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妙な日常の始まり
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「吾輩は――――猫である!!」
「………………は?」
俺はある日、一匹の喋る蒼いの狸に出会った。
俺、黒埼隼人(くろさき はやと)は普通の高校生である。つい一時間前までは片手にコーヒーを、もう一方には新聞を持っていたはずの通常運行の高校生である。もう一言言えば、ちょっと弟が好きすぎる姉を持っている一男の子だ。
こないだ、二学年の勉強を終え、三学年へと変わり新しい日常、あるいは辛い日々がスタートしたはずなのだが、別段そのことに何の思い入れもなかった。そう、目の前で人間の言葉を話す蒼い狸が現れなければ。
どこからどう見て狸である。横から見ようが、上から見ようが、下から見ようが、完全無欠に蒼い狸である。最初は夢かと思って、狸を思いっきり殴ったら手が痛かったので夢ではないようだ。
ならば、これは一体どういうことだろうか――。
「ちょっ! なんで殴った!? マジで痛いんだけど! ねえ、聞いてます!?」
「あー、効いてる効いてる。マジで手が痛かった」
「そっちのきいてるじゃねー!!」
にしても、これはどういった魔法だ? いや、奇跡? むむ? やっぱり夢なんじゃないか?
別段、驚いた様子もなく、俺は今起こった事を淡々と判断して、どうしてこうなったのかを調べることにした。が、どうしてもわからないことがある。なぜ、狸が話している?
「なあ、狸。ちょっと尋ねるが――」
「吾輩は猫で――」
「そのネタはもういい。でだ。お前さん、なんでここにいる? どうして話せる?」
「ふん。それはだな。貴様を我らアルスマギカの夜会に――」
「おっと。時間だ。答えは帰ってきてからにしてくれ」
俺は話を打ち切りすぐにカバンを持って、狸をそのままに家を出た。
正直、ああいった面倒そうなことに関わるのは嫌いなのだ。それに、なんとなくだが狸が俺の下にやってきた理由は理解している。きっと、この力のせいだろう。
俺は頭で炎を思い浮かべると右手に発現するように念じる。すると、それが具現化されたように俺の右手に漆黒の炎が発現する。これは超常現象などではない。魔法、というものだ。
魔法とは、科学が発展したせいで歴史の闇に捨て去られた技術だ。贄や想像力を用いてこの世の全てに接続され得ると思われていたが、真理に近づくためには人間自体を贄にしなくてはいけないとわかり、危険だと判断。その後に現れた天才たちによって科学が提唱されて、今に至る。
なぜ、俺が魔法が使えるかというと、それは一途に親父のせいだ。俺の親父は天才的な魔術師、アレイスター・クロウリーの弟子だと言い張り、確かな力を有していた。同時に、変態であったがゆえに幼かった俺を使って魔術を発展させようと目論んだのだろう。毎日のように特訓させられ、簡単な魔術ならば扱えるようになった。というわけだ。
だが、俺が行えるのは自己強化と簡単なものの具現化。身体強化はトラックで轢かれても軽い怪我で済む程度で、具現化に至っては何を具現化させても黒いモノへと変化してしまうため中二病のやつが騒ぐ程度のものしか作れない。
そんな俺に用があるというあの蒼い狸はきっと勘違いか、人違いをしているのだろう。そういえば、あの狸はアルスマギカの夜会がどうのこうのと言っていたが、あれはどういう意味だったのだろうか。
朝から訳のわからない勧誘に遭いそうになったが、何とかそれを回避。帰ってもいる場合は丁重に断って追い返せば問題は皆無だろう。
そう思っていた時も俺にはありました。
幻想を崩すのは、いつだってブラコンの姉である。俺は学校までの道すがら、一本の電話で妙な世界へと連れて行かれることとなった。
宛先は姉こと祐実姉。俺の実の姉で、黒埼祐実(くろさき ゆみ)。親父の一番弟子であり、最強の魔術師を名乗っている変態である。実際にその実力は素晴らしいが、考えていることがやばいのだ。世界の真理を見るために何人もの人間を生贄に捧げ、裏社会の番人に捕まったとのことだったが、その祐実姉から電話がかかってきた。
裏の番人とは、魔術関連で問題を起こした者を捕らえ厳重な封印のもとで監視するという機関のことだ。正式には存在を否定、またはいないものとして扱われているがその被害に遭っている者は多い。と言っても、問題という問題を起こさなければ口出しはない。しかし、世界には人間を生贄に魔術をしようとする輩がいるわけで、そいつらを取り締まるためにも必要とされている機関だ。
『やっほ~。元気してたかな、はやちゃん!』
「なあ、どうして電話ができるんだよ。番人は? まさか脱獄か?」
やめてくれよ。被害は全部俺のところに来るんだぞ?
