22 / 29
22.
しおりを挟む
束の間、教室内を静寂が支配した。誰かがつばを飲み込む音が、拓海の耳に聞こえた。
やがて、七海が口を開いた。
「先生。松本君一人のせいじゃありません。みんなで話し合って決めたんです。チラシをまくことも、お金をもらうことも、みんなで決めたんです」
「その通りです」
海斗も、言葉を発した。
美咲も、目にうっすらと涙を浮かべながら頷いた。
「四人で協力してチラシを作って、お金を稼いでいたことを認めるんだな?」新垣先生が、四人に確認した。
四人は、同時に頷いた。
「よし、わかった」新垣先生が、何度か頷く。
「お前たちがやったことは、校則違反だということは、わかっているな?」
校則違反を指摘された拓海は、一瞬、言い返しそうになった。校則に書かれているのはアルバイトをしてはならないという内容であり、アルバイトとは他人に雇われてお金を稼ぐ行為である。自分たちは誰にも雇われていないし、自分たちのペースで働いているのだから勉強にも影響は出ない。
少し前に四人で議論をしてそのような見解に至っていたのだが、拓海は、言葉を飲み込んだ。
ここで口応えをすれば、学校側の態度を硬化させてしまうかもしれない。そうなれば、正直に認めたことが、意味をなさなくなる。
拓海は、他の三人とともに、「はい」と返事をした。
「ゴールデンウィーク期間中に、ほかのクラスの生徒がアルバイトをしていたことが発覚して、全体朝礼で校長先生からの訓示があったはずだ。その後の授業でも、なぜアルバイトを禁止しているのかについての説明をしたはずだろう。それなのに、なぜ止めなかったんだ?」
「すみません。何人かの人に、喜んでもらっていたので」
新垣先生の指摘に、拓海が代表して答えた。四人に対する質問に対しては拓海が代表して答えるという雰囲気が出来上がっていた。
「喜んでもらっていたとは、お金をもらった相手からか?」
「はい」
「だからと言って、校則を破ってもよいということにはならないよな?」
「はい」
拓海は、頭を下げた。海斗と七海、美咲も、頭を下げる。
「生徒が商売をするなんていうのは、わが校始まって以降初めてのことで、校長先生も、相当ショックを受けている。お前ら、本当に反省しろよ!」
新垣先生が、語尾を強めた。
四人は、弱弱しく返事をした。
「まぁ、すんでしまったことをとやかく言っても仕方がない。ともかく、もう二度とするな」
「はい」
「ただ、ことがことだからな。お前たちの親を呼んで、説明をする必要があると思う。なんせ、お金が絡んでいることだからな……」
親を呼ぶという言葉を耳にした拓海の胸に、痛みが走った。内緒でやっていたことに対して、親は、何と言うだろうか。
拓海の親は、正直に話せば、強くは怒らないタイプだった。反面、ウソがばれたときは、強く叱られる。
拓海は、憂鬱な気分になった。
事情をすべて話し終えた四人は、学校を後にした。
家に帰る足取りは重たかった。四人は、足を引きずるようにして歩いた。
「ばれちゃったなぁ……」海斗が、ぽつりと呟いた。
「ばれちゃったね」七海が、言葉を返す。しかし、顔の表情はすっきりとしているように、拓海の目には映った。
「これから、どうなるのかなぁ」拓海も、胸の内を言葉にした。不安でいっぱいだった。
「学校から親に連絡が行くんだよね?」美咲の顔も、不安で塗り固められている。
「うちの親、なんて言うのかなぁ」
「帰ったら、親に全部話すの?」
「話さなきゃいけないんだろうな」海斗が、泣きそうな表情を浮かべた。
「みんな、本当にごめんね」拓海は、三人に謝りたい気持ちでいっぱいだった。プロフィール付きのチラシにしようと言い出したのは、自分だったからだ。
三人に意見をする前に、このようなことが起こるかもしれないということを考えておくべきだった。今さら後悔しても遅かったが、みんなに迷惑をかけてしまったことを心の底から謝りたいという気持ちになっていた。
「拓ちゃんが謝る必要はないよ。みんなで決めたことなんだから」すかさず、七海がフォローの言葉を口にする。
