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腐々
腐々 その4
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お堂の扉は閉められていたが、格子から中の様子が確認できた。
中心に日本人形の様のような女性の像が置いてあり、それを中心に神棚のように諸々のお供え物が置いてあるといった感じだ。
お堂の看板「あかがね姫」のストーリーを確認し、写真撮影を何枚か。
M川氏に車で駅前まで送っていただき、さらにあかがね姫の資料の書類までいただいた。これは嬉しい。
観光案内所の皆様に丁寧にお礼を言い、取材はいったん完了とした。
さて、そんなわけで俺は、観光マップに載っていた温泉にやってきた。
山の麓に建っており、木造の建物の周りは木々に囲まれている。創業は江戸時代からだそうで、町の歴史を感じさせてくれる。
俺は温泉でひとっ風呂浴び、喫煙所でタバコを吸いながらあかがね姫の資料に目を通していた。
あかがね姫の話のあらすじは大体こんな感じだ。
その昔、この地方を収める殿様の娘にあかがね姫がいた。(年代不明。統治者も大名か貴族か寺社か国人かも不明)
ある時、この地によその勢力が攻め込んできて戦となった。(この地方での合戦の記録は確認できたが、どの合戦かは特定できず)
戦には敗れ、居城は炎に包まれた。(複数の城跡は確認できたが特定できず) あかがね姫は複数の従者と落ち延びた。
しかし、追手の捜索が厳しく、姫たち一行は洞窟の中に身を隠したという。(すでに採掘などで坑道があったのだと思われる)
姫たち一行は一旦は難を逃れた様だが、追手の目を気にしてか脱出が叶わず、やがて時が流れた。(この坑道はすでに採掘は終了していたのか?)
ある時、村人たちは坑道の中で複数の白骨死体を発見した。(どれぐらい年月が経ったのかは不明)
しかし、その複数体ある人骨の中に一人だけ座っている人影があった。
それは、あかがね姫であった。
あかがね姫はもちろん、死亡していたのだが、他の人物とは違い、生前の姿のまま、その場に座っている死体として発見された。
村人は驚愕し、恐れおののき、そして姫の身に起きた出来事を哀れに思い涙した。
村人たちは姫を弔い、そこにお堂を立てたという。
そして、現在に至るという。これが「あかがね姫」の伝説だ。
いかにも昔話といった感じの話ではあるが、そこは民間伝承のさだめ。
口伝などによって伝わるため、時代の影響などを受けて形は変わっていくもの。たとば「あかがね」という部分。これは漢字で書くと「銅」。鉄の「くろがね」とか金の「こがね」とか言った感じの和名だ。銅の鉱山跡の地元らしいネーミングではないか。
というわけでこの姫様の本名は不明。ではただの作り話の姫様かといえば、そうとも言い切れない。
古来より人類は鉱物資源を手にし、勢力を築いてきているからだ。紀元前のヒッタイト王国は製鉄の技術を発展させ、それまでの青銅器時代から脱却し大いに勢力を拡大した。また中世のモンゴル帝国は各国に侵略を繰り返し、イナゴのような解釈をされてきたが、鉱山資源を奪うのが目的の戦略だったという説もある。
鉱山資源がいかに重要な戦略か。それは日本の地方の大名たちにとっても同じであるといえる。有数の銅の採掘資源を各施療が奪い合った、とは想像に難くない。その中でどかの家の名もなき姫が非業の死を遂げた、というようなことは起こっていてもおかしくないだろう。
ではここからさらに、このあかがね姫のオカルト成分に切り込んでいく。
姫は死亡していたが、死体が生前のままだった、という点だ。これには2つの可能性が考えられる。
一つ目は「屍蝋(しろう)」と呼ばれる現象だ。
死体は言っての条件下において腐敗せず、その体が蝋状になって残るというものだ。
ヨーロッパなどで古代人の屍蝋死体の発見は複数報告されており、日本では福沢諭吉の墓を発掘した際に遺体が屍蝋化していたという話もある。
