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第2章〜冒険の果て

51話〜通信用の水晶

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 ここはティールの街とロンテ村の間にある人気ひとけのない街道。

 ガルド達はスーザンとジルフォードの言い合いを見ていたが、マグドがガルドの裾をひっぱった。

 ガルドは裾を引っ張られ、マグドの方をみた。

 マグドはジルフォードに気づかれないようにガルドに通信用の水晶を渡した。

 ガルドは、マグドが何故水晶をよこしたのか分からなかったが、受け取り水晶を握っていると、

 “俺はジルフォードに顔を見られると不味い。どうにかここを回避したいが、どうしたらいいと思う?”

 ガルドは一瞬驚いたが、握っている水晶を見て、

 “この水晶は通信が出来るのか。とりあえず何とかしてみる。マグドはなるべく目立たねぇようにしていてくれ”

 ジルフォードはガルドの少し後にいたフードの男が気になり、

「ガルド様、その者はどなたですかな?いったい何故、深々と帽子を被り、この私から隠れるようにしておられるのか?」

「それは……。」

 そう言われガルドはどう言葉を返していいか分からず困っていると、ビスカがジルフォードの側までいき話かけた。

「ねぇ、ジルフォードさんってさぁ。面白い人だねぇ。んー、なるほどそんな事を思ってるんだぁ。ヘェ~。」

 ジルフォードはビスカを見て不思議に思い首を傾げた。

「はて?貴女は何が言いたいのか?まるで私の心の中を見透かしているような発言!それに、貴女は何者なのだ?」

「ん?何者って、私はビスカ=マードレアだよ!」

「マードレア……マードレア……えっ!マードレア?待て!確かマードレアといえば、大賢者ドルマノフ様も同じマードレアだったはず!貴女はまさか?」

「うん、ジルフォードさんが思っている通りだよ。」

 ジルフォードは驚き片膝をつき、

「なんと⁉︎まさかこのような所に、ドルマノフ様のお嬢様がいらっしゃるとは思いもよりませんでした。それにまさか、これほど可愛らしい方だったとは。なんと今日はいい日なのでしょう。」

「ねぇ、ちょっと待って⁉︎まさかイリス様のお子様が何故ここに?確か、ドルマノフ様とスカイネーブルにいる筈では?」

「あ~、それは、色々あってねぇ。」

 ビスカはジルフォードとスーザンとどうでもいい話を始めた。

 ガルドはビスカが機転を利かし話をすり替えた事に気づき、マグドに水晶を通し思念を送った。

 “ふぅ、なんとかビスカのお陰で誤魔化せたが、どうにかしねぇとな。”

 “ああ、済まない。”

 “何で謝る?別にお前が悪い訳じゃねぇだろう。”

 “うむ、そうなのだがな。”

 “それよりも、とにかくここを切り抜けなきゃならねぇ。いつまでも、ここにいる訳にもいかねぇしな。”

 ガルドはこの場をどう切り抜けるか、ひたすら考えていた。

(どうしたらいい。出来るなら、この場での戦闘は避けてぇしなぁ。かと言って、この2人から逃げるにしても……。)

 するとガルド目掛け小石が飛んできて、コツンと背中に当たった。

 ガルドはその方向を見ると、岩陰に2人組みの男女がいた。

 その2人……ジェシカとレフィカルが、合図を送っているのを見て、

(あの2人、誰だか知らねぇが。何か合図を出しているみてぇだが、まさかとは思うが……。)

 ガルドは前に向き直すと、

 “マグド、後ろを振り向かず聞いてくれ。俺の後ろに大きな岩がある。そこに2人組みの男女が隠れている。そいつらが、今俺に合図を送っていた。何の意味があるのかは分からねぇが、これは、俺の推測だが、あの2人俺達を助けようとしてるのかもしれねぇ。”

 “なるほど。だが、どうやって助けようとしてるんだ?”

 “それは、分からねぇが。とりあえずユリィナやマリアンヌやビスカに、この事を伝えてぇが流石にこの状況じゃ無理だ。”

 “そうなると、そいつらが何か仕掛けてきたら、ビスカ達に何らかの方法で伝えるか。もしくは、判断してもらうしかないな。”

 “あまり気が進まないが、今はこの状況をどんな方法でも切り抜けなきゃならねぇしな。ただ、大丈夫なのか?ユリィナとマリアンヌは?ビスカは大丈夫だとは思うが。”

 “ビ、ビスカは大丈夫ってあのな。それなら、ビスカは俺が守る!それで良いか?”

 “マグド、まさかお前、ビスカの事が好きなのか?”

 “あーいや、それはな。まぁとりあえず、その2人が何をしようとしてるかだな。”

 ガルドとマグドはジェシカとレフィカルが仕掛けてくるのを待つ事にした。


 一方ジェシカとレフィカルは岩陰に隠れ準備をしていた。

 レフィカルは、バッグの中から催眠ガスが入った小さめの筒を3個と煙幕の入った筒を3個取り出した。

 そして、ジェシカに煙幕の入った筒を3個渡すと、

「レフィカル。本当にこれ大丈夫なのよね?」

「大丈夫かどうかは分からないけど。とりあえずやってみるしかないだろう。それに、困ってるみたいだしな。」

「うん、そうだけどさぁ。まぁいいか、やるだけやって助けて安心させて依頼人の所に連れていく。」

「ああ、さて準備は出来た。後はあのガルドが俺たちの合図をどう捉えてくれたかだけどな。」

「うん、そうだね。」

 ジェシカは煙幕の筒を3本持ち蓋を開け、ガルド達目掛け投げた。

 レフィカルはそれを確認するとすかさず催眠ガスの筒を3本持ちガルド達目掛け投げた。

 そして、ジェシカとレフィカルはあらかじめ用意しておいた鼻と口だけを覆う事が出来るマスクをつけると、ガルド達の方に駆け出したのだった…。
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