「そうよ。プロフィールを載せたほうが反応が良くなるんじゃないかという理由で、みんなで決めたんじゃない」
「自分一人で責任を背負おうみたいなのは、やめろよな」
美咲と海斗も、みんなの責任なんだという言葉を口にした。
拓海は、四人の間での友情を感じ取った。それとともに、三人が自分のことを悪く思っていないこともわかり、ほっとした。
「先生の言葉じゃないけど、すんでしまったことをとやかく言っても仕方がないから、親にも正直に話して、今後のことは親や先生の言うことに従おうよ」
七海が、諭すように、はっきりとした口調で意見を口にした。
「そうだね。もうばれちゃったんだし、がたがた言っても仕方がないかもね」美咲も、すっきりとした表情を浮かべる。
海斗の顔にも、笑顔が戻った。
拓海も、胸の内がすっきりとしてくるのを感じた。このようになってしまった以上は、正直に話すしかない。そもそも、新垣先生から追及された時に、みんなに迷惑をかけないためには正直に話すしかないのだと決めたのだから。
拓海は、三人と話をしながら、家に帰った後に親にどのように話を切り出せばよいのかを、頭の中で考えた。
家に帰った拓海を、母親が、不安そうな顔で出迎えた。
すでに、学校からの連絡は来ていた。二日後の土曜日の放課後に、どちらかの親が学校に来てほしいと言われたということだった。
何があったのかと問われた拓海は、事情を説明した。
相手をした高齢者からお金を受け取っていたことを知った母親の表情が曇った。小遣いが欲しかったのなら、相談してくれたらよかったのにという言葉も口にする。
土曜日のことは、父親と相談してから決めるということだった。
自分の部屋に入った拓海は、すでに学校から家に連絡が来ていることや母親に事情を打ち明けたことを知らせようと、LINEのグループページを開いた。
そこには、すでに先着メッセージがあった。美咲からだった。
メッセージの内容は、拓海が伝えようとしたことと全く同じであった。四人の中で一番学校に近いところに住んでいるのは美咲であり、自分と同様、帰ってくるなり、親から何があったのかと聞かれたのだという。おそらく、海斗にも七海にも、同じような状況が起こっているはずだ。
拓海は、LINEに自分のメッセージを打ち込んだ。
間がなく、海斗と七海からもメッセージが送られてきた。二人とも、正直に事情を話したということだった。
拓海は、土曜日はどのような感じになるのだろうかということを想像した。
やがて、七海が口を開いた。
「先生。松本君一人のせいじゃありません。みんなで話し合って決めたんです。チラシをまくことも、お金をもらうことも、みんなで決めたんです」
「その通りです」
海斗も、言葉を発した。
美咲も、目にうっすらと涙を浮かべながら頷いた。
「四人で協力してチラシを作って、お金を稼いでいたことを認めるんだな?」新垣先生が、四人に確認した。
四人は、同時に頷いた。
「よし、わかった」新垣先生が、何度か頷く。
「お前たちがやったことは、校則違反だということは、わかっているな?」
校則違反を指摘された拓海は、一瞬、言い返しそうになった。校則に書かれているのはアルバイトをしてはならないという内容であり、アルバイトとは他人に雇われてお金を稼ぐ行為である。自分たちは誰にも雇われていないし、自分たちのペースで働いているのだから勉強にも影響は出ない。
少し前に四人で議論をしてそのような見解に至っていたのだが、拓海は、言葉を飲み込んだ。
ここで口応えをすれば、学校側の態度を硬化させてしまうかもしれない。そうなれば、正直に認めたことが、意味をなさなくなる。
拓海は、他の三人とともに、「はい」と返事をした。
「ゴールデンウィーク期間中に、ほかのクラスの生徒がアルバイトをしていたことが発覚して、全体朝礼で校長先生からの訓示があったはずだ。その後の授業でも、なぜアルバイトを禁止しているのかについての説明をしたはずだろう。それなのに、なぜ止めなかったんだ?」
「すみません。何人かの人に、喜んでもらっていたので」