脱獄したのだとばかり思っていた俺は、祐実姉にそう聞くと、祐実姉は戸惑った声を出して、違うと否定した。
そして、
『違うよ~! ぶっ壊しちゃった!』
と、お茶目っ気な言い方で言ってきた。
いやいやいやいや! ぶっ壊しちゃったって、全然お茶目じゃないから! そもそも、それおかしいだろ! 核爆弾でも破壊不可能だって言われてる番人がいる墓所をどうやって破壊したんだよ!
いや、待て。そもそも、墓所から出てきたということは……。
「なあ、祐実姉。ひとつ聞いてもいいか?」
『な~に?』
「家に蒼い狸が現れたんだ。それって、祐実姉の仕業じゃないよな?」
『あ~。それはきっと私のせいじゃないと思うよ~。う~んとね。なんて説明したらいいのかな。それはきっと、アルスマギカの夜会っていう、魔術師たちの願いを叶えるための――』
「それ、話長くなる?」
『だいぶ!』
「じゃあ、あとにしてくれ。なんか、面倒事に絡まれた」
プチンと電話を切って、俺は目の前で俺を睨んでいるヤンキーを見つめる。どう見ても怒っていらっしゃる。実は電話に出るために裏路地に入ったのだが、そこでこのヤンキーたちとエンカウント。足元で肌を露出させながら声もなく縮こまっている女子を見る限りお楽しみだったのはわかるのだが、俺が現れたことで動揺したヤンキーたちが勝手に俺を敵認定したらしい。
と言っても、俺にはどうしようもないだろう。うん。どうしようもない。どうしようもないのだが……。
「おいテメェ。どういうことだ? ここは俺たちの縄張りだぞ、ごら!」
「おいおい。縄張りって、どこぞの野生動物だよ……。お前らあれか? メスを見るとハァハァ言っちゃう変態さんか?」
「なっ……い、いい度胸してんじゃねぇか。やっちまうぞ!」
流石に、女の子を黙って傷つけさせるわけにはいかないだろう。何より、あとで警察に追われるかもしれないという不安要素が大いに残る。
殺る気満々のヤンキーたちが鉄パイプやら、角材やらを持ち出してニヤニヤとこちらに近づいていくる。俺はというと、カバンを投げ出し、上着を脱いでワイシャツ姿になり、ワイシャツの袖をまくる。久々に喧嘩というものをやるが多分鈍っている、ということはないだろう。
親父が変態だったおかげか、俺は簡単な魔法を覚えた。同時に、魔法がそれほど開花しなかった俺のために親父はどこで習ってきたのか武術を俺に叩き込んだ。まあ、容量の悪い俺はその武術すらも一つを習得するだけで手一杯で結局出来損ないになってしまったが、それでも喧嘩程度なら勝てる。
その武術は、体の力を自由に操ることのできる『発勁』。発勁はそれ単体では武術ではない。だが、親父が教えてくれたのは発勁の全て。要するに、体の使い方を一から指導されたのだ。
俺は全身の力を抜き、立つことだけに集中する。大きく深呼吸して、向かってくる敵の攻撃を無駄のない移動で避け、相手の頭に手のひらを触れさせる。
触れるのと同時に、俺は足、膝、腰、肩、肘、手を同時に動かし、全身の体重を一気に敵の頭に向けて解き放つ。すると、襲ってきた男の体は頭に引っ張られるように吹き飛び、狭い路地だったため壁に激突した。
「完全零距離戦闘術、一の型 明鏡止水」
ふうっと息を吐いて、俺は残った男たちを見る。すると、男たちは思い出したかのように恐怖し、俺の方を見ながら、
「は、白迅の魔弾だ。今思い出したぞ! こ、こいつは白迅の魔弾だ!!」
