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最終章〜終結。そして始まる

163話〜放置と恐怖感と龍装備と

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 ここはシェルズワールドの東側に位置する辺境の地にある名もなき城。

 現在__辺りは暗く、轟音が鳴り響いていた。城の中庭ではガインの能力により激しく揺れている。

 いやそれだけではない。東側の広い通路では、ブラグジオスが元の大きさになろうとしているため城全域に渡りそれ以上に揺れていた。



 そして__場所は東側の広い通路。ブラグジオスが完全な姿になるのをクロノア達は見守っている。

 そんな最中クロノア達の目の前を、デブピエロ悪魔が中庭を目指しノソノソと歩き出した。

(これって、凄くまずいんじゃ……)

(どうなってる? 中庭にいくつもりか)

(ブラグジオス。クッ、まだか。このままだと……)

 それをみたクロノアとクレイとタツキは、予想外の展開に驚き戸惑う。


 一方デブピエロ悪魔は巨大な体を音もたてず歩き中庭に続く壁の前で静止する。

「タ……イ……リョ……ウ……ナ、マ……ナ……カ……ン……チ……。コ……ノ……サ……キ……」

 そう言いながらブラグジオスは、巨大な両手を壁に翳して詠唱のような言葉を発し始めた。それは、神や幻獣であれば理解し得る特殊な言葉だ。



 場所は移り、神々の塔の最上階にある異空間漂う部屋。

 ラミアスは、名もなき城の東側の広い通路の画像をみていた。

「思ったよりも早く、ブラグジオスの魔力でできた化身が動き出してしまいました。……壁を魔法で破壊。これは……中庭に向かおうとしているようですね」

 無表情のままラミアスは、なぜデブピエロ悪魔が中庭に向かおうとしているのかと思考を巡らせる。

(……ゆっくりとでしたが、確かマナと言っていたように聞こえました。
 そうなると……もしかするとこれは、更にマナを蓄積し巨大化するつもりでは? もしそうだとしたら、大変なことになりかねません)

 そう思い画像の視点をブラグジオスへ移動した。そう、あとどのぐらいで元の大きさに戻るか確認するためだ。

「まだ時間がかかりそうですね。どうしましょう……力を貸すことは簡単ですが。この状況を的確に判断し解決できないようでは、この先に待つ困難など乗り越えられません」

 そう言うと画像を再びタツキに合わせる。すると無表情のまま顔を赤らめた。



 場所は中庭にある南側の祭壇。ガインは自分が発動させた能力があまりにも強大すぎて制御困難になりかけている。だが、それでもなんとか使いこなそうと耐えていた。

 その影響で周囲は、地響きと激しく揺れ今にも城が崩れそうである。


 __まあブラグジオスの影響もあるのだが__


 ノエルはいつもあまり使わない脳をフル回転させひたすら考えていた。

(どうすんのよ。これじゃ巻き込まれて『ナムゥ……』にゃ状態に、にゃっちゃうって……。
 いつも助けてくれるユウ兄は、にゃぜか猛スピードでミリアにゃんを抱きかかえて、そのまま中庭から出ていっちゃったし。クレイマルスにゃんはどこかに消えた。
 ハクリュウにゃんは、あのエルフの男とこっちみてるだけ……。
 でも、にゃんで動かにゃいの? いくら鈍感で慎重なハクリュウにゃんでもにゃんとかしようとするはず。
 今までも……ゲームの中だけど。面倒くさそうにだったけど、助けてくれたよね。だけど……にゃんで……)

 どうしていいか分からなくなり急に涙目になる。



 片やハクリュウは、イライラする気持ちをひたすら抑えて南側の祭壇の状況を見据えていた。

 (まだなのか? ……えっ、ちょっと待て!? ノエルの様子が変だ。まさか、なんかあったんじゃ……。もし何かあったらユウさんに怒られる……いや、絶対それだけじゃすまないっ!!)

