人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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ダンジョン排除地域編

探索者専門学校 教育方針と思い

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ユニコーンモデルの稼動を見損ねた次の日、僕は探索者専門学校で緊張した面持ちの帆足学長、相沢副学長と対面していた。

「ふむ。私のことは気にせず話をして構わないよ」

ただ、何故かこの場に、阿蘇にいる時、一回だけ会ったことにある鍛治代表がいた。
なんでここにいるんですか?
2人の顔がそう語っているが口からは出さない。
僕としては2人から訊いて欲しいのだが、無理そうだ。

「鍛治社長」
「うむ、何かな?」
「何か用事があってこちらに来られたのですか?」

僕が尋ねると2人が勇者でも見るかのようにキラキラした目で僕を見る。

「・・・実はな、専門学校からの卒業生のその後の成績が芳しくなくてね。テコ入れを含めて君が来るタイミングに合わせてきたんだ」

アポ無しで来たんですか・・・。
そりゃ2人も緊張するはずです・・・何を言われるか分からないからね。

「さあ、私に構わず話をしてくれ」
「わ、分かりました」

帆足学長がハンカチで額に光る汗を拭いて、フーッと一息ついた。

「それでは、瀬尾さんの最初の講義の日時と内容について話をしましょう」

この部屋に入って20分。
ようやく今日のイベントを進ませることができたようだ。

まずは決めやすい日時なのだが、そこは詰まることなく来週の月曜日で決まった。
次に話をする内容については、生徒の質問に答えることをメインで、配信に関することや僕の今までの戦闘経験から注意しなければならないことを付け加えて話すことになった。
初日の講義は広く浅く、そして生徒が興味を持ち、配信の向こう側にいる人がずっと観続けるようにしたいそうだ。

「・・・講義を配信するんですか?」
「はい。今の段階ではライブを考えております」

僕の初講義は全世界に即時展開されるらしい。

「えっと、流石に緊張するんですが。撮った後に編集して配信はダメなのでしょうか?」
「それでは視聴者に探索者がどれだけ危険かが上手く伝わりません。この学校では死なない探索者の育成をモットーに教育をしています」

帆足学長の言葉に、僕はチラリと鍛治社長の顔を見た。
なるほど・・・過度な死への恐怖を生徒に植え付けたか、もしくは生への執着を増幅させたか。
その結果、誕生するのは浅い場所しかアタックできない探索者たち。
卒業生の成績が悪いのも頷ける。
もちろん僕も、可能な限り生き残ることが長く探索者を続けるコツだと思うが、時にはリスクを承知で冒険しないと成長することはできない。

僕が手を組んでどのように伝えようか考えていると、その態度に不安を感じたのか、帆足学長はまた汗を拭きながら横目で相沢副学長を見た。
相沢副学長もどうしたものかと困り顔で帆足学長を見る。

「黙ってすみません。どう説明しようか悩んだんですが、一つ質問させてください」

僕は組んでいた手を解いて膝の上に置き、学長たちを交互に見る。

「お二人は探索者組合に登録されている、もしくはされていたと思いますがランクは何級でしたでしょうか?」
「えっと、私は4級です」
「私も4級で辞めました」

つまり、この2人は命を大切にしすぎて、D級ダンジョンの完全攻略ができなかった人たちなのだ。

「大変申し訳ありませんが、3級を目指さなかった理由を教えていただいても?」
「・・・特に秘密にしているわけではないので。私の場合は、パーティメンバーの1人がD級ダンジョンの攻略の際に天井から落ちてきたスライムのせいで全身の皮膚が爛れ、再起不能になってしまったのを見てしまったせいですね。要はトラウマです」

スライムは、一部例外を除いてノンアクティブなので攻略の際も視界から外しがちなのだが、体を構成する物質は強酸で、最弱なのに舐めてかかると痛い目を見るモンスターの代名詞となっている。
学長の元パーティメンバーには申し訳ないが、それも探索者として活動する上でのリスクだったとしか言えない。