「……なあ、その呼び名どうにかならないの? 確かに、中学の時にやんちゃはしたけどさ。って、もういないし……」
一人が逃げ出すとそれに釣られて何人もの男が逃げ出していった。俺の話もろくに聞かないその態度、教育がなっていないなって思うよな。てか、ゼロ距離って言ってるじゃん。どこをどう見たら魔弾になるんだよ。ったく。
さて、と俺は襲われていたであろう女子に向けて手を差し伸べる。そして気がついた。俺、この子助けてどうすればいんだ? と。
確かに、成り行きとはいえ助けた。だが、女子の服はボロボロにされていて外を出歩けるものではない。だが、俺の制服を貸してやるには肌の露出が多い。服屋に行くにも女子物の服を男子が買ったら変態以外の何者でもないだろう。
困った。これは非常に困ったぞ。
「おー。ここにいたんだ! 探しちゃったよ、はやちゃん!」
ふと、空を見上げるとそこにはよく見知った顔が。黒い髪に整った顔。布切れ一枚で美しい体を隠し、こちらに飛んでくるのは俺の姉ちゃん。黒埼祐実である。
どうしてここにいるかなど聞かずともわかるだろう。言葉から分かるように、俺を探していたのだ。久々の再開だが、この場では出会いたくなかった。
やがて、どんと地面を震わせながら祐実姉は地面に降り立った。
「おひさ!」
「おひさ。じゃねぇよ! はあ……なんで面倒事を増やすかな!」
「あれれ? そこにいるのは彼女さん? 野外!? 野外なの、はやちゃん!」
「何の話だ! コイツはさっき絡まれたヤンキーに襲われてた女の子、だと思う」
「だと思う? なんでそんなに歯切れ悪いの?」
「確認する前にヤンキーが襲ってきたんだよ。だから、その……多分助けたんだと思うんだけど」
ちらっと女子の方を見ると、女子は怖がりながらも俺の方を見て、明らかに震えていた。
その様子を見て、祐実姉は、
「よし! じゃあ、とりあえずお風呂行こうか!」
「どうしてそうなったんだよ……」
かくして、俺は徐々に妙な世界へと足を踏み入れつつあった。
「………………は?」
俺はある日、一匹の喋る蒼いの狸に出会った。
俺、黒埼隼人(くろさき はやと)は普通の高校生である。つい一時間前までは片手にコーヒーを、もう一方には新聞を持っていたはずの通常運行の高校生である。もう一言言えば、ちょっと弟が好きすぎる姉を持っている一男の子だ。
こないだ、二学年の勉強を終え、三学年へと変わり新しい日常、あるいは辛い日々がスタートしたはずなのだが、別段そのことに何の思い入れもなかった。そう、目の前で人間の言葉を話す蒼い狸が現れなければ。
どこからどう見て狸である。横から見ようが、上から見ようが、下から見ようが、完全無欠に蒼い狸である。最初は夢かと思って、狸を思いっきり殴ったら手が痛かったので夢ではないようだ。
ならば、これは一体どういうことだろうか――。
「ちょっ! なんで殴った!? マジで痛いんだけど! ねえ、聞いてます!?」
「あー、効いてる効いてる。マジで手が痛かった」
「そっちのきいてるじゃねー!!」
にしても、これはどういった魔法だ? いや、奇跡? むむ? やっぱり夢なんじゃないか?
別段、驚いた様子もなく、俺は今起こった事を淡々と判断して、どうしてこうなったのかを調べることにした。が、どうしてもわからないことがある。なぜ、狸が話している?
