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放課後、拓海と海斗、七海、美咲の四人は、通学路からは外れた場所にある公園に向った。ゴールデンウィーク後半の商売の成果を報告し合うことが目的だった。マクドナルドやファミレスなどだと、知った人間に話を聞かれてしまう危険があった。
公園の奥へと入り、四人がけのテーブルの一つを占領した四人は、それぞれの前に、公園入口の自販機で買った飲み物を置いた。四人の周りには、少し離れたテーブルで話し込む三人組の老人がいるだけである。
報告は、拓海、海斗、美咲の順で行った。どのように相手をしたのかということや預かったお金のことなどを説明する。
美咲は、今回が初めてであり、依頼者のもとへ行くまでは不安でいっぱいだったのだが、相手がやさしい感じのおばあちゃんであり、楽しく時間を過ごせたということであった。
美咲が相手をした人とは、藤本さんが紹介してくれた去年旦那さんを亡くしたという女性であり、寂しさを紛らわすことができたと喜んでもらえたということだった。
海斗は、一度相手をした人からの二回目の依頼であり、すっかりと打ち解けたようである。
それぞれが手にしたお金は、拓海が預かることにした。
報告を終えた四人の話題が、新垣先生の説教へと変わった。
「いきなり当てられちゃって、びっくりしたよ」海斗が、何のために校則があるのかという質問への答えを求められたことを口にした。
「ちゃんと、答えていたじゃん」七海が、フォローする。
「答える前に、拓海君の方を見ていたでしょ」美咲が、笑いながら口にした。
海斗の席は拓海の席の二列真横にあり、美咲の席は二人の席より後方にあった。
「一瞬、後ろめたいみたいな気になっちゃってさ。条件反射的に、拓海の方を見ちゃったんだよね」
あのとき、拓海も同じような気分にかられていた。
「やっぱり、私たちのやっていることって、校則違反なのかな……」美咲が、不安げな表情を浮かべる。
「オレは、校則違反には当たらないと思っているよ」海斗が、自信ありげに答えた。
「根拠は、何なの?」風になびいた前髪をかき上げながら、七海が聞き返す。
「オレたちは、誰からも雇われてないじゃん。アルバイトは、他人から雇われて働くことでしょ。商売をしてはならないという校則もないしね。だから、校則違反じゃないと思っている」
「拓ちゃんは、どう思っているの?」
七海から問われた拓海は、海斗と同じ考えだと答えた。
「七海は、どう思っているんだよ?」海斗が、七海に視線を向ける。
「微妙だよね。親や学校の許しを得ないで働いていることには変わりはないわけだから、そういう意味では校則違反だと言われても仕方がないのかもしれないけど、海ちゃんが言っていることにも一理あると思うし。どうなんだろうね」
「大丈夫だよ。校則集に書かれてあることが校則なんだから。商売をしてはならないなんてことは、どこにも書かれていないんだからさぁ」
「でも、校則で書かれているアルバイトという言葉の意味が働くこと全般を言っているのだったら、アウトだよ」
「先生が、保護することの意味をしゃべっていたじゃん。大人と同じように働かされることで怪我や病気になる危険性が増すことから守ることと、教育の邪魔になることから守ることだってさ。オレたちは、誰かから命令されて働いているわけではないんだし、自分たちのペースでやっているんだから、保護するためにアルバイトを禁止している校則には当てはまらないって!」
「オレも、そう思うな」
拓海は、海斗の主張を弁護した。自分たちのしていることは、新垣先生が口にした保護すべきことの趣旨には該当しないと思った。自分たちのことを正当化しようという気持ちが働いていることも否定はできなかったが。
「もう、やっちゃったんだし、今さら深く考えても仕方がないのかもしれないね」校則違反なのかどうなのかを言い出した美咲も、さばさばとした表情を浮かべた。
「みんながそう思っているのだったら、私はそれでいいんだけど」七海も、納得したようであった。
「ところでさぁ、またチラシをまいた方がいいのかな?」校則違反かどうかの議論が一段落した後、海斗が、三人に問いかけた。
最初のチラシをまいてから半月以上が経っていたが、今のところ、孫代行のサービスを利用してくれた人は四人しかいない。拓海たち四人は、孫代行に割くための時間をまだ作れる状況にあった。
「そろそろ、まいた方がいいのかもしれないね」七海が頷く。
