月曜日の巫女

桜居かのん

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清廉さと不純さと

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「まぁ落とすわけにも落とせもしないんだけどな」




ぼそりと呟き、再度スマートフォンに浮かび上がる厳しい二文字を見る。



「この場合の次の手ってどうすりゃいいんだよ」



自分で盤面を難しくしておいて、自分で詰むという馬鹿をやって頭を抱えた。




あの後悩みに悩んで、友人に必死に頼まれて嫌々参加している、という思い切り自己保身の返信を返した。

こんな内容しか思いつかないなんて、なんて情けない。

また厳しい言葉が返ってくるのも恐ろしいので返事を待たず、ポケットにスマートフォンを突っ込むと、あの賑やかな部屋に足を向けた。






明日も仕事だからと二次会は断って幹事に参加費を支払い、その場を離れようとした。



「あの」


さっきの黒髪の女が小走りに寄ってきたかと思うと、恥ずかしそうな顔をして何か無理矢理俺の手に握らせ一つ微笑むと戻っていった。

手を広げて見てみれば会社の名刺。

裏にはご丁寧にプライベートの連絡先まで書いてあった。

俺は仕方なくそれをポケットに突っ込み、その場を後にした。







タクシーに乗り自宅に帰る途中、スマートフォンが震え、手にとって確認すれば相手は東雲。

今度はなんて返ってくるのやら。

怖々中を見てみた。



『そっか、お仕事忙しいのに大変だね。

疲れちゃうだろうから、あまり遅くならずに帰るように』



思わず口に手を当てる。


まずい、にやけている。


そして不純な動機で試すようにメールをした俺に、純粋に心配をされたことに少しだけ心が痛む。

送らなければ良かったと後悔する気持ちと、送ったからこそこういう返信が来た事への嬉しさに複雑な心境になった。

ようはただやりとりした事すら嬉しさを感じてしまった自分に気がつき、異様に恥ずかしくなる。

中学生か何かか俺は。



考えて見たら、俺よりも遙か前から誠太郎と東雲は連絡先を交換していたわけで、それでたわいもないことを二人でやりとりしていたのかと思うと、妙に腹が立ってきた。

誠太郎は月曜日いつも菓子を持ってくるが、気がつけば必ずあいつのリクエストを聞いてそれを作ってくるようになっていた。

餌付けはとっくに誠太郎がしてしまっている。



何かもう少し、こちらに意識を向けさせるようなことをしたい。

考えて見ればもう少しでクリスマス。

見事にクリスマス含め、夜も週末も全て二種類の仕事で埋まっている。

クリスマスプレゼントという手もあるが、急にプレゼントを贈るというのも不自然だ。

というか、付き合ってもいないのだから、特に理由もなくモノなんて贈れない。

でもそんな子供じみた馬鹿な事を悩んでいるのがなんだか心地良い。




「さて、どうするかな」




返信内容を考えながら、合コンに出て良かったかもしれないと、俺は初めて思った。



END
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