 そう思うと顔が青ざめる。その後、もう一つサーチ監視スキルを発動させノエルの様子を探った。

(泣いてる? あのノエルが……。そっか、そうだよな。ここは、ゲームの中じゃない。体はリアルよりも強い。だけど内面は、リアルと変わらないし。
 この状況で怖がらないのがおかしいよな。って、なんだ? 急に手が震えてきた。まさか、こんな時に……)

 そう思い震える両手をみつめる。


 チラッとハクリュウをみたバルムは、様子がおかしいことに気づいた。

(……様子がおかしい。まさか、震えてるんじゃないだろうな。もしかしてこの場の空気にのまれたか?
 だとすれば、こういう場面に慣れていないってことか。確かに場慣れしてなきゃ、こんな状況で普通になんかしていらんねぇだろう。
 だが、このまんまじゃ自滅する。まあ俺には関係ないが……クッ、)

 そう思うも「ああ、クソッオォォォッ!!」と叫び、ハクリュウに歩み寄り胸ぐらをつかむ。と同時に、バルムはハクリュウの右頬を思いっきり殴った。


 __因みにハクリュウは、自分がこんな状態なためサーチスキルでバルムを監視していなかったのだ__


 ハクリュウはいきなり殴られよろめく。その後ハクリュウは、体勢を整えると痛い右頬を摩りながらバルムをキッと睨んだ。

「なんのつもりだ?」

「ほう。まだやる気力はありそうじゃねぇか。震えてたから、てっきり戦意を喪失したんかと思ったぜ」

「……。まさか殴ったのって、俺が震えてたからか?」

 そう問いかけられバルムは口角を上げニヤリと笑う。

「さあな。それよりも、思ってたより強いみてぇだな。お前の顔より、殴った俺の右手の方が腫れて痛いんだが……」

 そう言うと笑いながら腫れあがった右拳を摩った。

「……ありがとうございます。でも、なんで?」

「なんでか、か。……この状況じゃ、俺がどう足掻いたって無理だ。だが、お前ならなんとかできるんじゃないのか?」

「俺が……この状況を……」

 そう言われハクリュウは、南側の祭壇に視線を向け改めて現状を見据える。

「ああ、さっきのヤツタツキの方が強いみたいだが。お前にこの場を任せた、ってことは何か勝算があるんだろ。……違うか?」

「俺もよく分かってない。だが、誰かの合図を待てと言われてる」

「なるほどな。その合図で動くわけか。だからさっきのヤツは、俺を警戒して事実を言わず、なんらかの方法でお前にだけ伝えたわけか。まぁだから、どうするってわけじゃねぇがな」

 そう言いバルムは口角を上げ笑みを浮かべた。

「信じるのか?」

「ああ、この状況じゃどの道。……ガインは、助からねぇだろう。だが一握りでも、助かる方法があるならそっちを信じる。……一応、仲間だからな」

 そう言いハクリュウをジッとみやる。

「まぁ確かに、お前たちからすれば敵だ。疑いの目でみるのが当たり前。お前が話したことも真実じゃないかもしれねぇ。だが今の俺には何もできない、ガインを助けることもな……」

「本気で言ってるのか? 助からないって……」

「どうだろうな。だが、どうなんだ? お前ならできる、って口振りだが、」

 ハクリュウはそう聞かれ、ハッと思う。

(……ちょっと待て……震えが止まってる。まさか、わざとか。俺の恐怖心をなくすために……。確かそんな感じで言ってた気もするけど……)

 そう思ったあとハクリュウは、真剣な表情でバルムをみる。

「そうだな。俺にどこまでできるか分からない。だが流石にここは、本気を出さないとな」

 そう言い放つと決心しハクリュウは、即座にメニュー画面を開いた。

(どうする? 青龍装備は毎ターンMP回復。聖龍装備だと毎ターンMP回復の他、状態異常耐性がある。黒龍装備が特攻持ちで攻撃力高めの防御も他より高い。
 んー、双竜は覚醒スキル持ちで単体でも十分使えるんだけど……装備全部揃ってないしなぁ。……ああクソッ、考えてる余裕がない。……これにするか、)

 考えが纏まると、プリセットから【聖龍装備一式:ソードマスターバージョン・下】を選んだ。

 すると金色の龍の、重装鎧、重装ブーツ、兜、大剣、装備を一瞬で着替えた。

「ほう、金色の龍装備か。確かにさっきよりも、とんでもなく強くなってる。だが、なんで急に装備を変えた?」

「よく考えたら。今から起きることに対して、普段の装備で耐えられるのかと思ったからな」

 そう言いハクリュウは空を見上げる。

「なるほど、このあと何が起きるか分からねぇが。相当ヤバイもんが、上からくるみてぇだな」

 バルムも空をみてニヤッと笑う。

 そしてその後ハクリュウとバルムは、再び南側の祭壇を向き待機するのだった。
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