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第三話 次男の死
22 「ユユラングはどうなるんですか!?」
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しばらく人混みを進んでいくと、艶のある板で作られた跳ね橋と人混みを宥めている使用人達の姿を認めた。
その中に赤い羽根付き帽を被った少年を見つけ、そちらに向かって進んでいく。
進んで行く最中改めてアレックスの姿を見ると、少年の顔には汗が滲んでいた。なんとか最前列に出てアレックスの前に立ち、名前を呼んだ。
「アレックス」
御者の少年は自分の顔を認めると、幽霊でも見たかのように目を見開く。
「セオドア様!?」
やや掠れた声で名前を叫ばれ、跳ね橋に集まっていた人達が何人もこちらを注目するのが分かった。セオドアという名前はこの人だかりで特別な魔力を持つもののようだ。
それに気付いたアレックスが人混みから自分を守るように慌てて腕を引くので、一際目立つ位置に引っ張りだされた。
「どうして……!」
疑問と非難が滲んだ声だった。驚いたアレックスの表情から察するに、この少年は自分が逃げたことを姉から聞いていたようだ。
「嫌になったんだ」
耳打ちをした従者が目を見開くのが見えた。魔女狩りでもしていたかのような喧騒が、標的を見付け一旦止まる。
「あれが……セオドア様?」
時が止まったような静けさが城門前に広がる中、誰かの呟きが妙に大きく聞こえた。しかしそれは一瞬だけで、すぐに盆をひっくり返したような騒ぎが周囲に広がった。
「あれはセオドア様だ! 昔祭典に出席されてたから間違いねぇ!」
「ユユラングはどうなるんですか!?」
「うちはこれからどうすりゃいいんだ!」
非難とも付かない叫びが次から次へと鼓膜に突き刺さる。
アレックスや騎士が自分を守るように前に出てくれたおかげで、領民に襟首を掴まれることはなかったが、助けを求めているような、罪人を掴まえるような腕は絶えずこちらに伸びていた。
みんなが自分を見ている状況は恐ろしい。父や兄はいつもこの視線を受けていたのかと思うと、彼らが人間ではない何者かに思えてくる。
「セオドア様、ひとまずこちらへ……」
すぐ後ろからアニーの声が聞こえてくる。聞き慣れた声はこんな状況でも聞き分けられるようだ。
腕を掴んできたアニーの手をそっと振り払う。
「セオドア様……!」
悲痛にも取れる叫びが耳を突く。
セオドアは一度唾を飲み、自分を奮い立たせるように拳を握った。深く息を吸い、父を思い出しながら声を張る。
「静かに!!」
胸を張り前を見ながら出した声は、自分で出した物とは思えないくらい大きな物だった。こんな大きな声は、生まれて初めて出したかもしれない。
「ユユラング伯爵家の次男セオドアが、亡き父兄に代わってこれからのことを話します!」
喉を震わせていく内に、先程の騒ぎがなかったことのように城門前に静けさが戻った。
だから人前に出るのは嫌いなんだ。すぐに注目される。
静かになった通りを見て内心舌を打つ。
野次を飛ばそうとしていた体格のいい男性が、周囲の人によって制せられていた。
周囲が静かになったことに胸を撫で下ろし、本格的に話に入る前に顔をアレックスに向ける。
「アレックス、クオナから連絡は来た?」
「まだ、です……けど」
いきなり話を振られたからか、従者は驚き顔で恐る恐る返してきた。
ということは、自分が逃げる前と何一つ状況は変わってないということだ。
「そうか」
何を話すか頭で道筋を立てるべく目を伏せる。
と、目の前に人が現れたことが地面に増えた影で分かった。
薄汚れた革製のブーツは見覚えがあり、すぐにジャックだと理解する。視線を上げると思った通り目の前にはジャックがいた。
顎を持ち上げたその表情は偉く挑戦的で、「聞いてやるよ」と言われているような気がする。
「まず初めに。僕はレイモンドの次男、シモンの弟のセオドアでユユラング伯爵家の人間です。今の今までろくに行事などに出ずサボっていた非礼をお詫びします……」
腰を折って頭を下げる。
この中にはきっと自分の顔を知らない人の方が多いはずだ。
「……僕は、つい先程までユユラングはもう終わりだ、自分さえ生きられればいいと思って、ユユラングからこっそり逃げようと思っていました」
前からではなく後ろからも視線が痛い。逃げ出したかったが、それは許されない。
「でもそれは自分が恥ずかしくなるだけの情けない物でした。こんな思いをするのなら現実に向き合おうと思える物でした」
息を吸う。
