人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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ダンジョン排除地域編

宴(by懲りない人たち)

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藤森さんから動画を見せてもらって、そこに書かれたコメントを見てみると『C級(笑』『無慈悲の魔王様』『指導(死なないだけ)』とかめちゃくちゃ書かれてた。

「僕は専用装備も着けていなかったんですけどね?」
「ブッ! 専用装備まで着られたら、もう瀬尾くんはA級モンスターだよ」

誰がモンスターだ誰が。

それから帆足学長を訪ねて学長室に入ると、相沢副学長もいた。
どうやら、次僕に来てもらう日を考えていたらしい。
それは学長たちに任せるとして、今日みたいな感じでいいのだろうか?

「いいと思います。強いモンスターを模して模擬戦をしていただけるのは生徒たちのためになります。私たちじゃ、そういう指導はできませんから・・・」

ちょっと悲しそうに帆足学長は言って目線を下げたが、すぐに顔を上げて笑顔になった。

「ちょっと強すぎじゃないかな? って思いましたけどね」
「えっと・・・C級ぐらいをイメージしたんですけど・・・」
「動きはC級かD級のバイソン系でしょうか? ただ、スキルが強すぎてBと言ってもいいぐらいの強さでした。生徒たちにはいい経験だったと思います」

それは・・・B級の強さを体験できたという意味だろうか?
それとも、叩き潰される経験という意味だろうか?

「今日は本当にありがとうございます。私たちでは決して教える事ができないことを瀬尾さんはやってくれました。次回も来ていただきたいのですが・・・」
「僕の方は自衛隊が良ければ問題なく。ですが、人数については講義室に入る分だけでお願いします」
「80人は入ると思いますが?」
「大丈夫です。その分、質問等は少なくします。講義内容は僕が出会ったモンスターとその対処法です」
「ありがとうございます。日程については自衛隊と確認をとりますが、早くて1週間後でいかがでしょうか?」

自衛隊が問題ないなら、僕に問題はない。
藤森さんを見ると、軽く頷いてくれたので僕も帆足学長の案を承諾した。

そして、学校の車で寮まで送ってもらい、受付の雨宮さんに挨拶をして自分の部屋の扉を開いた。

「よ! おかえり、魔王様!」

何故か佐藤さんと、前回僕を酔い潰してくれやがりました梅林寺さん、巳城さん、頼圀さん、類家さんがたむろしていた。

「僕はいないのにどうやって部屋に入ったんですか?」
「ああ、動画を観てたら面白いことになってたから、お出迎えしてやりたいから部屋に入らせて欲しいって雨宮さんにお願いした。そしたらすんなり開けてくれたよ」

まじか・・・この寮のセキュリティーやプライバシーってちゃんと守られているのか?

「まあ、迎えてくれるのは5000歩譲ってありがたいと思うかもしれませんが」
「5000歩って遠すぎ! しかも『思うかもしれない』って、絶対思ってないよね! うけるんだけど」

片手に酎ハイの缶を握っている類家さんが、ケラケラ笑いながら膝を叩く。
僕は彼女を無視して机の上と彼らの周囲の床を見る。
机の上には空き缶と皿を使わずに開けたつまみがわんさか。
その包装やピーナッツの殻のカスなどが床にも散らばっていた。

「散らかしすぎ・・・だと思いませんか?」

佐藤さんを残して、4人が各々飲み物を持って素早く僕から距離を取る。

「あ! お前ら!」

少し遅れて逃げようとした彼の襟首をベルゼブブの籠手を着けたままだった左手で掴んで右手で頭を掴む。

「ごめん! ごめんって!」
「誰が片付けるんですか?」
「俺です! 俺が片付けます!」

何となく少しだけ締めておくかと思って、右手に力を入れようとしたところで、いつの間にか端にいた4人が僕の後ろに回っていて、右腕を掴まれた。

「まあまあまあ、せっかく帰ったんだし、疲れた体で掴むんならこっちの方がいいと思うぞ?」

頼圀さんが器用に僕の右手から佐藤さんの頭を解放して、その手にコップを持たせる。
・・・右手だと力加減が難しくて割ってしまう可能性があるのに。
僕は慎重にそれを握って、割れてないことにホッとすると、すぐさまそこに類家さんが氷を入れ巳城さんが梅酒を注ぐ。

