人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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ダンジョン排除地域編

生徒のプロフィールと鍛治社長

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生徒の履歴を見ながら、僕はどのような講義が1番効果的に伝えることができるか考えていると、5人に共通する点があって、気になったので学長に尋ねることにした。

「5人ともお金に困っているのでしょうか?」
「私たちの方で把握しているのは、2枚目と最後の生徒が多少ということだけですね」
「そうですか・・・」

履歴書はあいうえお順に並んでいて、1枚めから、小網彩香、齋藤楓珠、近重聡志、燧晶、八日市奈々江。
男性は齋藤さんと近重さんになる。
ただ、どうやら力自慢のようで、履歴書の写真はバストアップなのだが首の太さがすごい。
女性の中では燧さんがスポーツをしていたような体格で小網さんと八日市さんは黒髪の普通に見える。
その全員が、探索者になる動機に「お金を稼ぎたいから」と記載していた。

「齋藤さんと八日市さんですか・・・。ここには書いてありませんが、借金とかですか?」
「齋藤くんはその通りです。親の借金がすごく、弟と妹の学費を稼ぐと言っていました。八日市さんは、妹さんが・・・その、知的障がいで、社会貢献活動は不可能と判定を受けるほど重いらしく、『自分が探索者になって妹の生活に不自由がなくなるぐらい稼ぐ』と言っていたと聞いています」

2人とも探索者になるにあたって、引けない理由がある。
ただ・・・こういう理由があると、手の届く範囲にそれがある時、躊躇せずに手を伸ばしてしまいそうだ。
おそらく、5人の中でこの2人が死ぬ確率が高い。

「この5人の中で、先生に噛みつくというか、反抗したことのある人はいますか?」
「彼らだけでなく、専門学校に在籍している全生徒は一度は反抗しています。もちろん、先生たちは引退したとはいえ第一線で戦っていた人たちなので、その度に叩き潰してきました」
「彼らが僕に反抗する可能性は?」
「あると思います。むしろ、瀬尾さんを倒して自分の知名度を上げ、配信の弾みにしたいと考えているかもしれません」

なるほど。
僕を踏み台にしようとする可能性もあるのか。
しかも、彼らより年上と言っても一歳二歳の差。
そんなもの、ほとんど無いのに等しい。
さらに問題がある。

「履歴書の中に保持スキルの記載がありませんが?」
「流石にお見せできる個人情報のレベルを超えますので・・・」

ということは、精神攻撃系やデメリット系のスキルを持っているかもしれないということか。
彼らに会う際は、エイジにスキル吸収を常に使ってもらわなければならない。
僕みたいにレアなやり方でスキルを取得していない限り、適合性と占有率は低いはずだ。
木下みたいな特別がいないことを祈るしかない。

「後、この学校は体育館とか武道場は備えていますか?」
「はい。探索者になるための2年間ですので、体力作りは毎日、模擬戦は3日に一回やってます。そのためしっかりしたのを建ててもらってます」

あー、僕をモンスターに見立てた模擬戦もできる時があればしようかな。
・・・鬼教官ほどモンスター感は出せないけど、いい経験にはなるはずだ。
あの時も佐藤さんたちは本気で倒す気で向かって行ってたな・・・。
・・・股間だけは狙われないようにしておかないと。

それからこの場はお開きとなり、僕と鍛治社長だけで軽食を取ることになった。
もちろん、店内は貸切で盗聴などされないようしっかりと確認された席に僕たちは座り、他の椅子も探索者組合関係者がうめた。
全員が何かしら頼んでいるので、店側によっては嬉しい状況だろう。

「さてさて、今日打ち合わせについて是非とも話をしたいのだが、まずはありがとうと言っておこう」
「いえ、最初に社長がテコ入れとおっしゃってたので、こういうことだろうな、と思っただけです。それに、僕には優しい教え方なんて不可能ですから」
「そうかね? 安心安全を第一にして一歩進むにも細心の注意をと言えばいいだけでは?」
「そう言い続けた結果が現状ですよね? それに、注意しても死ぬ時は死にます。注意せずに突っ込んでって、今では1級になったバカもいますから、講義では自分の人生は自分で決めろと言うつもりです」
「そうだな。他人の経験を踏まえて行動することも大切だが、一歩を踏み出さないと先はないことも教えないといけない」

そう言って鍛治社長は七福団子を頬張った。
僕も自分で焼いていた団子を一串取って口に入れる。
適度な熱さと香ばしさが口いっぱいに広がって、冷えた餅を食べるより数倍美味さを感じた。
一串食べ終わった後お茶を飲んで一息つく。
鍛治社長はコーヒーを飲んでいたが、彼は美味しそうに飲んでいる。
団子にコーヒーが合うかはわからないが、僕にはまだ冒険する勇気はないな、と思ってお茶をもう一口飲んだ。

「できれば君には数回とは言わず、数ヶ月講師をしてもらえると助かるのだがな」
「それは、申し訳ありません。僕にも優先すべき案件がありますから」
「いい、分かっている。1級は皆何かしら背負っているからな」
「木下は・・・何かを教えるのに向いていませんか・・・」
「直情型が教師になると、どんでもない爆発を起こす可能性があるからな。任せることはできんよ。それに、今彼はブラックアイズの元で幹部として霊峰富士の攻略を担っているそうだ。館山が嬉しそうに言ってたよ。肩の荷が少し下りたと」
「館山さんを本部は勧誘しないんですか?」
「早速してみたよ。俺が椅子に座って何になるって断られたがね。私の代わりになれと言ってみたが、先に三大ダンジョンの支部長を社長にしろと言われたよ。彼らにも何度も言っているのだが、何故か皆んなやりたがらないんだ」
「鍛治社長の下がやり易いか、心地いいのでしょう」
「いつまでも私が座っていてはいけないんだけどね」

上に立つ苦労があるのだろう。
鍛治社長が2本めを咥えたので、僕も適度に焦げた串をとって熱さを確認しながら噛みつく。
うん、ヨモギの香りが素晴らしい。

それから、講義の内容を鍛治社長と話をして、時間があれば僕をモンスターに見立てた模擬戦をすることに決まった。
模擬戦は、しっかりと時間をとってやりたかったのだが、上下関係は早いうちにはっきりさせた方がいいと鍛治社長からのアドバイスがあったのですることになった。
うーん・・・相手のスキルが不明なため、手加減できないのだが・・・それも経験になるか。

そして最後に、鍛治社長から一言忠告があった。

「瀬尾くんは、これからも色々な人に関わってくると思う。今でも君の力がなくて悲劇を生み出したと思う場面があったかもしれないが、それは傲慢だと思いなさい」
「傲慢・・・ですか」
「そうだ。その悲劇は、君のせいで起きたものではない。起きるべくして起きたものだ。君一人の決断で変わる事象など高が知れている。起きた悲劇は全て起こした本人たちの選択だ。偶然もあるかもしれないし、1秒の差というのもあるかもしれない。だが、全てそれまでの行為を選択した本人がその事象を引き寄せたに過ぎない。そこに君の入る余地はない。・・・真っ直ぐ世界を見なさい。大切なものを失うこともないように」

鍛治社長の言葉が、ゆっくり僕の胸に突き刺さった。

・・・これまでの悲劇に、本当に僕の入る余地はなかったのだろうか?
じーちゃん、ばーちゃん・・・空自の人たち・・・天外天の皆んな・・・。
分からない・・・。
分からないよ、莉乃。
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