「皆さんもお察しだとは思いますが、ユユラングは今存続の危機に立たされています。父や兄、一緒に王都まで着いていってくれた人達を乗せた船が税と共に沈んだからです」
その中に赤い羽根付き帽を被った少年を見つけ、そちらに向かって進んでいく。
進んで行く最中改めてアレックスの姿を見ると、少年の顔には汗が滲んでいた。なんとか最前列に出てアレックスの前に立ち、名前を呼んだ。
「アレックス」
御者の少年は自分の顔を認めると、幽霊でも見たかのように目を見開く。
「セオドア様!?」
やや掠れた声で名前を叫ばれ、跳ね橋に集まっていた人達が何人もこちらを注目するのが分かった。セオドアという名前はこの人だかりで特別な魔力を持つもののようだ。
それに気付いたアレックスが人混みから自分を守るように慌てて腕を引くので、一際目立つ位置に引っ張りだされた。
「どうして……!」
疑問と非難が滲んだ声だった。驚いたアレックスの表情から察するに、この少年は自分が逃げたことを姉から聞いていたようだ。
「嫌になったんだ」
耳打ちをした従者が目を見開くのが見えた。魔女狩りでもしていたかのような喧騒が、標的を見付け一旦止まる。
「あれが……セオドア様?」
時が止まったような静けさが城門前に広がる中、誰かの呟きが妙に大きく聞こえた。しかしそれは一瞬だけで、すぐに盆をひっくり返したような騒ぎが周囲に広がった。
「あれはセオドア様だ! 昔祭典に出席されてたから間違いねぇ!」
「ユユラングはどうなるんですか!?」
「うちはこれからどうすりゃいいんだ!」
非難とも付かない叫びが次から次へと鼓膜に突き刺さる。
アレックスや騎士が自分を守るように前に出てくれたおかげで、領民に襟首を掴まれることはなかったが、助けを求めているような、罪人を掴まえるような腕は絶えずこちらに伸びていた。
みんなが自分を見ている状況は恐ろしい。父や兄はいつもこの視線を受けていたのかと思うと、彼らが人間ではない何者かに思えてくる。
「セオドア様、ひとまずこちらへ……」
すぐ後ろからアニーの声が聞こえてくる。聞き慣れた声はこんな状況でも聞き分けられるようだ。
腕を掴んできたアニーの手をそっと振り払う。
「セオドア様……!」
悲痛にも取れる叫びが耳を突く。
セオドアは一度唾を飲み、自分を奮い立たせるように拳を握った。深く息を吸い、父を思い出しながら声を張る。
「静かに!!」
胸を張り前を見ながら出した声は、自分で出した物とは思えないくらい大きな物だった。こんな大きな声は、生まれて初めて出したかもしれない。
「ユユラング伯爵家の次男セオドアが、亡き父兄に代わってこれからのことを話します!」
喉を震わせていく内に、先程の騒ぎがなかったことのように城門前に静けさが戻った。
だから人前に出るのは嫌いなんだ。すぐに注目される。
静かになった通りを見て内心舌を打つ。
野次を飛ばそうとしていた体格のいい男性が、周囲の人によって制せられていた。
周囲が静かになったことに胸を撫で下ろし、本格的に話に入る前に顔をアレックスに向ける。
「アレックス、クオナから連絡は来た?」
「まだ、です……けど」
いきなり話を振られたからか、従者は驚き顔で恐る恐る返してきた。
ということは、自分が逃げる前と何一つ状況は変わってないということだ。
「そうか」
何を話すか頭で道筋を立てるべく目を伏せる。
と、目の前に人が現れたことが地面に増えた影で分かった。
薄汚れた革製のブーツは見覚えがあり、すぐにジャックだと理解する。視線を上げると思った通り目の前にはジャックがいた。
顎を持ち上げたその表情は偉く挑戦的で、「聞いてやるよ」と言われているような気がする。
「まず初めに。僕はレイモンドの次男、シモンの弟のセオドアでユユラング伯爵家の人間です。今の今までろくに行事などに出ずサボっていた非礼をお詫びします……」
腰を折って頭を下げる。
この中にはきっと自分の顔を知らない人の方が多いはずだ。
「……僕は、つい先程までユユラングはもう終わりだ、自分さえ生きられればいいと思って、ユユラングからこっそり逃げようと思っていました」
前からではなく後ろからも視線が痛い。逃げ出したかったが、それは許されない。
「でもそれは自分が恥ずかしくなるだけの情けない物でした。こんな思いをするのなら現実に向き合おうと思える物でした」
息を吸う。
「皆さんもお察しだとは思いますが、ユユラングは今存続の危機に立たされています。父や兄、一緒に王都まで着いていってくれた人達を乗せた船が税と共に沈んだからです」
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