「私の場合は、異界ダンジョンの平地で遭遇した魔牛の群れによる突進でした。当時のパーティメンバーは散り散りになって逃げたんですが、運悪く私が群れのリーダーに狙われて・・・。両足複雑骨折、右腕から肩にかけて骨折と筋肉断絶、下顎骨折と重傷を負いましたが、跳ね飛ばされた場所が運良く奴らから見えなくなる場所で、その後探してくれたパーティメンバーに助けてもらい生き延びることができました。その後は学長と同じくトラウマです」

平地で出会ってはならないモンスターの一つとして、大勢で群れる魔牛は上げられる。
特に群れの中に子供がいる場合は、手を出していなくても視界に入るだけで攻撃対象となるため、群れを全て迎撃するか、どこかで身を隠してやり過ごすかしなければならない。
視界にいるうちは、奴らは地の果てまで追いかけてくるため、平地ダンジョンに行く際は必ず遠見のスキル保持者を同行させることが今は推奨されている。

・・・2人が探索者をしていた時期は、そういったことが周知、もしくは研究がされていなかったのだろう。
だから、何に注意を払えばいいのか、どういった行動をすべきなのか分からなかった。
そのまま・・・2人はそれから先に進むことを辞めた。
そして、その恐怖体験を過度に生徒たちに伝えている。
他の先生たちも同じような経験をして、生徒たちに過剰に注意するよう指導しているのだろう。
そんな洗脳をされたら、卒業生たちが探索する際、周囲を注意しすぎて神経をすり減らし、先に進めなくなることは容易に想像がつく。

僕は眉間を親指で揉みほぐし、2人を見た。
ここは直球で言わなければこの2人も理解ができないかもしれない。
ただ・・・厳しめの言葉になってしまうため、僕と2人の間に溝ができるかもしれないが、そこは社長に頼ろう。
この場にいるのだから多少利用させてもらっても広い心で受け止めてくれるはずだ!

「大変申し訳ありませんが、僕は僕のやり方でやっても良いでしょうか?」
「瀬尾さんのやり方でしょうか?」
「はい。学長のお話を聞く限り、どうやらここを卒業した探索者たちには死んでほしくないという思いを強く感じます」
「はい、当然です! 私より若い人たちの訃報が届くこともないように私たちの経験を伝えることが私の使命だと考えていますので」
「はい、それは立派なことだと思います。ですが、僕はあえて突き放そうと思います」
「突き放す・・・ですか?」
「はい。内容に関しては、申し訳ありませんが、社長と相談した上でこちらで決めさせてください」
「えっと・・・それは」

不安そうに帆足学長と相沢副学長が僕と鍛治社長を交互に見る。
僕も鍛治社長を見ると、僕の意図を汲んでくれたのか、すごく楽しそうな笑みを浮かべていた。

「私は別に構わんよ。予定を調整する必要があるが、パソコンを1台貸そう。話す内容を作成して私にメールで送りなさい」
「ありがとうございます。帆足学長もそれで良いでしょうか?」

僕の問いに、不安そうな表情を浮かべる2人だが、すでに鍛治社長が頷いてしまっているので承認するしかなかった。

「僕の講義を直接受けるのは何名になりますか?」
「5名を予定しています。簡単なプロフィールはこちらに」

そう言って、相沢副学長が5枚の用紙を僕に差し出した。
男が2名、女が3名・・・。

「女性の方が探索者になりたがる人多いんですか?」
「いえ、どちらかと言えば男性の方が多いです。この5人は希望者からくじ引きで選ばれた5人になります」

成績がいい5人じゃないのか!

僕は思わず心の中で突っ込んだ。
年齢は僕より一つ二つ下になるが、ほぼ同年代と言っても問題ないだろう。
その同年代に偉そうに講義されて、反発とかされないだろうか?
まあ、その時はエイジに生命力を吸収してもらおう。

「いつでもやりますぜ、主人!」

ありがとう、エイジ。
でも、急に喋らないでほしい。
ほら、3人が驚いた顔でエイジを見ているよ。
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