上 下
2 / 11

潜入先は、まるで異世界

しおりを挟む
 案内された大広間はダンス会場だった。
 多くの大人が流れる音楽に合わせて踊っており、マントを脱ぎ捨てて見事な裸体を披露している女性もあちらこちらにみられる。

「このフロアはどの部屋もご自由に行き来なさってください。上階は個室になっておりますので、お休みになりたい時にはそちらへ」

 典型的な案内を読み上げた使用人が去っていく。
 使用人の声も耳にはしっかり届いていたが、モレーナは目の前の光景に呆然としていた。

(なんだか、女の人達も嫌がってる素振りがみえない……)

 嫌がるどころか嬉々としているようにすら見える。

 これが価値観の違いなのだろうか。
 モレーナは裸を見せるのは夫となる者だけだと思っていたし、今でもそう思っている。

 ここは異世界だ。

 今の心境を一言で言い表すのなら、そんな感じだった。


「見てまわろうか」

 いつの間にかセオの腕はモレーナから外れていた。
 その右腕に両腕を絡ませて身を寄せ、小さく頷いた。



***


「あぁんッ!! あぁ……そこッ、あぁアッ……」


 行く先々で、女性の艶めかしい嬌声が響き渡る。

 睦み合うのは男女だったり、女性同士だったり、複数人で連なっていたり、時には一人だったりと様々だ。
 その生々しい様子を眺めている者も一定数いるため、離れた位置から様子を見るモレーナとセオが浮くこともない。


「そこのお二方」

 仮面の下、目元だけで室内をぐるりと見渡してセオとともに歩きだした時だった。
 壁に寄りかかっていた一人の男性に呼び止められた。
 びくりと体が反応して、セオに抱きつく力が強くなる。
 声や口調から年齢が少し高め、初老あたりではないだろうかと推測する。

「もしかすると、このような場は初めてですかな」
「ええ。光栄なことに先日招待状をいただけまして」

 仮面に覆われていない口元の笑みが深くなる。ぞわりとモレーナに悪寒が走った。

「どうです? お楽しみいただけていますか」
「ええ。とても」
「そちらの女性は、どうですかな?」

 会話を振られて、おずおずと頷く。
 恥ずかしがっているように見えているはずだ。

「すみません、恥ずかしがりやな子ですので。今日は色々と見させてあげようと」
「ほっほっほ。可愛らしいお嬢さんだ。その秘められたマントの下が気になるところですが、次回までとっておくことにしましょう」
「感謝いたします」

 セオの礼でこの場を離れられると思った。
 しかし、男性が壁から背を離して一歩こちらへ歩み寄る。そうして、セオの腕に絡ませていたモレーナの左手をとった。
 仮面越しに目がかち合う。

「それでは、ごきげんよう」

 言葉とともに男性の頭が下がり、指先に送られるキス。
 そして――

「――ッ!!」

 男性の左手が、モレーナの背中からおしりまでをゆっくりともったいつけてなぞった。マント越しの生々しい感触が、ぞわりとモレーナの肌を粟立たせる。
 去っていく男性を見送ると、セオに引かれて歩き出す。

「一周したら休もうか」

 怪しまれないように言葉を最小限にした、けれど心配を滲ませた優しい響きを頭の中で反響させることで、モレーナは少しずつ鳥肌がおさまっていくのを感じた。


***

「落ち着いたかい?」
「はい」

 2階の個室に入るとソファへと体を預ける。
 個室とはいっても、ここは敵陣だ。何があるかわからないため、話す内容にも気をつけなければならない。

「一人でも大丈夫なら、私は少し見てまわろうと思うけれど」

 どうかな? と投げかけられた問いに了承を伝えるためにコクリと頷く。

 全体の雰囲気はおおよそ分かったので、セオにとってはこれからが本番ともいえる。
 モレーナの同行はあくまでも潜入のため、そして館内を見てまわるためであり、今後の任務では邪魔になるのだ。

「私が外に出たらすぐに鍵をかけて。私は扉を3回、その後1回、最後に2回ノックする。わかったね?」

 それ以外は絶対に開けるな、と言っているのだ。
 こくりと首を振ってセオを見送る。

 カチャリと鍵のかかる音がした後、扉越しにセオの去っていく足音が聞こえた。


 再びソファへと腰をかけたモレーナは、胸元のリボンを解いてマントの前を開け、そして――両足を僅かに開いた。
 ずっと、ドキドキと心臓が暴れていた。
 それは単なる不安や恐怖だけではない。

 そっと、指先を膝から太腿、そして布地で隠された場所へとスライドしていく。

「んぅ……」

 声とともにくちゅッと淫靡な水音が鳴った。

(こんなに濡れてる……)

 はしたない、と己を戒める。けれど仕方ないじゃないかとも思う。

 人の性行為を直接見るのは初めてなのだ。
 豊かに膨らんだ胸とボリュームのあるお尻、そしてなだらかな肢体をもった数多くの女性が大事な部分を隠しもせず、艶やかな声音を上げるのだ。
 そんな様子を1時間以上見続けて全く濡れもしないなんて、そこまでモレーナはこの手のことに興味がないわけでもなかった。

 夫となる人としかしたくない。
 けれど、夫となってほしい好きな人とはしたいのだ。

 そして、それをモレーナが求めている人物とは、ずっとマントの布越しに肌を寄せ合っていたのだ。
 任務中なのに、という一点を除いては仕方のないことだろうと諦める。

「水でも飲んで落ち着こう……」

 ソファのそばにあるテーブルにはガラス製の容器とコップが置いてある。
 休憩用の一室なのだから飲んでも問題はないだろうと口に含む。

(なにこれ!! 仄かに甘くて美味しい!!)

 用意されていたのは、お酒ではなかった。そして、花の香りが漂う、甘い水だった。
 砂糖を混ぜているのだろうか。
 疲れている体が糖分を、そして渇いた喉が水分を欲しがっていたところだ。あまりの美味しさからこくこくと飲み干して注ぎ足していく。
 空になったグラスを置いて、美味しかったと満足した時だった。

 コンコンコン、コンとノックが鳴った。
 3回と1回。残り2回が鳴る前だったが、セオだと思った。

「はぁい」

 返事をして扉へと駆け寄る。
 カチャリ、と鍵を回す音を聞いて我に返った。

(あれ……? 残りの2回、鳴ったっけ?)

 なぜだか、思考がぼんやりとしていた気がする。なぜだろうか。
 そんな疑問がモレーナの頭をぐるぐる回る。


 しかし、時間は元には戻らないのだ。
 外開きの扉がゆっくりと開き、隙間から顔を覗かせたのは知らない女性だった――

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...