「まくとして、最初に作ったチラシをまくの?」
「それでいいんじゃないのか」
美咲からの問いかけに、海斗が、当然だろうというような顔で答えた。
それを見た七海が、内容を見直した方がよいのではないかという意見を口にした。チラシの内容にインパクトがなかったから、四人からしか反応がなかったのではないのかというのが理由だった。
「そうなんかなぁ……」海斗の表情が、曇る。
「前にまいたチラシを、前とは違うところにまけばいいんじゃないのかなぁ」今あるチラシをもう少し遠方にまけばいいのではないかというのが美咲の意見だった。四人で孫代行を考えたときには、電車を使って移動することも想定していたことを、拓海は思い浮かべた。
「でも、あれだけまいたのに、反応は四人なんだよ。しかも、そのうちの一人は最初に利用してくれた人からの紹介だったわけだから、実質は三人なわけじゃん」七海も譲らない。
四人のうちの一人は藤本さんからの紹介だったことを考えると、チラシによる効果は実質三人ということになる。千枚まいて三人からしか反応がなかったことをどう考えるかの問題だった。
美咲と海斗、七海との間で、意見が分かれた。
三人の視線が、拓海に向けられる。リーダーとしての決断が迫られていた。
拓海自身の考えは、チラシの内容を見直したうえで、もう一度自転車で移動できる範囲にまくのがいいであった。理由は、遠方に出張する形を取ると時間の効率が悪くなるからだった。
もう少し、自分たちのことを詳しく紹介する内容にして同じようなところにまいたら、違った結果が出てくるのではないだろうか。
そこまでやって結果が変わらないのであれば、答えは、違うところにまいた方がよいという風に決まってくる。海斗や美咲が別の内容を考えるのが面倒くさいと思っているのであれば、自分が内容を考えてもよい。
拓海の頭の中に、藤本さんから教わった言葉が浮かんできた。失敗は成功のもとであり、他人への迷惑を最小に食い止めながらその後は迷惑をかけないための決断をすればいいという言葉であった。
今回は、迷うことなく決断できそうである。
拓海は、三人に、自分たちのことをもう少し詳しく紹介したチラシに作り直して、前と同じようなところにまき直そうよと口にした。自分が内容を考えてもいいということも口にする。
海斗と美咲も、拓海の意見に従うと言ってくれた。
公園の奥へと入り、四人がけのテーブルの一つを占領した四人は、それぞれの前に、公園入口の自販機で買った飲み物を置いた。四人の周りには、少し離れたテーブルで話し込む三人組の老人がいるだけである。
報告は、拓海、海斗、美咲の順で行った。どのように相手をしたのかということや預かったお金のことなどを説明する。
美咲は、今回が初めてであり、依頼者のもとへ行くまでは不安でいっぱいだったのだが、相手がやさしい感じのおばあちゃんであり、楽しく時間を過ごせたということであった。
美咲が相手をした人とは、藤本さんが紹介してくれた去年旦那さんを亡くしたという女性であり、寂しさを紛らわすことができたと喜んでもらえたということだった。
海斗は、一度相手をした人からの二回目の依頼であり、すっかりと打ち解けたようである。
それぞれが手にしたお金は、拓海が預かることにした。
報告を終えた四人の話題が、新垣先生の説教へと変わった。
「いきなり当てられちゃって、びっくりしたよ」海斗が、何のために校則があるのかという質問への答えを求められたことを口にした。
「ちゃんと、答えていたじゃん」七海が、フォローする。
「答える前に、拓海君の方を見ていたでしょ」美咲が、笑いながら口にした。
海斗の席は拓海の席の二列真横にあり、美咲の席は二人の席より後方にあった。
「一瞬、後ろめたいみたいな気になっちゃってさ。条件反射的に、拓海の方を見ちゃったんだよね」
あのとき、拓海も同じような気分にかられていた。
「やっぱり、私たちのやっていることって、校則違反なのかな……」美咲が、不安げな表情を浮かべる。
「オレは、校則違反には当たらないと思っているよ」海斗が、自信ありげに答えた。
「根拠は、何なの?」風になびいた前髪をかき上げながら、七海が聞き返す。
「オレたちは、誰からも雇われてないじゃん。アルバイトは、他人から雇われて働くことでしょ。商売をしてはならないという校則もないしね。だから、校則違反じゃないと思っている」
「拓ちゃんは、どう思っているの?」
七海から問われた拓海は、海斗と同じ考えだと答えた。
