人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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ダンジョン排除地域編

探索者としてお金を稼ぐ方法

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僕のキツめの講義に、それでも齋藤くんは眉間に皺を寄せて手を挙げた。

「齋藤さん、どうぞ」
「はい。実は俺の家庭は借金がかなりあって、下手すると弟と妹が高校に行けないかもしてない環境です。なんで、探索者でお金を稼ぎたいんですが、どうしたらいいですか?」

前もってプロフィールを見ていたから、この質問は予想できていた。
なので、一般的に組合で勧められている探索者の活動の流れを僕の考えも含めて話すことにした。

「君たちは使えるスキルを持っているようだけど、普通の人はそれを手に入れることから始めます。そこからは経験と実績作りです。探索者として生活をしたいのなら、3級になって年に数回は必ずB級魔石を手に入れることが必須です。パーティとしてそれが出来るようになれば、企業がスポンサーについてくれます」
「企業がついてくれたら、弟と妹の学費も出してくれたりしますか?」
「それは契約次第かな? B級魔石は本当に熟練した探索者パーティでないと、簡単には取れません。企業もその事を理解しているので、その人の将来性やアタック回数を確認して学費ぐらいなら出してくれるかもしれません」

僕の言葉に、齋藤くんはグッと拳を握る。
彼のスキルは物質を透明にする能力みたいで、教壇の横に、僕がベルゼブブの籠手で弾いただろうクナイが2本落ちている。
・・・透明にするだけだと弱いな。
遠距離主体でスキルを構成するなら、相乗効果のあるスキルが欲しいところだ。

「さて、さっきのは一般的な探索者の進み方です。例外として静岡県に行くという方法もあります。あそこは探索者を初心者の頃から手厚くサポートして魔石を納入してもらう企業連合だったか連盟だったかが存在します。提供される装備の費用はタダらしく、お金を持ってない初心者にとって、すごくありがたいシステムになっています。ただし、手に入れた魔石は、その企業側が優先的に受け取る権利を持っているため、例え1級になろうが、A級魔石でも手に入れない限り一発逆転はできません。良し悪しですね。自分の将来を考えてどうするか考えるようにしてください」

5人がそれぞれ頭を抱えて悩んでいる。
理想と現実の差が激しすぎるのだろう。

「魔石もランクによって買取額が違います。Fは1円、Eは1~5円、Dは10~100円、Cが1番幅が広く500~1万円。魔石の内部保有魔力量や傷の有無などで金額も変わります。Bは20~30万円。ここから探索者としての世界が変わります。ひと月にパーティメンバー分を狩ればいいだけになりますからね。贅沢したいならその分余計に狩ればいい。テレビでよく見る探索者たちは、ほぼB級モンスターを倒せる人たちです」
「さ・・・参考までに、A級魔石はおいくらですか?」
「今だと、企業が50億で買い取ってくれます。もちろん買い取れる企業があればという条件付きですが」

全員の目が円マークになった。
そりゃ、それ一つで今後の生活が保障されるというのなら、モチベーションも上がるだろう。

「ただ、A級を倒すのは並大抵じゃ出来ません。自衛隊でも地雷などの爆発系トラップを仕掛けて誘い出し、モンスターに有利なスキル保持者が正面に立ってターゲットを取る必要があります。・・・A級の正面に立つなんて生半可な根性じゃできませんからね? 相手の攻撃が掠っただけでも骨折しますからね? 邪眼なんて相手が持ってたらタゲを取ることすら難しいですからね? 間違っても宝くじみたいに考えないでください。あれは何回でもできますけど、A級は外したら死です」
「瀬尾さんは・・・どうやって1人で倒したんですか?」
「僕は向こうが生命力吸収の範囲内に入ったら勝手に倒れたので踏み潰しただけです」

僕がなんでもない事のように言うと、小さく何処からか「ズル・・・」「チートかよ」「スキル格差」と声が聞こえてきた。
言われると思ったけど、無視でいいか。

「僕もこのスキルに関しては、結構すごい効果と思うので、他の人の参考にはならないと思います。僕が持っているスキルの中で皆さんの参考になるスキルは・・・例えドラゴンでも時間が経てば踏み潰すことができた加重です」

生徒たちが一斉に真剣な目で僕を見た。

「知っての通り、加重はスキルとしては一般的と言っていいコモンスキルです。ですが、僕はこの加重を頼りになる武器として使っています。では、どうしてレアでもないスキルがドラゴンを踏み潰せるほどの威力を持っているのか? 知っている人はいますか?」