「なあ、狸。ちょっと尋ねるが――」
「吾輩は猫で――」
「そのネタはもういい。でだ。お前さん、なんでここにいる? どうして話せる?」
「ふん。それはだな。貴様を我らアルスマギカの夜会に――」
「おっと。時間だ。答えは帰ってきてからにしてくれ」
俺は話を打ち切りすぐにカバンを持って、狸をそのままに家を出た。
正直、ああいった面倒そうなことに関わるのは嫌いなのだ。それに、なんとなくだが狸が俺の下にやってきた理由は理解している。きっと、この力のせいだろう。
俺は頭で炎を思い浮かべると右手に発現するように念じる。すると、それが具現化されたように俺の右手に漆黒の炎が発現する。これは超常現象などではない。魔法、というものだ。
魔法とは、科学が発展したせいで歴史の闇に捨て去られた技術だ。贄や想像力を用いてこの世の全てに接続され得ると思われていたが、真理に近づくためには人間自体を贄にしなくてはいけないとわかり、危険だと判断。その後に現れた天才たちによって科学が提唱されて、今に至る。
なぜ、俺が魔法が使えるかというと、それは一途に親父のせいだ。俺の親父は天才的な魔術師、アレイスター・クロウリーの弟子だと言い張り、確かな力を有していた。同時に、変態であったがゆえに幼かった俺を使って魔術を発展させようと目論んだのだろう。毎日のように特訓させられ、簡単な魔術ならば扱えるようになった。というわけだ。
だが、俺が行えるのは自己強化と簡単なものの具現化。身体強化はトラックで轢かれても軽い怪我で済む程度で、具現化に至っては何を具現化させても黒いモノへと変化してしまうため中二病のやつが騒ぐ程度のものしか作れない。
そんな俺に用があるというあの蒼い狸はきっと勘違いか、人違いをしているのだろう。そういえば、あの狸はアルスマギカの夜会がどうのこうのと言っていたが、あれはどういう意味だったのだろうか。
朝から訳のわからない勧誘に遭いそうになったが、何とかそれを回避。帰ってもいる場合は丁重に断って追い返せば問題は皆無だろう。
そう思っていた時も俺にはありました。
幻想を崩すのは、いつだってブラコンの姉である。俺は学校までの道すがら、一本の電話で妙な世界へと連れて行かれることとなった。
宛先は姉こと祐実姉。俺の実の姉で、黒埼祐実(くろさき ゆみ)。親父の一番弟子であり、最強の魔術師を名乗っている変態である。実際にその実力は素晴らしいが、考えていることがやばいのだ。世界の真理を見るために何人もの人間を生贄に捧げ、裏社会の番人に捕まったとのことだったが、その祐実姉から電話がかかってきた。
裏の番人とは、魔術関連で問題を起こした者を捕らえ厳重な封印のもとで監視するという機関のことだ。正式には存在を否定、またはいないものとして扱われているがその被害に遭っている者は多い。と言っても、問題という問題を起こさなければ口出しはない。しかし、世界には人間を生贄に魔術をしようとする輩がいるわけで、そいつらを取り締まるためにも必要とされている機関だ。
『やっほ~。元気してたかな、はやちゃん!』
「なあ、どうして電話ができるんだよ。番人は? まさか脱獄か?」
やめてくれよ。被害は全部俺のところに来るんだぞ?
脱獄したのだとばかり思っていた俺は、祐実姉にそう聞くと、祐実姉は戸惑った声を出して、違うと否定した。
そして、
『違うよ~! ぶっ壊しちゃった!』
と、お茶目っ気な言い方で言ってきた。
いやいやいやいや! ぶっ壊しちゃったって、全然お茶目じゃないから! そもそも、それおかしいだろ! 核爆弾でも破壊不可能だって言われてる番人がいる墓所をどうやって破壊したんだよ!