「七海は、どう思っているんだよ?」海斗が、七海に視線を向ける。
「微妙だよね。親や学校の許しを得ないで働いていることには変わりはないわけだから、そういう意味では校則違反だと言われても仕方がないのかもしれないけど、海ちゃんが言っていることにも一理あると思うし。どうなんだろうね」
「大丈夫だよ。校則集に書かれてあることが校則なんだから。商売をしてはならないなんてことは、どこにも書かれていないんだからさぁ」
「でも、校則で書かれているアルバイトという言葉の意味が働くこと全般を言っているのだったら、アウトだよ」
「先生が、保護することの意味をしゃべっていたじゃん。大人と同じように働かされることで怪我や病気になる危険性が増すことから守ることと、教育の邪魔になることから守ることだってさ。オレたちは、誰かから命令されて働いているわけではないんだし、自分たちのペースでやっているんだから、保護するためにアルバイトを禁止している校則には当てはまらないって!」
「オレも、そう思うな」
拓海は、海斗の主張を弁護した。自分たちのしていることは、新垣先生が口にした保護すべきことの趣旨には該当しないと思った。自分たちのことを正当化しようという気持ちが働いていることも否定はできなかったが。
「もう、やっちゃったんだし、今さら深く考えても仕方がないのかもしれないね」校則違反なのかどうなのかを言い出した美咲も、さばさばとした表情を浮かべた。
「みんながそう思っているのだったら、私はそれでいいんだけど」七海も、納得したようであった。
「ところでさぁ、またチラシをまいた方がいいのかな?」校則違反かどうかの議論が一段落した後、海斗が、三人に問いかけた。
最初のチラシをまいてから半月以上が経っていたが、今のところ、孫代行のサービスを利用してくれた人は四人しかいない。拓海たち四人は、孫代行に割くための時間をまだ作れる状況にあった。
「そろそろ、まいた方がいいのかもしれないね」七海が頷く。
「まくとして、最初に作ったチラシをまくの?」
「それでいいんじゃないのか」
美咲からの問いかけに、海斗が、当然だろうというような顔で答えた。
それを見た七海が、内容を見直した方がよいのではないかという意見を口にした。チラシの内容にインパクトがなかったから、四人からしか反応がなかったのではないのかというのが理由だった。
「そうなんかなぁ……」海斗の表情が、曇る。
「前にまいたチラシを、前とは違うところにまけばいいんじゃないのかなぁ」今あるチラシをもう少し遠方にまけばいいのではないかというのが美咲の意見だった。四人で孫代行を考えたときには、電車を使って移動することも想定していたことを、拓海は思い浮かべた。
「でも、あれだけまいたのに、反応は四人なんだよ。しかも、そのうちの一人は最初に利用してくれた人からの紹介だったわけだから、実質は三人なわけじゃん」七海も譲らない。
四人のうちの一人は藤本さんからの紹介だったことを考えると、チラシによる効果は実質三人ということになる。千枚まいて三人からしか反応がなかったことをどう考えるかの問題だった。
美咲と海斗、七海との間で、意見が分かれた。
三人の視線が、拓海に向けられる。リーダーとしての決断が迫られていた。
拓海自身の考えは、チラシの内容を見直したうえで、もう一度自転車で移動できる範囲にまくのがいいであった。理由は、遠方に出張する形を取ると時間の効率が悪くなるからだった。
もう少し、自分たちのことを詳しく紹介する内容にして同じようなところにまいたら、違った結果が出てくるのではないだろうか。
そこまでやって結果が変わらないのであれば、答えは、違うところにまいた方がよいという風に決まってくる。海斗や美咲が別の内容を考えるのが面倒くさいと思っているのであれば、自分が内容を考えてもよい。
拓海の頭の中に、藤本さんから教わった言葉が浮かんできた。失敗は成功のもとであり、他人への迷惑を最小に食い止めながらその後は迷惑をかけないための決断をすればいいという言葉であった。
今回は、迷うことなく決断できそうである。
拓海は、三人に、自分たちのことをもう少し詳しく紹介したチラシに作り直して、前と同じようなところにまき直そうよと口にした。自分が内容を考えてもいいということも口にする。
海斗と美咲も、拓海の意見に従うと言ってくれた。
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