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腐々
腐々 その2
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女がいた。恐らく女だ。
恐らくというのは、離れていて人の形がそれとなく見えるぐらいの距離感だからだ。当然顔は見えない。
女だと思ったのは、その女の服装だ。和服、というより和風の昔の服というべきか。大河ドラマなどでみる身分ある女性の服装と言えば、想像しやすいか。
少し彼女と距離が縮まったような気がする。彼女は後ろを向いていて顔は見えない。
さてさて、知り合いに和風のコスプレ好きの女性も、いにしえの時代の女性もいない。
声をかけてみようか。・・・・声が出ない。
目が覚めた。
いつもの自分の部屋。夢か。・・・・変な夢だ。なんだろう、欲求不満か何かが俺の中にあるのか?
などと考えていると、ある事を思い出す。そうだ、今日は朝一で電車に乗らなきゃならんだった。
時間を確認すると、朝の4時過ぎたばかり。少し早すぎるぐらいに目が覚めたのだ。俺は早速、支度をして駅に向かった。
俺は東京から電車でT県U市に向かっていた。U市についたらローカル線に乗り換え、S町というところに行く。今回の取材先である。
先日、編集長に呼び出された。用件は俺が提出した「ドグサレ様」の記事についてだった。
当然、記事の内容的には自信があった。ドグサレ様の内容にツッコミや批判をするのではなく、あくまで雑誌記事用に、当たり障りのない持ち上げ記事に仕上げてはいたからだ。
編集長の話は記事の内容についてではなく、このドクサマ様のモデルになったといわれる、このT県U市S町の現地取材をしてこいという要請だった。
これは予想外だった。しかしT県U市には少し思うところがあったが、一先ず俺はドグサレ様について編集長に一応の説明をした。
いわゆるインターネット怪談というジャンルのものであり、その他の人気のあったネット怪談の骨組みを流用している。つまり人気のコンテンツの習え右をしているので、オリジナリティには乏しい。元ネタは他の作品に起因しており実際に現場があったとは考えにくい、と。
しかし編集長にこの説明は特に意味をなさなかったようだ。
今回この「ドグサレ様」はオカルト雑誌にて総力特集を組んでいる。その企画を立ち上げたのはこの編集長だ。編集長は俺より少し若く、こういう雑誌を仕事でやってはいるが特にオカルトネタ等が好きなわけではない。あくまでインターネット等で人気がある素材として認識し、特集を組んだのだろう。
「現地取材をして企画の記事に厚みを出したい」との要望で結局、取材へ行くことになったわけだ。
編集長との話の後、両川に少し絡まれた。俺に腐った饅頭を食わせた女だ。
俺ばかり旅行に行っていてズルイなどと非難された。一応仕事でやっている、と丁寧に説明しておいたが仕方のない女だ。まあ、また若い女とかの家に取材に行くときに手伝ってもらわなきゃならないから、無下にもできない。
しかし・・・、編集長は何故T県U市S町に、ドグサレ様のモデルがあると思ったのだろう?
根拠の説明はなかった。何かのネット記事でも読んだか、人から情報でも得たか?
そもそも根拠などなく、何かしらの題材とドグサレ様が結び付けばいいということであろうか? しかし、それでもT県U市S町という土地を指名するのは謎だ。こじつけのでっち上げが欲しいのであれば、どこの土地でも構わないはずだ。
そうこうしているうちに電車は、T県U市に到着した。ここに来るのは10年ぶりかな。
新幹線の改札を出て乗り換えの準備をしていると、声を掛けられた。若い女の声だ。
「あやか・・・・?!」
正直、目を向いた。しかし、目の前にいるのは彩夏ではなく妹の前川千秋だった。
「あなた、やっぱり・・・・」
と言われ、手短な挨拶をした。以前あったときは10年前、彼女は小学生だか中学生だったような。驚くほど、姉の彩夏に似ていた。
「何しにこの街に来たんですか? まだ姉に、私たち家族に付きまとう気ですか?!」
語気が強い。・・・・これは御挨拶だな。
「いいえ、こちらに来るのは10年振りです。今回は仕事で来ました。」
そう言いながら名刺を取り出し、手渡そうとしたが手を振り払われた。
鋭い目つきでこちらを睨む。
・・・ふむ、こりゃダメそうだな。
「すみません、予定があるので失礼しますよ。」
それだけ言ってその場を去った。彼女がどうしたかはわからないが、あれ以上会話は無理だろう。
予定のローカル線に乗り込み、S町を目指した。
電車の窓から景色を望む。
しかし、地元とはいえ、駅に行ったらいきなり知り合いに遭遇するなんてこと、あるかね? あるか、低い確率といえども。
・・・前川彩夏は、大学生の時に付き合っていた女だ。そして彼女とは・・・、いや今はこれぐらいにしておこうか。
恐らくというのは、離れていて人の形がそれとなく見えるぐらいの距離感だからだ。当然顔は見えない。
女だと思ったのは、その女の服装だ。和服、というより和風の昔の服というべきか。大河ドラマなどでみる身分ある女性の服装と言えば、想像しやすいか。
少し彼女と距離が縮まったような気がする。彼女は後ろを向いていて顔は見えない。
さてさて、知り合いに和風のコスプレ好きの女性も、いにしえの時代の女性もいない。
声をかけてみようか。・・・・声が出ない。
目が覚めた。
いつもの自分の部屋。夢か。・・・・変な夢だ。なんだろう、欲求不満か何かが俺の中にあるのか?
