男前令嬢は不名誉な破滅を回避したい

白湯

文字の大きさ
上 下
2 / 8
子供時代

2 おにいさまがおみまいにきました

しおりを挟む
「…はぁ。」

デイヴにまだ少し調子が悪いと伝え席を外してもらったあと、私は鏡を見ながら何度目かもわからない溜息をついていた。
綺麗なサラサラの金髪、大きな青い瞳、白い肌に桃色の頬。紛れもない美少女。
…まだ幼いけれど、前世で何度もアリスちゃんへの嫌がらせをしてきた天使のような悪魔の顔そのものだ。可愛らしい顔をしながらアリスちゃんに何度も何度も執拗に嫌がらせをしてきたその恨み、前世では忘れたことがない。悪事が暴かれ最終的に国外へと永久に追放された時、私は友人と歓喜しあった記憶がある。
だがしかし、それが自分となれば話は別だ。国外追放なんて冗談じゃないし、ミシェル王子を取り合う気なんか全くもって皆無。むしろアリスちゃんを嫁に欲しい。はぁ…あの儚げな白髪に綺麗で澄んだ赤い瞳、ぷっくりとした唇も明るくひたむきで少しドジっ子でどこまでも一途なところも全てにおいて尊い。ああ、あんな美少女が現実にいるとしたら…

「しんでもいい…っ!!」

おっといけない。自分の熱の篭った声にはっと我に返った。まだ見ぬ美少女アリスちゃんに思いを馳せたいところだが、とりあえずは破滅対策だ。死んでもいい気もするがまずもってアリスちゃん推しとしてアリスちゃんを虐めて国外追放なんて汚名にも程がある。あまりにも不名誉すぎる。追放になるならせめて女の子を守ってがいーいっ!
…そうよエミリア。ならば守るのよ。宿命は悪役令嬢といえど紳士に振る舞えばそんな汚名でしかない追放理由には少なくともならないはずよ。きっと。そう。きっと。女の子には優しく、アリスちゃんには特に優しく、間違っても王子が好きとか勘違いされないようにして、紳士な悪役令嬢を目指せばいいのよ。その副産物としてもしかしたら女の子と仲良くなれるかもしれないわ。あわよくば可愛い女の子とイチャイチャなんて…。ふふふ。
よし、私はこれから、紳士な悪役令嬢を目指すのよ!!!

「うふ、うふふふふふふふふ…」
「……エミリア、どうしたの?」

気がつくと笑いを漏らしていたようで、お兄様が困惑したように私の顔を覗き込んでいた。

「わっ、おにいさま!?」

綺麗に澄んだ黄色の瞳が私の方をじっとみている。…いつの間にいたのだ、小僧。さては忍者か。さらさらのやわらかそうな青い髪は窓からの風で微かに揺れていて、まだ8歳だというのに、たいそうお美しい。…私、エミリア=シルヴェスターの義兄、セシル=シルヴェスターはやっぱり絶好調に美しかった。…やっぱりこれはセシデイを開拓せねばいけない。

「エミリアの様子がおかしいと聞いて、一応見に来たんだけど…大丈夫?」

実はエミリアとお兄様の仲はさほどよろしくない。いや、面食いなエミリアはそれなりにお兄様を気に入っていたのだけど、お兄様がどこかエミリアと距離を置いていたのだ。…漫画によればだが、多分貴族の高飛車な態度が嫌いなお兄様だから、ワガママで高飛車な貴族のミニチュアサイズ版のような私を好ましく思ってはいないのだろうなと。今も義務で見に来たようなものだろうか。お父様に絶対に行くように言われたのかもしれない。お父様は娘に甘いからなあ。

「おにいさまにもごしんぱいとごめいわくをおかけしました。すこしねつがでただけなのでだいじょうぶですよ。」

にこっと微笑みかけるとお兄様は少し驚いたように目を丸くした。…そんなに驚くものかしら?まあ確かに記憶を取り戻す前の私なら有り得ない返答だけど、今となってはむしろ前の傍若無人な態度の方がありえない。…ああ、拭えない悪役令嬢の定めよ。しくしく。

「…そっか。くれぐれも安静にしているんだよ」

若干態度が柔らかくなった気がする。お兄様がふっと微笑んだ。きゅんっ。やだ、可愛い。5歳児だけど心は成人だ。8歳の子にときめくなんて、しょたこ…げふんげふん。

「しょたこ…?それはなにかな、エミリア。」
「はっ!!」

あらいけない。私ってばお兄様の前で口を脳内をさらけ出していたようだ。この癖は直さなくては。心でそう誓っていると、お兄様がくしゃっと頭を撫でてきた。驚いてお兄様の方を見るとどこか楽しそうな表情で私を見ている。

「お、にいさま?」
「…エミリアは、急に性格まで変わってしまったみたいだ。…酷い熱だったんだね。…こんなエミリアなら…」

はっ!酷い熱すぎて不憫に思ったのか!ああ、なんてお優しいのでしょうお兄様。お兄様はどこか優しい瞳でじっとみながら私を撫で続けている。いたわるような手つきが少しくすぐったい。
前世の私の兄には素直に甘えずらかったこともあり、甘えられるようなお兄様に憧れて仕方なかった。…今目の前にはその憧れの兄、しかも優しくてかっこ良くて可愛いという完璧なお兄様がいるのだ。
…なんとなく温かい気持ちになって、お兄様の撫でる手に目を細めた。

「えへ、なんか、…ぽかぽかしますね」
「…そっか。」

その日私たちは、はじめて兄妹としての時間を過ごした気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜

白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人の心は結ばれるのか? ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...