人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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ダンジョン排除地域編

模擬戦

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闘技場とも呼べそうな体育館に入って、僕はストレッチを始めた。
今回の戦いで禁止したのはスキル吸収のみ。
僕は最大限生命力吸収が使えるように真ん中に立っている。
昼食が終わった生徒らしき人や教師がちらほら観客席に来始めた。
嬉しそうに最前列に座って僕にカメラを向けていた。
・・・まあ、どうせこの後動画を流すからいいか・・・。
僕がカメラに向いて手を振ると、持ち主が天を仰いでのけ反った。
そのカメラの向きだと僕は映っていないのだが大丈夫か?

それから指定の13時になる頃には観客席は満席で立ち見の人が文句を言いながら自分の場所を確保しようとしていた。
ただ、立ち見はちょっとだけ危険なので、帆足学長と相沢副学長に10メートルまでは立ち見禁止にしてもらった。
そして、僕の前に5人が立っていた。
装備は学校から借りたのか、総額数十万はする物をそれぞれが着けている。

「対策はちゃんと練ってきましたか?」
「はい!」

僕の質問に、代表して近重くんが返事した。
僕は頷いて帆足学長を見る。

「それでは、帆足学長、開始の合図をお願いします。その瞬間、生命力吸収を発動させます」
「分かりました。それでは構えてください!」

僕は棒立ちで腰に手を当てる。
5人はそれぞれ散らばるつもりなのか、走る体勢をとった。
・・・甘い。

「はじめ!」

掛け声と共に、僕は身体強化と生命力吸収を使って駆け出す。
そしてあっという間に全員スキル範囲内に入ってしまい倒れてしまった。
僕はすぐに近づいて彼らの頭に一回ずつタッチしてスキルを切った。
あまりの早技に、シーンと体育館が静まった。

「観客席の人大丈夫ですか? 頭とか打ってたら診てもらってください」

そう言って僕は元の位置に戻って5人を見る。

「次をする前に反省をしようか。何が悪いと思った?」
「・・・ひと塊りになっていた事です」
「それは結果だね。それ以前の問題があります」

僕の問いかけに、5人は顔を見合わせて首を横に振る。
時間をかけても意味がないので早く答えることにした。

「始まる前に、散っていれば良かったんですよ。僕は今の位置からスタートとは言っていませんし学長も言っていません。どこから始めるかは皆さん次第でした。もし全員が僕を囲うように散っていれば、最初の被害は1人でした。それでは、これを踏まえて次をしましょう。勝利条件を決めましょうか。八日市さんはスキルを1発でも当てたらオッケーです。近重さんはタッチしたら無条件勝利、齋藤さんは投げた物が僕の胴体か背中に当たれば勝利、燧さんがまだスキルが分からないから・・・何でもいいから僕に一撃にしましょう。最後に小網さんは・・・30・・・いや、1分かな? 僕から逃げ回るで」
「厳しくないですか!?」
「精神攻撃スキルホルダーでしょう? 僕に対して有効なスキルを持っているんですから、頑張ってください。それから、僕はCかDのモンスターの動きをします。僕をモンスターだと思って戦ってみてください。さっき同様、頭を触られたらアウトです」

精神攻撃をしっかり受けるのは初めてなので、無防備に受けて全員から攻撃を受けました、なんて事がないように警戒しなければならない。

「それでは、帆足学長。2戦目の合図をお願いします」
「はい」

帆足学長が手を挙げるのと同時に5人がバラけた。
僕は5人を確認して、1番派手な服装をして何かを持っている素振りをしている燧さんに最初のタゲを定めた。

「はじめ!」

先程と同様に走る。

「わたし!?」

目立つ格好をしている人が悪い。
生命力吸収の範囲内に入れて、すぐに頭にタッチして逃げ遅れて倒れようとしていた齋藤くんに向かう。
ただ、踏み出した足に何故か力が入らない。
しかも、少し気分が落ちた?
おかしい・・・手を伸ばしても届く気がしない・・・ダウナーか!

手を伸ばして齋藤くんの身体を掴み、持ち上げて僕を小網さんから隠した。

「あ!」

身体と心の調子が元に戻る。
やはり、視認して効果を発揮するタイプか!
同じ方向から水の塊が飛んできたので、齋藤くんの頭を一度触ってそのまま投げた。

「ひゃ!?」
「ひどい!」

小網さんと八日市さんの声がして、齋藤くんの身体が彼女たちにぶつかった。
そして僕が2人の頭を触って、残った近く重くんに向かって歩き出す。

「飛び道具は持ってない? こういう場面があったらどうしようか考えたことある?」
「まだ・・・飛び道具はないです。これでしばらく行けると思っていたので」
「D級までは行けるよ。C級から特殊な邪眼や範囲攻撃するモンスターもいるからね。近距離特化するのなら、何か自分のフィールドに引き込む武器を持っていた方がいい。理解したね? それじゃ、次に行こうか」
「あっ」

最後に彼の生命力を吸収して頭に触った。

「さて、反省は各自でしてもらって、次は生命力吸収を使わずにスキル吸収を使います。近距離攻撃の人はチャンスと思ってください」

近重くんと燧さんがやる気を出すが、代わりに小網さんと八日市さんが沈んだ表情になった。
まあ、スキル吸収だと2人の攻撃は全く効かなくなるので、仕方のないことだと今は諦めて欲しい。

「僕との戦いを経験して、次同じような状況になった時、対処できるようにしていればいいからね。今のうちに、どういったスキル構成がいいのか考えてください」

そうして僕は、エイジに形状変化をお願いして大鎚を作り出し、ドスンと構えた。

「それじゃ、あい・・・」
「ちょーーーーっと待ってください! それは何ですか!?」

第3戦を始めようとしたところで、齋藤くんが手を挙げて僕を止めた。
彼の指が大鎚を指差しているので、僕はそれをブンっと一度振ってヘッドを床につける。

「これは僕の武器だけど? 今は加重のスキルを発動させてないから安心していいよ」
「え? 加重を使っていたら・・・A級モンスターを叩き潰せるとか?」
「できるよ。僕のメインウェポンだからね」

僕が笑顔で伝えると、何故か絶望した表情で僕を見る。
牛頭馬頭の刺又みたいな、遠距離可能な戻ってくる武器じゃないんだから、そんな顔しなくてもいいのに・・・。

「それじゃ、準備はいい? 帆足学長! お願いします!」
「はじめ!」

5人が絶望した表情のまま向かってくる。
大丈夫。
その気持ちも、探索者にとって必要な経験だから。
死に直結していない絶望ほど経験して良かったと思えるように、これからなるのだから。
今は存分に感じなさい!

僕は大鎚を振って、並んで向かってきた近重くんと燧さんを殴り飛ばした。

それからさらに2戦して、前衛として何度も向かってきた2人の体力がなくなったところで、模擬戦は終了となった。
この経験が彼らにとって意味のある経験になってくれたらいいな。

僕はそう思いながら控え室に戻ると・・・藤森さんが動画を見ながら大爆笑していた。

・・・僕が魔王扱いされていたらしい。
・・・失礼な!
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