新垣先生の指摘に、拓海が代表して答えた。四人に対する質問に対しては拓海が代表して答えるという雰囲気が出来上がっていた。
「喜んでもらっていたとは、お金をもらった相手からか?」
「はい」
「だからと言って、校則を破ってもよいということにはならないよな?」
「はい」
拓海は、頭を下げた。海斗と七海、美咲も、頭を下げる。
「生徒が商売をするなんていうのは、わが校始まって以降初めてのことで、校長先生も、相当ショックを受けている。お前ら、本当に反省しろよ!」
新垣先生が、語尾を強めた。
四人は、弱弱しく返事をした。
「まぁ、すんでしまったことをとやかく言っても仕方がない。ともかく、もう二度とするな」
「はい」
「ただ、ことがことだからな。お前たちの親を呼んで、説明をする必要があると思う。なんせ、お金が絡んでいることだからな……」
親を呼ぶという言葉を耳にした拓海の胸に、痛みが走った。内緒でやっていたことに対して、親は、何と言うだろうか。
拓海の親は、正直に話せば、強くは怒らないタイプだった。反面、ウソがばれたときは、強く叱られる。
拓海は、憂鬱な気分になった。
事情をすべて話し終えた四人は、学校を後にした。
家に帰る足取りは重たかった。四人は、足を引きずるようにして歩いた。
「ばれちゃったなぁ……」海斗が、ぽつりと呟いた。
「ばれちゃったね」七海が、言葉を返す。しかし、顔の表情はすっきりとしているように、拓海の目には映った。
「これから、どうなるのかなぁ」拓海も、胸の内を言葉にした。不安でいっぱいだった。
「学校から親に連絡が行くんだよね?」美咲の顔も、不安で塗り固められている。
「うちの親、なんて言うのかなぁ」
「帰ったら、親に全部話すの?」
「話さなきゃいけないんだろうな」海斗が、泣きそうな表情を浮かべた。
「みんな、本当にごめんね」拓海は、三人に謝りたい気持ちでいっぱいだった。プロフィール付きのチラシにしようと言い出したのは、自分だったからだ。
三人に意見をする前に、このようなことが起こるかもしれないということを考えておくべきだった。今さら後悔しても遅かったが、みんなに迷惑をかけてしまったことを心の底から謝りたいという気持ちになっていた。
「拓ちゃんが謝る必要はないよ。みんなで決めたことなんだから」すかさず、七海がフォローの言葉を口にする。
「そうよ。プロフィールを載せたほうが反応が良くなるんじゃないかという理由で、みんなで決めたんじゃない」
「自分一人で責任を背負おうみたいなのは、やめろよな」
美咲と海斗も、みんなの責任なんだという言葉を口にした。
拓海は、四人の間での友情を感じ取った。それとともに、三人が自分のことを悪く思っていないこともわかり、ほっとした。
「先生の言葉じゃないけど、すんでしまったことをとやかく言っても仕方がないから、親にも正直に話して、今後のことは親や先生の言うことに従おうよ」
七海が、諭すように、はっきりとした口調で意見を口にした。
「そうだね。もうばれちゃったんだし、がたがた言っても仕方がないかもね」美咲も、すっきりとした表情を浮かべる。
海斗の顔にも、笑顔が戻った。
拓海も、胸の内がすっきりとしてくるのを感じた。このようになってしまった以上は、正直に話すしかない。そもそも、新垣先生から追及された時に、みんなに迷惑をかけないためには正直に話すしかないのだと決めたのだから。
拓海は、三人と話をしながら、家に帰った後に親にどのように話を切り出せばよいのかを、頭の中で考えた。
家に帰った拓海を、母親が、不安そうな顔で出迎えた。
すでに、学校からの連絡は来ていた。二日後の土曜日の放課後に、どちらかの親が学校に来てほしいと言われたということだった。
何があったのかと問われた拓海は、事情を説明した。
相手をした高齢者からお金を受け取っていたことを知った母親の表情が曇った。小遣いが欲しかったのなら、相談してくれたらよかったのにという言葉も口にする。
土曜日のことは、父親と相談してから決めるということだった。
自分の部屋に入った拓海は、すでに学校から家に連絡が来ていることや母親に事情を打ち明けたことを知らせようと、LINEのグループページを開いた。