いや、待て。そもそも、墓所から出てきたということは……。
「なあ、祐実姉。ひとつ聞いてもいいか?」
『な~に?』
「家に蒼い狸が現れたんだ。それって、祐実姉の仕業じゃないよな?」
『あ~。それはきっと私のせいじゃないと思うよ~。う~んとね。なんて説明したらいいのかな。それはきっと、アルスマギカの夜会っていう、魔術師たちの願いを叶えるための――』
「それ、話長くなる?」
『だいぶ!』
「じゃあ、あとにしてくれ。なんか、面倒事に絡まれた」
プチンと電話を切って、俺は目の前で俺を睨んでいるヤンキーを見つめる。どう見ても怒っていらっしゃる。実は電話に出るために裏路地に入ったのだが、そこでこのヤンキーたちとエンカウント。足元で肌を露出させながら声もなく縮こまっている女子を見る限りお楽しみだったのはわかるのだが、俺が現れたことで動揺したヤンキーたちが勝手に俺を敵認定したらしい。
と言っても、俺にはどうしようもないだろう。うん。どうしようもない。どうしようもないのだが……。
「おいテメェ。どういうことだ? ここは俺たちの縄張りだぞ、ごら!」
「おいおい。縄張りって、どこぞの野生動物だよ……。お前らあれか? メスを見るとハァハァ言っちゃう変態さんか?」
「なっ……い、いい度胸してんじゃねぇか。やっちまうぞ!」
流石に、女の子を黙って傷つけさせるわけにはいかないだろう。何より、あとで警察に追われるかもしれないという不安要素が大いに残る。
殺る気満々のヤンキーたちが鉄パイプやら、角材やらを持ち出してニヤニヤとこちらに近づいていくる。俺はというと、カバンを投げ出し、上着を脱いでワイシャツ姿になり、ワイシャツの袖をまくる。久々に喧嘩というものをやるが多分鈍っている、ということはないだろう。
親父が変態だったおかげか、俺は簡単な魔法を覚えた。同時に、魔法がそれほど開花しなかった俺のために親父はどこで習ってきたのか武術を俺に叩き込んだ。まあ、容量の悪い俺はその武術すらも一つを習得するだけで手一杯で結局出来損ないになってしまったが、それでも喧嘩程度なら勝てる。
その武術は、体の力を自由に操ることのできる『発勁』。発勁はそれ単体では武術ではない。だが、親父が教えてくれたのは発勁の全て。要するに、体の使い方を一から指導されたのだ。
俺は全身の力を抜き、立つことだけに集中する。大きく深呼吸して、向かってくる敵の攻撃を無駄のない移動で避け、相手の頭に手のひらを触れさせる。
触れるのと同時に、俺は足、膝、腰、肩、肘、手を同時に動かし、全身の体重を一気に敵の頭に向けて解き放つ。すると、襲ってきた男の体は頭に引っ張られるように吹き飛び、狭い路地だったため壁に激突した。
「完全零距離戦闘術、一の型 明鏡止水」
ふうっと息を吐いて、俺は残った男たちを見る。すると、男たちは思い出したかのように恐怖し、俺の方を見ながら、
「は、白迅の魔弾だ。今思い出したぞ! こ、こいつは白迅の魔弾だ!!」
「……なあ、その呼び名どうにかならないの? 確かに、中学の時にやんちゃはしたけどさ。って、もういないし……」
一人が逃げ出すとそれに釣られて何人もの男が逃げ出していった。俺の話もろくに聞かないその態度、教育がなっていないなって思うよな。てか、ゼロ距離って言ってるじゃん。どこをどう見たら魔弾になるんだよ。ったく。
さて、と俺は襲われていたであろう女子に向けて手を差し伸べる。そして気がついた。俺、この子助けてどうすればいんだ? と。
確かに、成り行きとはいえ助けた。だが、女子の服はボロボロにされていて外を出歩けるものではない。だが、俺の制服を貸してやるには肌の露出が多い。服屋に行くにも女子物の服を男子が買ったら変態以外の何者でもないだろう。
困った。これは非常に困ったぞ。
「おー。ここにいたんだ! 探しちゃったよ、はやちゃん!」
ふと、空を見上げるとそこにはよく見知った顔が。黒い髪に整った顔。布切れ一枚で美しい体を隠し、こちらに飛んでくるのは俺の姉ちゃん。黒埼祐実である。
どうしてここにいるかなど聞かずともわかるだろう。言葉から分かるように、俺を探していたのだ。久々の再開だが、この場では出会いたくなかった。
やがて、どんと地面を震わせながら祐実姉は地面に降り立った。
「おひさ!」
「おひさ。じゃねぇよ! はあ……なんで面倒事を増やすかな!」
「あれれ? そこにいるのは彼女さん? 野外!? 野外なの、はやちゃん!」
「何の話だ! コイツはさっき絡まれたヤンキーに襲われてた女の子、だと思う」
「だと思う? なんでそんなに歯切れ悪いの?」
「確認する前にヤンキーが襲ってきたんだよ。だから、その……多分助けたんだと思うんだけど」
ちらっと女子の方を見ると、女子は怖がりながらも俺の方を見て、明らかに震えていた。
その様子を見て、祐実姉は、
「よし! じゃあ、とりあえずお風呂行こうか!」
「どうしてそうなったんだよ……」
かくして、俺は徐々に妙な世界へと足を踏み入れつつあった。
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