僕の質問に、八日市さんが手を挙げた。

「どうぞ」
「はい。ちょっと前に発表があった、スキル保持者の魔力の適合性と占有率のことだと思います」
「正解です」

八日市さんの解答に、他の人がハッとして悔しそうにしている。

「僕がドラゴンを踏み潰していた時期は加重は適合性100%、占有率50%と、僕の魔力の半分をスキルの効果に使うことができていました。生命力吸収はその当時は30%です。つまり、本当に役に立たないスキルでない限り、適合性と占有率が高ければコモンスキルでもレアスキルに負けない効果を発揮できるということです」
「その二つはどうやったら上げることができますか?」
「上げることはできません」

近重くんが僕の答えに眉間に皺を寄せた。

「上げることはできないんですか?」
「できないんです。簡単に説明すると、魔力は相性です。手に入れたアイテムと皆さんの魔力の相性がどれだけいいのかが問題になります。そして、占有率にいたっては、そのアイテムを最初に装備した際、スキルが持ち主をどこまで独占したいかという意思によります」
「スキルの意思?」
「そうです。エイジ、頼む」
「了解だぜ、主人。さて、小僧ども! 俺様が、主人の最高のスキルにして1番貢献しているスキル。魂喰いだぜ!」

右手の甲を皆んなに向けると、エイジが目を動かして彼らを見て、手のひらの口で笑みを作った。
・・・手のひらの口は、彼らには見えないよ、エイジ。

「確か記者会見の時も喋っていた右腕ですね。当時は、腹話術とか厨二病とか1級探索者に悪魔が宿ったとかいう噂が出ていましたけど」

なかなかひどい噂が流れていたようだ。

「当然ですが、僕の意思ではありません」
「俺様は適合性100%でこの世界に降りた最初のスキルだからな。お前たちが持ってるスキルとは格が違うぜ!」
「どうしたらそんなに高い数値が出せたんですか?」
「お勧めはしませんが・・・自分の右手を切り落として、装備すればいいだけです」

生徒たちだけでなく、後ろで見ている人たちも引いていた。

「元が自分の身体なので、適合性は間違いなく100%ですよ。その後はスキル次第ですが」
「そうだぜ。俺様も最初は100%のアイテムに入れて、やってやったぜ! って思ったけどよ。腐敗防止が強制的に付くとは思わなかったぜ。元の素材が人の生体だからよ、ダブルスキルに耐えきれなかったから俺様が主人の体に移動するしかなかった。そっちの方に集中しなきゃいけなかったからな、占有率が30%しか取れなかった。しかも能力が制限されたし、最悪だったぜ」

エイジがそこまで言ったところで、僕は一つある事を思い出した。
これだけは言わないと、本当に手を切り飛ばす人が出かねない。

「今から切ろうとしている人がいたら、ちょっと待ってください。その人たちに向けて注意が一つあります」

カメラに視線を固定して目に力を込める。

「付くスキルはランダムです。身体を切り離しても強いスキルが手に入るとは限りません。下手すると、鼻毛が伸びやすくなるとか、体臭を強くするとか、使えないスキルも付く可能性がありますので、それを考慮した上で切り飛ばしてください。以上です」

まあ、そんなスキルが付く可能性があるなら、切り飛ばす事を控えてくれるだろう。

「すみません、魂喰いと生命力吸収の関係性が分からないんですが?」
「俺様が魂を喰う前に、生物に対してどうしてもやらなきゃいけないことがあるんだぜ。それは、魂を守る生命力と魔力、スキル能力、そして相手を守る環境を剥ぎ取ることだぜ。能力が制限された際、生命力吸収が残ったのは主人を守るための俺様の判断だぜ」

スキルにそこまでの権限があることにびっくりなのだが、僕としては生命力吸収にだいぶん助けられたので何も言わずに時計を見た。

「さて、前半はこのくらいで休憩を入れましょう。色々あって情報を整理したい人もいるでしょうし、今の自分がこれで良いのか見つめ直したい人もいると思います。次は昼過ぎの13時に5人と僕で模擬戦をします」

その僕の言葉に、5人の身体が跳ねた。

「待ってください! 私たちはさっき一瞬でやられましたよ!」
「良かったですね。予め僕のスキルがどのくらい強いか知ることができました。それを踏まえて作戦を練ることができますね」

燧さんが叫ぶが僕は笑顔で返す。

「ハンデはありますか?」
「専用装備を持ってきていない時点でハンデなんですが・・・スキル吸収は使わない、でいかがですか?」
「そ・・・それだけでもいただければ」
「それでは、午後にまた会いましょう。お疲れ様でした」

そう言って、僕は一礼して会場から退室して、同じく退室した藤森さんと控え室に戻った。
戻った瞬間、藤森さんが爆笑し始めた。
どうやら、配信内でのコメントが面白かったらしい。
僕が鬼畜扱いされていたようだ。
・・・失礼な!
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