「ほいほい、こっちも取ろうぜ」

僕の左手が梅林寺さんに掴まれて、どうやったかわからないが佐藤さんが解放された。

「別に・・・ちょっと締めるだけのつもりでしたよ?」
「分かってる分かってる。ちなみに訊くけどさ、身体強化込みで握力って幾つ?」
「200ぐらいです」
「・・・人類超えてるじゃん」
「俺の頭を潰す気か!」
「潰れはしないんじゃない? アザは確定だけど」
「さっきは身体強化使っていなかったんだよね? 右手もすぐ外れたし」
「ええ。流石に皆んなに身体強化どころか、スキル自体を使おうとは思いませんよ。・・・使って欲しかったですか?」

僕の質問に、全員が首を横に振った。

とりあえず、部屋は飲みの後に佐藤さんが片付けるということで、僕らは座って飲むことにした。

「まだ、16時なんですけどね・・・」

ため息をつきながらベルゼブブの籠手を金庫の中に入れて一緒に座りコップを持った。

「俺たちはずっと霊峰富士にいたんだ。久々のお酒なんだから付き合えよ」
「はいはい。でも! 潰れるまでは飲みませんからね! 後、霊峰富士の話も聞かせてください」
「へー。霊峰富士に興味があるの?」

あるに決まっている。
日本で最も有名な複合ダンジョンで、南と東は初心者から進む事ができる平地があり、北西にはアンデットが数多く彷徨っている富士の樹海、北は動物系D級モンスターが数多く存在する上級者向けとルートが分かれている。
ダンジョンの範囲も国道138号、139号、469号に区切られていて、安全地帯がハッキリとしているので、危険な状況になってもそこまで逃げれば助かることを皆んな知っている。
そんな中で、自衛隊がどのルートを使ってアタックをしているのか、すごく興味がある。

「出てくるモンスターとか、過去に出たアイテムとか、自衛隊の中で何合目までアタックしたとか教えてください!」

僕の聞きたい圧に押されたのか、5人が少し引いていたが、梅林寺さんが酎ハイを一口飲んで口を開いた。

「基本的に俺たちは富士の東から入って南側にある県道152号から頂上を目指すんだが、5合目に到着して一度休憩をとって、希望者のみでそこから上を目指すんだよ」
「希望者のみでですか?」
「ああ。なんせ、6合目が大規模な異界ダンジョンで、対人戦が必要になるからだ」
「対人ですか!?」

僕の聞き返しに、5人は深く頷いた。

「あれはタチが悪いよな」
「言葉が分かるだけ尚更にね」
「殺すと魔石化するから、モンスターなんだって安心するんだけどね」
「悲鳴とかまんま人間だから、何人かそれで病んで除隊した人を見てきたよ」

阿蘇にはそんなダンジョンがなかったから病む人はいなかったが、僕ももしそのダンジョンに入って、人型モンスターを倒さなければいけないとなったとき、躊躇いなく殺せるかと問われたら、言葉が詰まるだろう。

「佐藤さんたちは、進んだんですか?」
「ああ、このメンバーは8合目まで進んでるぜ」
「凄いですね」
「いやいや、6合目さえ抜ければ7合目と8合目は環境型ダンジョンだから比較的楽なんだよ」
「モンスターもアイスバードとかイエティや動物系だからね」
「銃弾や音響攻撃、スタングレネードとかが効くなら俺たちが負けることはほとんどないよな」
「9合目のフレイムリザードはまだ無理だけどな」
「A級ですか?」
「そうだよ。しかも、環境も極寒世界から極炎世界に変わるから、それに合わせて装備も変えないといけないんだよね」
「流石に極寒世界を、変えの装備を持って進むことは無理だったから、俺たちの記録はそこまで」

佐藤さんは手持ちの缶ビールを飲み干して席を立ち、冷蔵庫から追加の缶ビールを取り出して戻ってきた。
さっきは350を飲んでいたのに、持ってきた物は500だ。

「木下・・・炎帝はどこまで行っているか聞いたことはありますか?」
「ああ、ブラックアイズの新しい幹部だな。登頂したって聞いたことがあるよ」

僕は梅酒に口をつけて、一気に飲み干した。
頼圀さんが僕のコップに追加で梅酒を注ぐ。
あいつは・・・阿蘇に続いて霊峰富士も完全攻略するつもりなのか・・・。
僕はもう一口梅酒を飲む。

「年齢は瀬尾くんと一緒か? 彼も名実共にブラックアイズの幹部として認知されたようだし、もしかしたら同じ世代でとんでもないのが、何処かにいるかもしれないね」

巳城さんが僕を見て微笑む。
彼は何となく言ったのだろう。
だけど、僕は1人だけ顔が思い浮かんだ・・・。
それは僕が、1番見たくない顔だった。

歪みそうになる口を抑えるために、コップの梅酒を再度一気に飲み干す。
カツンっと机に置いたコップが、乾いた音を立てた。
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