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‎𖤐 ̖́-‬

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 私は彼女に嫉妬していた。そうなんでも完璧に熟し、みんなから慕われ愛されている彼女が羨ましい。

 だけど、そう思っていても口に出せない。

 今日も彼女は……ブロンドの綺麗な長い髪を風になびかせながら、城の門を潜り王宮へと入ってくる。

 そんな彼女をみて、自分もあんな風になりたい。そう思いながら、王宮の使用人の部屋から窓の外を覗きみやる。


 いいなぁ。同じ二十歳でも全然、違う。私も彼女のように、スタイルも良く顔も小顔で誰からも愛される人になりたい。


 だけど私と彼女とでは、身分の差でさえも負けている。彼女の家が公爵家で、私の家は男爵家だ。

 でも彼女は、そんな素振りなどみせない……誰とでも気軽に話をする。なんで、そんなに完璧なのかと思う。


 そうこう考えていると、休憩の時間が終わる。私は他の侍女たちと、各部屋の掃除をするため持ち場まで急ぎ向かった。

 すると突然、彼女……ルイーナ・セリスが目の前に現れる。私は、ハッと驚き目を逸らした。


 なんで今日に限って――……。


 私は会釈をし俯くと、できるだけ目を合わせないようにする。そして、その場をやり過ごそうとした。

 だけど彼女は、私の行く手を遮り話しかけてくる。

「あらエマ・ジェリアじゃない。お久しぶりですね。でも、その格好は……。まさか、この王宮の侍女をされているの? ですが、なぜ貴女が」

 悪びれる様子もなく彼女は、そう私に問いかけた。

「あ、ルイーナ様……お久しぶりです。え、えっと……覚えていて頂きありがとうございます。ですが、この王宮の侍女をしていてはおかしいのですか?」

「ええ、勿論です。貴女のような魔術に優れた方が……なぜ侍女などをされているのかと、驚きましたので」

 そう言われ私は目を丸くする。そして、ルイーナをマジマジとみた。

「あ、あの~。確かに私は、魔術だけなら学園でトップでした。ですが他は然程、誉められるような要素もなく……全くゼロに等しかったので」

「それだけでも、凄いことなのでは? ずっと羨ましくみていました。貴女のように膨大な魔力と優れた魔術の知識を、私も欲しいと思っていましたのに」

 そう言いルイーナは、私を羨ましそうにみている。

 私はそれを聞き、エッと思い小首を傾げた。

「ですがルイーナ様は、剣の腕と学問など遥かに優秀でしたし。女性としても上品で……私なんかより、もっと優れていると思います」

「ハァ、貴女もそう思っていたとはね。これでも私は、みんなに負けないように日々努力をしていたのです。ただ、貴女にだけは勝てませんでしたが」

 それを聞き驚いた。そう完璧だと思っていたルイーナが、私に劣等感を覚えていたからだ。

 すると私は、今までルイーナに嫉妬していた自分が滑稽に思え「クスッ」と笑ってしまった。

「まさかルイーナ様も、私に嫉妬していたなんて思いませんでした」

「そ、そうなの? エマ。まさか、貴女も私に嫉妬を!」

 そう言われ私は、ウンと頷いた。

 その後、私はルイーナと友達になる。


 ◆◇◆◇◆◇


 それから月日が経ち……私はルイーナに言われ、王宮の魔道士となることを決意した。そして、再び勉強をし試験を受ける。

 その結果、なぜか余裕で受かってしまった。それも、いきなり特階級であるクリスタルの称号だ。だけど、そのことが信じられず……何かあるのではと思ってしまい断った。

 それを聞きつけたルイーナは、私の家へと押しかけてくる。そして、ドタドタと私の部屋に入ってくるなり怒鳴り散らす。

「どういう事ですの? 私と同じ階級をもらったというのに、なぜ断ったのですか!?」

 そうルイーナは、騎士として優れていた。そのため、特階級であるクリスタルの称号を持っていたのだ。

「そう言っても……いきなり、クリスタルだなんて信じられなくて」

「確かに私も、それを聞いた時は驚いたわ。ですが実技とテストの結果を見聞きし……なるほど、と思いましたのに」

 そう言われ私は、なんでそう思ったのか分からず首を傾げる。

「それは、どういう事……なぜそう思うのですか?」

「なぜって……実技で、上位クラス相手に総勝ちした挙句。魔術の基本から応用までのテストで、満点を取っておいて良くいうわね」

 そう言いルイーナは、私の顔をみると『ハァ~』っと息を漏らした。

「ちょっと待って! 確かに全員、倒した。だけど、あの人たちって上位クラスだったの? それに、テストがオール満点って……」

「やっぱりそうかぁ。その様子だと、ちゃんと確認してなかったようね。で、どうするのかしら?」

 そう聞かれ私は頭を抱える。そう折角のチャンスを棒に振ってしまったからだ。

「ど、どうしよう……」

「どうするって……決まってるでしょ! やる気があるのなら、まだ間に合いますわ」

 そう言いルイーナは、私の手を取り「行こう」と言ってくれた。


 ……凄く嬉しくて涙が出そう。


 私は、今までルイーナのことを妬んでいた自分を恥じた。そして、ルイーナに「ごめん」て謝り俯く。

 するとルイーナは、そんな私を察したのか「別に気にしてないわよ」と言う。その後、ニコリと上品に笑い返してくれた。

 そして私は急ぎ身支度を整えると、ルイーナと共に王宮に向かう。


 ◆◇◆◇◆◇


 王宮に着くと、二人で魔道士長がいる隊長室に向かった。

 隊長室に入るなり私は、もう一度だけ試験をして下さいとお願いをする。

 だけど、その必要はないと断られた。

 私はガッカリする。しかしそのあと出た言葉を聞き喜んだ。

 そう隊長から出た言葉、それは……「再試験の必要はない。――王宮魔道士になることを許可する」と言われた。

 なぜかと思う。でもその後、隣にいるルイーナの一言でその理由が分かった。

 そうルイーナが、隊長に話をつけていてくれたのだ。

 そのおかげもあり私は、無事に王宮の魔道士となることができた。


 その後、私はルイーナと一緒に騎士と魔道士として王宮に仕える。

 そしてお互い切磋琢磨しながら、私たちは頂点へと昇り詰めるのだった。――――【完】
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