ドグラマ3

小松菜

文字の大きさ
上 下
54 / 100
本編

ドンの部屋

しおりを挟む
「倒したのか……」

チャコが呟いた。

「いや」

唯桜が答える。

「勝手にくたばりやがった」

そう答えて唯桜はネルソンを見た。
最後までネルソンは唯桜の圧倒的な力に食らい付いて来ていた。
ベイリーフ・ブラックのパワーも落ちる事無く唯桜と張り合っていた。

しかし蓄積されるダメージ量が違った。
ネルソンは唯桜と打ち合う度に、計り知れないダメージを生身の体に受けていた。
守護精霊が無傷でも同調している契約者はそうはいかないのだ。

ほとんど同調の影響が無い、一割程度の同調率が当たり前の中で、ネルソンはフルパワーとも言える五割の同調率を目指した。
その結果がこれであった。

「な、俺の方が強えだろ」

唯桜はネルソンの亡骸にそう言うと変身を解いた。
ネルソンが倒れた事で、組織の構成員達ももう抵抗する者はいない。
アオイにも抵抗する気力は無かった。

自分はネルソンの様には出来ない。
そのネルソンがここまでやって敗れたのだ。
これは自分達全員の敗北と同義だ。
アオイはそう考えていた。

「良くやったね、唯桜」

ゲニウスが唯桜を褒める。

「有り難うございます」

唯桜が頭を下げた。

「さあ、もう『なぐりこみ』はお終いっ。帰ろ、かーえろ」

ゲニウスが帰路に就こうとした。
ガキ大将がケンカに勝って気分良く帰ろうとしているのと何ら変わりが無かった。

「オヤジ、スンマセン。ちょっと待ってもらえませんか」

唯桜が帰ろうとするゲニウスを呼び止める。

「なんだい?」
「あ、いや。マキが見当たらないんで」

そう言うと唯桜はアオイに尋ねた。

「おい。マキは……女は何処だ?」

アオイはネルソンを膝に抱いたまま答えた。

「アンタの女か。ドン・ロッゴの部屋に居る……」

そう言ってアオイはピタッと動きを止めた。

待てよ。
ドン・ロッゴの部屋?
そう言えば、これだけの騒ぎの中でドン・ロッゴは現れなかった。
建物が半壊する様な騒ぎである。
構成員もほぼ全員がここに集まっている。
なのに何故ドン・ロッゴは現れないのか。

アオイは妙な感覚に囚われた。
だが、何がどうなのか自分でも違和感に気付かなかった。

「そいつの部屋は何処だ。案内しろ」

唯桜がアオイに詰め寄る。

「オラが案内するよ」

コンタの声がした。
見るとコンタが側に立っている。

「コンタ……」

アオイは恨みがましい目でコンタを見た。
どうして加勢しなかったのか。
何故自分達を見捨てたのか。
アオイの目がそう訴えている。

「済まねえアオイ。言い訳するつもりはねえ。けんどオラ、ずっと組織のやり方には疑問を持っていたんだあ。だから迷っていた……」

コンタがその真意を語った。

「大神唯桜が帰ってくるかも知れねえと聞いた時、そんな訳ねえと思っただよ。フェイスofディストラクションの裁定から逃れられる者は居ねえだ。けんどもし大神唯桜がそれさえ破って帰ってくると言うのなら、それが出来ると言うのなら、それはオラに組織を抜けろと神様がおっしゃっていると思っただよ」

唯桜はコンタの言葉を聞いて鼻で笑った。

「人をコイントスの代わりに使うんじゃねえよ」

コンタが申し訳無さそうに頭を掻いた。

「解ってるだ。別に自分の責任を転化しようとしてる訳じゃねえ。結果がどっちに転んでも、その責任は負うつもりだった。ただホンのちょっとアンタに期待したかっただけだあ」

コンタはそう言って唯桜を見た。

「それで全部許してくれなんて、そんな事を言うつもりもねえ。さ、アンタの女房はこっちだあ」

コンタは唯桜から目を逸らす様に歩き出した。
唯桜は何も言わずに黙ってコンタの後に続いた。

「……じゃあ帰宅組はヘッジ・ブルに乗り込んで」

ゲニウスは特に何も無かった様に帰り支度を進めた。
ゲニウスと唯桜は親子の様である。
見た目は唯桜が父親でゲニウスが子供の様だが、中身は逆である。
ゲニウスが父親で唯桜は息子の様だった。

ゲニウスに忠実であり命令には絶対服従の唯桜だが、唯桜が個人的にする事や考える事にはゲニウスは唯桜を尊重した。
唯桜に考えがあるのなら、それはその様にすれば良い。
ゲニウスはそう考えて唯桜のする事にはなるべく口出ししなかった。

唯桜はコンタに着いて建物の上層階へと登って行った。
もう、誰も居ない。
さっきまでの騒動で人員は全て中庭に集まっていた。

静寂に包まれた通路を二人は歩く。
やがて通路の奥に一部屋だけ他とは違う立派な扉が現れる。
二人はその扉の前に立った。

「ここがドン・ロッゴの部屋だ」

コンタが緊張した面持ちで言った。

「お前、怖いのか?」

緊張を察して唯桜が言う。

「ああ。怖い。アンタをここまで連れて来たけんど、ハッキリ言って二人ともここで殺されるだろうと思ってるだ」

コンタが無理に笑う。

殺されるのを前提にそれでも一緒に来たって訳か。
唯桜はコンタをまじまじと見た。
そしてコンタがここまで恐れるドン・ロッゴと言う男に興味が湧いてきた。

「……面白え。じゃあ閻魔様に会ってみるか」

そう言って唯桜は、扉を勢い良く開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...