死体に脂肪分を多く含んでいるなど細かい条件などがある為、自然に屍蝋化したと考えた場合、他の白骨化した死体と比べても差別化することもできる。勿論洞窟内である為、虫などによる分解が進むのが普通だが、今回はそれを考慮しない。
二つ目は「成り行きで残った」可能性だ。
何を言っているのかと思ったかもしれないが、もう少し具体的に詰める。
約200年ほど前のフランスにナポレオン・バナパルトという男が登場した。
彼は軍人から皇帝にまで成り上がり、ヨーロッパを席巻した。人類史においてナポレオンという現象になった。
しかしその後、戦争において連敗し最後にワーテルローの戦いにおいて敗戦し、セントヘレナ島へと流刑となった。その後、ナポレオンはその地で死亡し埋葬された。1821年のことだ。
その19年後、1840年にナポレオンの遺体をフランスに戻そうという運動がおこり、墓は発掘された。そこで確認された遺体は一切の腐敗が進んでおらず、19年の時間経過を感じさせなかったという。
遺体を調べた結果、ヒ素が検出され、ナポレオンはヒ素中毒によって死亡した、といわれる。(死亡後に防腐処理をされた、死体は偽物だ、などの諸説あるが今回は割愛する)
ポイントはヒ素が検出された、という点だ。
過去にヒ素は、はく製などに防腐剤として使用されている。毒性は高いが防腐効果も高かった為だ。
あかがね姫は銅鉱山の坑道に身を潜めた。銅鉱山では銅とともに硫ヒ鉄鉱が採掘されることもある(もちろん場所にもよるが)。硫ヒ鉄鉱は焼くことによって亜ヒ酸となる、つまりあかがね姫は坑道内の天然に近いヒ素によって中毒死し、その死体はヒ素の防腐効果によって保存された可能性もあるということだ。ただこのケースだとヒ素中毒によって他の死体も屍蝋化していてもおかしくない。
また銅には銅イオンによる雑菌の繁殖、抗菌作用があるといわれる。この効果により死体に防腐効果があったと考えることもできるが、やはり他の死体も屍蝋化しないと条件にそぐわない。前述と同じく今回も、虫などによる分解は考慮しないとする。(あくまで伝説に沿った仮説の為)
とまあ、大体こんな感じか。あかがね姫の話をいったん区切る。
もともと、ドグサレ様について収穫は無いだろうと予想しある仮説を立てていたのだが、このあかがね姫の伝説はいいヒントになった気がする。
次は最初の仮説と、さらにあかがね姫の考察を重ねた仮説をまとめていこうか。
俺は温泉を出ると、そのままS町からU市へと戻るために電車に乗った。
中心に日本人形の様のような女性の像が置いてあり、それを中心に神棚のように諸々のお供え物が置いてあるといった感じだ。
お堂の看板「あかがね姫」のストーリーを確認し、写真撮影を何枚か。
M川氏に車で駅前まで送っていただき、さらにあかがね姫の資料の書類までいただいた。これは嬉しい。
観光案内所の皆様に丁寧にお礼を言い、取材はいったん完了とした。
さて、そんなわけで俺は、観光マップに載っていた温泉にやってきた。
山の麓に建っており、木造の建物の周りは木々に囲まれている。創業は江戸時代からだそうで、町の歴史を感じさせてくれる。
俺は温泉でひとっ風呂浴び、喫煙所でタバコを吸いながらあかがね姫の資料に目を通していた。
あかがね姫の話のあらすじは大体こんな感じだ。
その昔、この地方を収める殿様の娘にあかがね姫がいた。(年代不明。統治者も大名か貴族か寺社か国人かも不明)
ある時、この地によその勢力が攻め込んできて戦となった。(この地方での合戦の記録は確認できたが、どの合戦かは特定できず)
戦には敗れ、居城は炎に包まれた。(複数の城跡は確認できたが特定できず) あかがね姫は複数の従者と落ち延びた。
しかし、追手の捜索が厳しく、姫たち一行は洞窟の中に身を隠したという。(すでに採掘などで坑道があったのだと思われる)
姫たち一行は一旦は難を逃れた様だが、追手の目を気にしてか脱出が叶わず、やがて時が流れた。(この坑道はすでに採掘は終了していたのか?)
