。
なのに何故ドン・ロッゴは現れないのか。
アオイは妙な感覚に囚われた。
だが、何がどうなのか自分でも違和感に気付かなかった。
「そいつの部屋は何処だ。案内しろ」
唯桜がアオイに詰め寄る。
「オラが案内するよ」
コンタの声がした。
見るとコンタが側に立っている。
「コンタ……」
アオイは恨みがましい目でコンタを見た。
どうして加勢しなかったのか。
何故自分達を見捨てたのか。
アオイの目がそう訴えている。
「済まねえアオイ。言い訳するつもりはねえ。けんどオラ、ずっと組織のやり方には疑問を持っていたんだあ。だから迷っていた……」
コンタがその真意を語った。
「大神唯桜が帰ってくるかも知れねえと聞いた時、そんな訳ねえと思っただよ。フェイスofディストラクションの裁定から逃れられる者は居ねえだ。けんどもし大神唯桜がそれさえ破って帰ってくると言うのなら、それが出来ると言うのなら、それはオラに組織を抜けろと神様がおっしゃっていると思っただよ」
唯桜はコンタの言葉を聞いて鼻で笑った。
「人をコイントスの代わりに使うんじゃねえよ」
コンタが申し訳無さそうに頭を掻いた。
「解ってるだ。別に自分の責任を転化しようとしてる訳じゃねえ。結果がどっちに転んでも、その責任は負うつもりだった。ただホンのちょっとアンタに期待したかっただけだあ」
コンタはそう言って唯桜を見た。
「それで全部許してくれなんて、そんな事を言うつもりもねえ。さ、アンタの女房はこっちだあ」
コンタは唯桜から目を逸らす様に歩き出した。
唯桜は何も言わずに黙ってコンタの後に続いた。
「……じゃあ帰宅組はヘッジ・ブルに乗り込んで」
ゲニウスは特に何も無かった様に帰り支度を進めた。
ゲニウスと唯桜は親子の様である。
見た目は唯桜が父親でゲニウスが子供の様だが、中身は逆である。
ゲニウスが父親で唯桜は息子の様だった。
ゲニウスに忠実であり命令には絶対服従の唯桜だが、唯桜が個人的にする事や考える事にはゲニウスは唯桜を尊重した。
唯桜に考えがあるのなら、それはその様にすれば良い。
ゲニウスはそう考えて唯桜のする事にはなるべく口出ししなかった。
唯桜はコンタに着いて建物の上層階へと登って行った。
もう、誰も居ない。
さっきまでの騒動で人員は全て中庭に集まっていた。
静寂に包まれた通路を二人は歩く。
やがて通路の奥に一部屋だけ他とは違う立派な扉が現れる。
二人はその扉の前に立った。
「ここがドン・ロッゴの部屋だ」
コンタが緊張した面持ちで言った。
「お前、怖いのか?」
緊張を察して唯桜が言う。
「ああ。怖い。アンタをここまで連れて来たけんど、ハッキリ言って二人ともここで殺されるだろうと思ってるだ」
コンタが無理に笑う。
殺されるのを前提にそれでも一緒に来たって訳か。
唯桜はコンタをまじまじと見た。
そしてコンタがここまで恐れるドン・ロッゴと言う男に興味が湧いてきた。
「……面白え。じゃあ閻魔様に会ってみるか」
そう言って唯桜は、扉を勢い良く開いた。
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