そこには、すでに先着メッセージがあった。美咲からだった。
メッセージの内容は、拓海が伝えようとしたことと全く同じであった。四人の中で一番学校に近いところに住んでいるのは美咲であり、自分と同様、帰ってくるなり、親から何があったのかと聞かれたのだという。おそらく、海斗にも七海にも、同じような状況が起こっているはずだ。
拓海は、LINEに自分のメッセージを打ち込んだ。
間がなく、海斗と七海からもメッセージが送られてきた。二人とも、正直に事情を話したということだった。
拓海は、土曜日はどのような感じになるのだろうかということを想像した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
夏の出来事
ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。
Close to you 可愛い女の子達は海斗を求めた
小鳥遊 正
青春
「横浜を舞台に思春期の恋模様を描く、ドタバタ青春ラブコメ!」
主人公は高校二男子・伏見海斗。父の再婚が決まり再婚相手と妹がゴールデンウィークに引越し、四人家族の新生活が始まった。連休が開けると幼馴染は海斗の異変に気付き女難の相を発見する。これと同時に海斗のモテ期が始まった。発見された当日に海斗は有る事件に遭遇する。友人思いで、家族思い、そして亡き母への深い思いを持つ海斗は交友範囲が広くなる度に心が揺れ惑わされます。横浜を舞台にキュンキュンな学園生活は夏休みに向けて盛り上がりを向かえます。夏休みの終わりに女難の相が招く海斗の運命は……。
〖完結〗インディアン・サマー -spring-
月波結
青春
大学生ハルの恋人は、一卵性双生児の母親同士から生まれた従兄弟のアキ、高校3年生。
ハルは悩み事があるけれど、大事な時期であり、年下でもあるアキに悩み事を相談できずにいる。
そんなある日、ハルは家を出て、街でカウンセラーのキョウジという男に助けられる。キョウジは神社の息子だが子供の頃の夢を叶えて今はカウンセラーをしている。
問題解決まで、彼の小さくて古いアパートにいてもいいというキョウジ。
信じてもいいのかな、と思いつつ、素直になれないハル。
放任主義を装うハルの母。
ハルの両親は離婚して、ハルは母親に引き取られた。なんだか馴染まない新しいマンションにいた日々。
心の中のもやもやが溜まる一方だったのだが、キョウジと過ごすうちに⋯⋯。
姉妹編に『インディアン・サマー -autumn-』があります。時系列的にはそちらが先ですが、spring単体でも楽しめると思います。よろしくお願いします。
明日は、屋上で会おう。
肥料
青春
「それに何の意味があるの………?」
「え、何?僕のこと好きなの?笑」
「今日も推しが尊すぎる!!!」
「へぇ、同性愛とか大丈夫なタイプ?」
「「明日は、屋上で会おう。」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
対人恐怖症のいじめられっ子「山森颯人」、
よく笑う謎のクラスメイト「菅野淳太」、
アニメが好きなの元気なオタク「竜胆楓」、
お金持ちの真面目な美少女「城戸早苗」の
4人が在籍する、とある中学校の話である。
放課後、屋上に続く階段にある踊り場で、静かに本を読んでいる颯人と、授業を抜けて颯人のもとへ来る淳太の2人が、毎日話していく旅にどんどん打ち解けていき…
放課後、3年B組の教室で何気のない会話をしている、颯人と淳太が熱い恋愛をしていると勘違いをしているオタクの楓と、淳太の幼なじみである、お金持ちなクラスのマドンナ、早苗の秘密の日常…
そして、この4人が1つの事件をきっかけに出会い、淳太と早苗が抱える大きな秘密を知ることとなる。
恋愛、ホラーありの長編小説。
※作者がサボりがちなので続かなかったらすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる