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本編
取り憑かれた
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「ただいま戻りましたー」
裏口からショーコが荷物を抱えて入って来た。
保存出来る物は食糧庫に保管しておかなければならない。
後からロット達も荷物を抱えて着いて行く。
食糧庫に全ての荷物を収納して、やっと買い出しの仕事は終了した。
「毎回こんなに大変なんですか? 男手が必要な時にはいつでも声を掛けて下さい」
ロットが言った。
「はい。ありがとうございます。助かりました」
ショーコが笑顔で礼を言う。
「今、お茶を淹れますね。食堂で待ってて下さい」
ショーコはそう言うと台所へと消えて行った。
ロット達は言われた通り食堂へ向かう。
ガチャ
ドアを開けて食堂に入ると、先に美紅とゲニウスが居た。
「何をしているんです?」
ロットが尋ねる。
「チェスだよ。部屋で見付けたんだ」
ゲニウスが嬉々として答えた。
「僕の相手は美紅しか務まらないからね。貴重な対戦相手だよ」
嬉しそうに答えるゲニウスを見ると、それでもわずかに勝っている。
だが、天才ゲニウスと互角に戦う美紅もかなり凄まじい。
「あーん。参りました、私の負けです」
美紅が負けを認めた。
ゲニウスがキャッキャと喜ぶ。
「美紅と遊ぶと、チェスも案外面白いんだなあって思えるよ」
ゲニウスが笑いながら言った。
まさに天才の御言葉である。
ジンもロットも返事に詰まった。
チャコに到ってはチェスは苦手である。駒を見るのも嫌だった。
「買い物に行ってたんでしょ? 唯桜は帰って来た? マッサージ頼みたいんだけど」
美紅がロットに尋ねた。
「それが……」
ロットが町であった事を話して聞かせる。
「へえ。不思議な事もあるもんだねえ」
ゲニウスが興味深そうに呟く。
「美紅さあん、マッサージならこの俺が引き受けますよ。これからはいつでも俺に言って下さい」
チャコがドンと胸を叩いた。
美紅が優しく微笑む。
「あら、チャコは優しいのね」
「いやいや。美紅さんの為なら、このくらいむしろご褒美ですよ」
チャコが笑う。
「……本音が出てるぞ」
ジンが突っ込んだ。
「しかし誰だろうね。この世界で唯桜がそんなに深い仲になる様な女の人って」
ゲニウスが腕組みをした。
真剣な表情だが、その仕草が見た目に可愛い。
その時、食堂のドアが開いた。
ガチャっと開いたドアから唯桜が入って来る。
一同が、おおっとどよめいた。
噂をすれば何とやらである。
「やあ、唯桜。大変だったそうだね。問題は無事解決したのかい?」
ゲニウスが尋ねた。
「……してないみたいだね」
だがすぐに前言を撤回する事になった。
唯桜の後ろにピッタリくっついて、上着の裾を小さく掴まえている女性がドアの陰から現れたからである。
「……お連れになったんですね、社長」
ショーコの冷たい声がする。
振り返ると、こっちのドアからはショーコがお茶を淹れたトレーを手に立っていた。
「まさかお屋敷に女を連れ込むとは……」
ショーコは静かにトレーをテーブルに置いた。
静かな怒気が一同に伝わる。
無表情なのに、虎か熊の様な威圧感を感じる。
ゲニウスに到っては、背後に一瞬阿修羅が見えた。
「従業員に示しが付きませんので、ほどほどになさって下さい。失礼します」
そう言ってショーコは静かに部屋を出て行った。
一同はそうしてやっと、金縛りから解放された。
「何か凄い怒ってるね……」
ゲニウスが呟いた。
美紅がジロジロと唯桜を見る。
「ふーん。その娘がアンタの女って訳? 私のハートを鷲掴みにしておきながら、こんな美人と何処で知り合ったのかしら」
美紅が嫌味ったらしく尋ねた。
女が唯桜の背後に隠れる。
「……この人、アナタの愛人? ……でもいいわ。アナタってモテるもの。私の元に帰って来てくれただけで、私は満足よ」
女は小さな声でそう言った。
珍しく唯桜はさっきから一言も喋らない。
ゲニウスは不思議に思った。
「唯桜?」
「……この女、何言っても話が通じねえ。仕方がねえから走って逃げたら、何処からか馬を持ち出して笑いながらここまで着いて来やがった」
一同はその光景を想像してみた。
必死に走って逃げる唯桜。
その後ろを風に髪をたなびかせて、高笑いしながら馬で追いかける女。
恐ろしい。
この唯桜の消沈具合も解る気がする。
これは、精神的な消耗から来る脱力感である。
ただし、美紅だけは大笑いしていた。
愛人と言われた事も気にならない様だ。
「あっはっはっはっはっはっはっ! アンタ走って町からここまで来……プーッ!」
堪えきれずに途中で噴き出す。
「ひー、もう駄目、その顔。こっち見ないで、あっはっはっはっはっはっはっ!」
唯桜の暗い顔がよっぽど面白いらしい。
流石のゲニウスも唯桜を気の毒に思うレベルである。
「……それで、そのお姉ちゃんどうするの?」
ゲニウスが尋ねた。
「……どうしましょう。オヤジ、何とかして下さいよお」
唯桜が泣きそうな顔でゲニウスを見た。
「あっはっはっはっはっはっはっ! その顔やめて!」
しばらく美紅の笑いが止む事は無さそうであった。
裏口からショーコが荷物を抱えて入って来た。
保存出来る物は食糧庫に保管しておかなければならない。
後からロット達も荷物を抱えて着いて行く。
食糧庫に全ての荷物を収納して、やっと買い出しの仕事は終了した。
「毎回こんなに大変なんですか? 男手が必要な時にはいつでも声を掛けて下さい」
ロットが言った。
「はい。ありがとうございます。助かりました」
ショーコが笑顔で礼を言う。
「今、お茶を淹れますね。食堂で待ってて下さい」
ショーコはそう言うと台所へと消えて行った。
ロット達は言われた通り食堂へ向かう。
ガチャ
ドアを開けて食堂に入ると、先に美紅とゲニウスが居た。
「何をしているんです?」
ロットが尋ねる。
「チェスだよ。部屋で見付けたんだ」
ゲニウスが嬉々として答えた。
「僕の相手は美紅しか務まらないからね。貴重な対戦相手だよ」
嬉しそうに答えるゲニウスを見ると、それでもわずかに勝っている。
だが、天才ゲニウスと互角に戦う美紅もかなり凄まじい。
「あーん。参りました、私の負けです」
美紅が負けを認めた。
ゲニウスがキャッキャと喜ぶ。
「美紅と遊ぶと、チェスも案外面白いんだなあって思えるよ」
ゲニウスが笑いながら言った。
まさに天才の御言葉である。
ジンもロットも返事に詰まった。
チャコに到ってはチェスは苦手である。駒を見るのも嫌だった。
「買い物に行ってたんでしょ? 唯桜は帰って来た? マッサージ頼みたいんだけど」
美紅がロットに尋ねた。
「それが……」
ロットが町であった事を話して聞かせる。
「へえ。不思議な事もあるもんだねえ」
ゲニウスが興味深そうに呟く。
「美紅さあん、マッサージならこの俺が引き受けますよ。これからはいつでも俺に言って下さい」
チャコがドンと胸を叩いた。
美紅が優しく微笑む。
「あら、チャコは優しいのね」
「いやいや。美紅さんの為なら、このくらいむしろご褒美ですよ」
チャコが笑う。
「……本音が出てるぞ」
ジンが突っ込んだ。
「しかし誰だろうね。この世界で唯桜がそんなに深い仲になる様な女の人って」
ゲニウスが腕組みをした。
真剣な表情だが、その仕草が見た目に可愛い。
その時、食堂のドアが開いた。
ガチャっと開いたドアから唯桜が入って来る。
一同が、おおっとどよめいた。
噂をすれば何とやらである。
「やあ、唯桜。大変だったそうだね。問題は無事解決したのかい?」
ゲニウスが尋ねた。
「……してないみたいだね」
だがすぐに前言を撤回する事になった。
唯桜の後ろにピッタリくっついて、上着の裾を小さく掴まえている女性がドアの陰から現れたからである。
「……お連れになったんですね、社長」
ショーコの冷たい声がする。
振り返ると、こっちのドアからはショーコがお茶を淹れたトレーを手に立っていた。
「まさかお屋敷に女を連れ込むとは……」
ショーコは静かにトレーをテーブルに置いた。
静かな怒気が一同に伝わる。
無表情なのに、虎か熊の様な威圧感を感じる。
ゲニウスに到っては、背後に一瞬阿修羅が見えた。
「従業員に示しが付きませんので、ほどほどになさって下さい。失礼します」
そう言ってショーコは静かに部屋を出て行った。
一同はそうしてやっと、金縛りから解放された。
「何か凄い怒ってるね……」
ゲニウスが呟いた。
美紅がジロジロと唯桜を見る。
「ふーん。その娘がアンタの女って訳? 私のハートを鷲掴みにしておきながら、こんな美人と何処で知り合ったのかしら」
美紅が嫌味ったらしく尋ねた。
女が唯桜の背後に隠れる。
「……この人、アナタの愛人? ……でもいいわ。アナタってモテるもの。私の元に帰って来てくれただけで、私は満足よ」
女は小さな声でそう言った。
珍しく唯桜はさっきから一言も喋らない。
ゲニウスは不思議に思った。
「唯桜?」
「……この女、何言っても話が通じねえ。仕方がねえから走って逃げたら、何処からか馬を持ち出して笑いながらここまで着いて来やがった」
一同はその光景を想像してみた。
必死に走って逃げる唯桜。
その後ろを風に髪をたなびかせて、高笑いしながら馬で追いかける女。
恐ろしい。
この唯桜の消沈具合も解る気がする。
これは、精神的な消耗から来る脱力感である。
ただし、美紅だけは大笑いしていた。
愛人と言われた事も気にならない様だ。
「あっはっはっはっはっはっはっ! アンタ走って町からここまで来……プーッ!」
堪えきれずに途中で噴き出す。
「ひー、もう駄目、その顔。こっち見ないで、あっはっはっはっはっはっはっ!」
唯桜の暗い顔がよっぽど面白いらしい。
流石のゲニウスも唯桜を気の毒に思うレベルである。
「……それで、そのお姉ちゃんどうするの?」
ゲニウスが尋ねた。
「……どうしましょう。オヤジ、何とかして下さいよお」
唯桜が泣きそうな顔でゲニウスを見た。
「あっはっはっはっはっはっはっ! その顔やめて!」
しばらく美紅の笑いが止む事は無さそうであった。
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