などと考えていると、ある事を思い出す。そうだ、今日は朝一で電車に乗らなきゃならんだった。
時間を確認すると、朝の4時過ぎたばかり。少し早すぎるぐらいに目が覚めたのだ。俺は早速、支度をして駅に向かった。
俺は東京から電車でT県U市に向かっていた。U市についたらローカル線に乗り換え、S町というところに行く。今回の取材先である。
先日、編集長に呼び出された。用件は俺が提出した「ドグサレ様」の記事についてだった。
当然、記事の内容的には自信があった。ドグサレ様の内容にツッコミや批判をするのではなく、あくまで雑誌記事用に、当たり障りのない持ち上げ記事に仕上げてはいたからだ。
編集長の話は記事の内容についてではなく、このドクサマ様のモデルになったといわれる、このT県U市S町の現地取材をしてこいという要請だった。
これは予想外だった。しかしT県U市には少し思うところがあったが、一先ず俺はドグサレ様について編集長に一応の説明をした。
いわゆるインターネット怪談というジャンルのものであり、その他の人気のあったネット怪談の骨組みを流用している。つまり人気のコンテンツの習え右をしているので、オリジナリティには乏しい。元ネタは他の作品に起因しており実際に現場があったとは考えにくい、と。
しかし編集長にこの説明は特に意味をなさなかったようだ。
今回この「ドグサレ様」はオカルト雑誌にて総力特集を組んでいる。その企画を立ち上げたのはこの編集長だ。編集長は俺より少し若く、こういう雑誌を仕事でやってはいるが特にオカルトネタ等が好きなわけではない。あくまでインターネット等で人気がある素材として認識し、特集を組んだのだろう。
「現地取材をして企画の記事に厚みを出したい」との要望で結局、取材へ行くことになったわけだ。
編集長との話の後、両川に少し絡まれた。俺に腐った饅頭を食わせた女だ。
俺ばかり旅行に行っていてズルイなどと非難された。一応仕事でやっている、と丁寧に説明しておいたが仕方のない女だ。まあ、また若い女とかの家に取材に行くときに手伝ってもらわなきゃならないから、無下にもできない。
しかし・・・、編集長は何故T県U市S町に、ドグサレ様のモデルがあると思ったのだろう?
根拠の説明はなかった。何かのネット記事でも読んだか、人から情報でも得たか?
そもそも根拠などなく、何かしらの題材とドグサレ様が結び付けばいいということであろうか? しかし、それでもT県U市S町という土地を指名するのは謎だ。こじつけのでっち上げが欲しいのであれば、どこの土地でも構わないはずだ。
そうこうしているうちに電車は、T県U市に到着した。ここに来るのは10年ぶりかな。
新幹線の改札を出て乗り換えの準備をしていると、声を掛けられた。若い女の声だ。
「あやか・・・・?!」
正直、目を向いた。しかし、目の前にいるのは彩夏ではなく妹の前川千秋だった。
「あなた、やっぱり・・・・」
と言われ、手短な挨拶をした。以前あったときは10年前、彼女は小学生だか中学生だったような。驚くほど、姉の彩夏に似ていた。
「何しにこの街に来たんですか? まだ姉に、私たち家族に付きまとう気ですか?!」
語気が強い。・・・・これは御挨拶だな。
「いいえ、こちらに来るのは10年振りです。今回は仕事で来ました。」
そう言いながら名刺を取り出し、手渡そうとしたが手を振り払われた。
鋭い目つきでこちらを睨む。
・・・ふむ、こりゃダメそうだな。
「すみません、予定があるので失礼しますよ。」
それだけ言ってその場を去った。彼女がどうしたかはわからないが、あれ以上会話は無理だろう。
予定のローカル線に乗り込み、S町を目指した。
電車の窓から景色を望む。
しかし、地元とはいえ、駅に行ったらいきなり知り合いに遭遇するなんてこと、あるかね? あるか、低い確率といえども。
・・・前川彩夏は、大学生の時に付き合っていた女だ。そして彼女とは・・・、いや今はこれぐらいにしておこうか。
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