ある時、村人たちは坑道の中で複数の白骨死体を発見した。(どれぐらい年月が経ったのかは不明)
しかし、その複数体ある人骨の中に一人だけ座っている人影があった。
それは、あかがね姫であった。
あかがね姫はもちろん、死亡していたのだが、他の人物とは違い、生前の姿のまま、その場に座っている死体として発見された。
村人は驚愕し、恐れおののき、そして姫の身に起きた出来事を哀れに思い涙した。
村人たちは姫を弔い、そこにお堂を立てたという。
そして、現在に至るという。これが「あかがね姫」の伝説だ。
いかにも昔話といった感じの話ではあるが、そこは民間伝承のさだめ。
口伝などによって伝わるため、時代の影響などを受けて形は変わっていくもの。たとば「あかがね」という部分。これは漢字で書くと「銅」。鉄の「くろがね」とか金の「こがね」とか言った感じの和名だ。銅の鉱山跡の地元らしいネーミングではないか。
というわけでこの姫様の本名は不明。ではただの作り話の姫様かといえば、そうとも言い切れない。
古来より人類は鉱物資源を手にし、勢力を築いてきているからだ。紀元前のヒッタイト王国は製鉄の技術を発展させ、それまでの青銅器時代から脱却し大いに勢力を拡大した。また中世のモンゴル帝国は各国に侵略を繰り返し、イナゴのような解釈をされてきたが、鉱山資源を奪うのが目的の戦略だったという説もある。
鉱山資源がいかに重要な戦略か。それは日本の地方の大名たちにとっても同じであるといえる。有数の銅の採掘資源を各施療が奪い合った、とは想像に難くない。その中でどかの家の名もなき姫が非業の死を遂げた、というようなことは起こっていてもおかしくないだろう。
ではここからさらに、このあかがね姫のオカルト成分に切り込んでいく。
姫は死亡していたが、死体が生前のままだった、という点だ。これには2つの可能性が考えられる。
一つ目は「屍蝋(しろう)」と呼ばれる現象だ。
死体は言っての条件下において腐敗せず、その体が蝋状になって残るというものだ。
ヨーロッパなどで古代人の屍蝋死体の発見は複数報告されており、日本では福沢諭吉の墓を発掘した際に遺体が屍蝋化していたという話もある。
死体に脂肪分を多く含んでいるなど細かい条件などがある為、自然に屍蝋化したと考えた場合、他の白骨化した死体と比べても差別化することもできる。勿論洞窟内である為、虫などによる分解が進むのが普通だが、今回はそれを考慮しない。
二つ目は「成り行きで残った」可能性だ。
何を言っているのかと思ったかもしれないが、もう少し具体的に詰める。
約200年ほど前のフランスにナポレオン・バナパルトという男が登場した。
彼は軍人から皇帝にまで成り上がり、ヨーロッパを席巻した。人類史においてナポレオンという現象になった。
しかしその後、戦争において連敗し最後にワーテルローの戦いにおいて敗戦し、セントヘレナ島へと流刑となった。その後、ナポレオンはその地で死亡し埋葬された。1821年のことだ。
その19年後、1840年にナポレオンの遺体をフランスに戻そうという運動がおこり、墓は発掘された。そこで確認された遺体は一切の腐敗が進んでおらず、19年の時間経過を感じさせなかったという。
遺体を調べた結果、ヒ素が検出され、ナポレオンはヒ素中毒によって死亡した、といわれる。(死亡後に防腐処理をされた、死体は偽物だ、などの諸説あるが今回は割愛する)
ポイントはヒ素が検出された、という点だ。
過去にヒ素は、はく製などに防腐剤として使用されている。毒性は高いが防腐効果も高かった為だ。
あかがね姫は銅鉱山の坑道に身を潜めた。銅鉱山では銅とともに硫ヒ鉄鉱が採掘されることもある(もちろん場所にもよるが)。硫ヒ鉄鉱は焼くことによって亜ヒ酸となる、つまりあかがね姫は坑道内の天然に近いヒ素によって中毒死し、その死体はヒ素の防腐効果によって保存された可能性もあるということだ。ただこのケースだとヒ素中毒によって他の死体も屍蝋化していてもおかしくない。
また銅には銅イオンによる雑菌の繁殖、抗菌作用があるといわれる。この効果により死体に防腐効果があったと考えることもできるが、やはり他の死体も屍蝋化しないと条件にそぐわない。前述と同じく今回も、虫などによる分解は考慮しないとする。(あくまで伝説に沿った仮説の為)
とまあ、大体こんな感じか。あかがね姫の話をいったん区切る。
もともと、ドグサレ様について収穫は無いだろうと予想しある仮説を立てていたのだが、このあかがね姫の伝説はいいヒントになった気がする。
次は最初の仮説と、さらにあかがね姫の考察を重ねた仮説をまとめていこうか。
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