ドグラマ3

小松菜

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本編

賽は投げられた

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牛嶋が操縦席に座り、その横にゲニウスが就いた。
例によって後部コンテナ内に、美紅を始めとした全員が乗っている。
即ち、ビビアン、ジン、チャコ、ロット、クイーンの六名である。

スピーカーから牛嶋の声が聞こえた。

「発進する。ベルトは締めておけ」

言い終わるのとほぼ同時にヘッジ・ブルは動き出す。
巨大な割に加速は速い。
一気にトップスピードに達する。

普通の人間ならGに振り回される所であるが、流石に六人は黙って座っていた。
もっとも初めての体験に驚いて、それ所では無い可能性もあるのだが。

発進して数分後、再び牛嶋の声が聞こえた。

「もう着くが、お屋形様が突っ込めと仰せだ。だから突っ込む。全員衝撃に備えろ」

美紅を除く五人は驚いた。
もう到着する事にも驚いたが、このまま建物に突っ込むとは。
壁や城門に突撃など、馬車では不可能である。

「え? え? まさか本当に!?」

クイーンが慌てた。
ビビアンは固く目を閉じて、肩のベルトを握り締めている。
チャコも冷静を装ってはいるが、動揺しているのが解る。

美紅は唯一と言って良いほど落ち着いていた。
ロットはそれを見て何となく安心した。
何度も経験しているであろう美紅が落ち着いているのだから、危険は無い事は解る。
同じくジンも腕組みをしてじっと待った。

「良し! 突っ込めえーっ!」

ゲニウスが正面を指差し、突撃を合図した。
牛嶋はヘッジ・ブルのパワーを一層上げる。
搭乗者の体に更なるGが掛かった。

バウンッ!

勢い良く丘を通過して、ヘッジ・ブルの巨体が軽く跳ね上がる。
エンジンの音が快調に唸りを上げた。

オオオオオオオオオオオオンッッ!

聞きなれないエンジン音に壁の改修工事を行っていた作業者が振り返る。
猛然と迫るヘッジ・ブルの圧倒的な迫力に、作業者は我先にと逃げ出した。

ドオオオーンッッ!

激しい音がして、ヘッジ・ブルは修理しかけの外壁に突っ込んだ。
ネグラム本部に巨大な鉄の箱がぶつかった。
目撃した町の人々は瞬く間に野次馬と化す。

泣く子も黙るネグラムである。
その本部に何だか解らない巨大な鉄の箱が突っ込んだのだ。
野次馬の数はどんどん増えていった。

「……びっくりしたあ。大丈夫かよ」

チャコが目を白黒させながら呟いた。

「さあ、行くわよ。ベルトを外してさっさと乗り込む」

美紅はそう言うと真っ先にベルトを外してハッチを開いた。
ヘッジ・ブルの先頭部分は軽く中庭に到達していた。首尾は上々である。

牛嶋とゲニウスもすぐに降りて来る。
それに遅れて五人が降りて来た。

「多しかこの辺りだったね」

ゲニウスは唯桜が消えた辺りに例の金属箱を手早く置いた。

ピー、ガチャガチャ。ツーツーツー。

箱は何やら動作音を発てながら作動している。

「今、唯桜を探している。同じ宇宙にいるなら探し出すのはそう難しく無い筈だ」

ゲニウスが箱を見守った。

「……ただ、あれが別の宇宙だと少々厄介だぞ」

ゲニウスは落ち着かない様子で合掌した手を口許に当てている。
早くしてくれ。ここは敵のど真ん中だ。
すぐに敵は来てしまう。
スピードが勝負の分かれ目なのだ。

「美紅、牛嶋さん、準備して。僕が合図したらジェネレーターを二つ繋いでオーバーロードさせるんだ。伝えるのはどんなやり方でも良い。あの箱にエネルギーを送り込むんだ」

美紅と牛嶋が、ハッと返事をした。
だが問題はその時なのだ。
無防備になった二人を攻められると最悪三人まとめて消えてしまう可能性もある。
ゲニウスにとって、これは賭けである。

「何の騒ぎだッ!」

最初にネルソンの声がした。
一番乗りはこの男だった。
入り口から現れると、中庭の状況に一瞬動きが止まった。

「……何だ……こりゃ?」

初めて見る光景にすぐには状況が呑み込めていない。

ガチャン。ピピピピピ!

鉄箱はレッドランプを点滅させながら、うるさく電子音を鳴らした。

「見付けた! 唯桜だ!」

ゲニウスが叫んだ。

「唯桜だと!?」

ネルソンがその名前に反応した。

「今だ! 始めて!」

ゲニウスの声を合図に、美紅と牛嶋が変身する。
蛇女、誘蛇魔人。
牛男、堅牛魔人。
一瞬でそれぞれ姿を変えると、自らの胸の装甲を剥がす様に無理矢理開いた。

中には改造魔人の心臓とも言える、ジェネレーターが入っている。
二人は自分のそれを掴んで、引きずり出した。

二つのジェネレーターを繋ぐ。
二人は顔を見合わせて頷いた。

キイイイイイイイイイイイインッッ……!

二つのジェネレーターは二人の意思を受けて、限界まで回転した。
一つでも恐ろしい程のエネルギーである。
それを二つ繋げてオーバーロードさせる。
普通に考えれば、町の一つくらい軽く消せる程のエネルギーだ。

ジェネレーターから出たコードを鉄箱につなげる。
鉄箱は真っ白に光った。白熱している。
この時点で既に美紅と牛嶋の意識は朦朧とし始めていた。

心臓を切り離しているも同然なのだ。
急がなければ彼ら自身も危険である。

「……貴様ら! その姿……解るぞ。大神唯桜の仲間だな。魔人会か!」

バレた。だが思ったよりは時間は稼げた様に思う。
だがそれでも、ここからピンチになるのは目に見えている。

「美紅……牛嶋さん。お願いだ、持ちこたえておくれよ」

ゲニウスは祈る様な気持ちで状況を見守った。
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