人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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黄泉比良坂編

次の移動先の要望? 希望? 要請?

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真山さんと入れ替わりで野中さんと一条さんが才城所長に連れられて入ってきた。
彼女とのすれ違いの際に「ありがとう」「お疲れ様」「すまない」と言葉を交わして別れていく。
そして、扉を閉めて鍵をかけた。
・・・何か内緒事だろうか?

「まずは、皆嶋の件・・・協力してもらい感謝する」

全員が椅子に座ったのを確認して、一条さんが頭を下げた。
警察内部の犯行だから、彼なりのケジメなのだろう。

「今はあの時いた透過と私たちが呼んでいる男の行方を追っている。身元はもう間も無く判明するはずだ」
「画像はこっちにも届いたけど、自衛隊の関係者ではなかったわ」
「警察でもなかった。ということは、探索者か・・・裏の人間という事になる」
「裏ですか?」

今の時代にそんな組織があるのだろうか?
あったとしても、装飾品や美術品よりも食べ物の方が価値のある現在、そんな組織が活動できるのだろうか?

「貧しい世帯への援助などは、政府もしくは関係機関が主導で行っているはずですが、それでも隠れて売買する人はいるんです」
「取り締まりはできないんですか?」
「そのレベルのやり取りは避けているんですよ。例えば、ニンジンを10本作っていて全部が綺麗な形で美味しい物になるか? 答えはノーです。物によっては割れたり動物に食われたりします。そういった物はもう商品にはならず、粉砕して畑の肥やしになるんですが、裏はそれを買い取るんです。そして食べられる箇所を切り出して売る。原価は二束三文、売値は市場より安く」
「でも、食べ物だけだと利益も少ないですよね? 動くお金が少ないから」
「・・・全容は解明できていないが」

前置きして一条さんが手を組んだ。

「スキル付きアイテムの売買が非合法に行われている可能性がある」

その言葉に僕はびっくりして彼を見た。
探索者組合・自衛隊・警察の3つの組織に関わっているため、関係者がどれだけスキル付きアイテムを厳重管理しているか理解している。
探索者組合が、拠点報告している3級探索者が場所変え観光問わず移動する際、報告を義務としていることもその一つだ。

「海外に売るとしても輸送ルートがわかれば1発で摘発されるでしょ。日本からだと必ず中国かロシアを経由しているはずですから、怪しい飛行機を見つけて捕まえることはできないんですか?」
「・・・見つからなかった」
「・・・警察組織が全力で探したんですか?」
「うちだけじゃなく、自衛隊にも協力してもらった。だが、売買の形跡は見つけることができても、そこから販売元とルートを探すことがどうしてもできないんだ」

一条さんの言葉に、僕は違和感を覚えた。
いるのは分かっている。
だけど、探そうとしても探せない。
この現象は・・・

「まさか、超広域認識阻害ですか?」

阿蘇市でどうしても反神教団を見つけることができなかった、原因となったスキル。

「可能性が高い。だから今回、上の方で話し合いがあって、ある人物の協力を仰ぐ事にした。ここから先は野中さんに説明を代わる」

野中さんに?
という事は、ある人物というのは自衛隊関係者になるのか?

「さて、上の方でどんな話があったか知らないけど、まあ、アイツなら探し出せるとは思うよ。ただね・・・」

野中さんが言葉を区切った。
その、アイツと呼ぶ人物を知っているのだろう。
何かを言おうとして僕を見てため息をつく。

「天空大陸ムーの監視人が自衛隊に所属しているのは知っているかい?」
「はい、東京タワーの地下に厳重に守られていると聞いています」
「そう・・・そいつは、名前は鎌谷肇っていう中年オヤジなんだけど、思考回路がガキなのよ。いい歳してるのに・・・」

それは・・・国を守る自衛隊としてどうなのだろう?
いや、天空大陸を監視する事は凄く重要な事だと理解している。
でもガキって・・・。

「おいくつなんですか?」
「確か50にはなっていたはずよ。スキルを効率的に使えるものだから、当時の上層部が彼にとって快適な環境を整えたのが運の尽き。引きこもって出てこなくなってね。おかげで守りやすいのは確かなのだけど、天空大陸の監視以外の業務を全て放棄するとは、誰も思わなかったでしょうね」
「・・・まさか、その人にスキル所有者の捜索を頼むつもりですか?」
「そのまさかよ」

野中さんが額を抑えて首を振った。

「今はアイツについている佐官が説得しているけど、状況は芳しくないわ。ただ、アイツがどうやら最近瀬尾さんのことを気にしているようなのよ」
「僕の事をですか?」
「君の何が彼の興味を引いているのか分からないけど、少なくとも彼の助力を得るためには君に会わせるしかないのが現状よ」

上司命令が絶対の自衛隊の中にいて、それは大丈夫なのだろうか?
第三者として聞いても特別待遇としか思えない。

「まあ、会うだけでいいのなら」
「会うだけじゃすまないと思うけれど・・・」

野中さんの不安を煽る言葉に、僕は眉を寄せるが彼女はため息をつくだけだった。

「その鎌谷さんを説得する事とは別に、探索者組合と警察からも君に依頼があるんだ」

もう終わりかな? と思ったところで才城所長が喋り出した。

「瀬尾さんは、日本で初めてのダンジョン探索者専門学校が神奈川県の小田原市にあるのを知っているかな?」

僕は首を横に振った。
正直言って、そんな学校があること事態初耳だ。

「関東だと結構知られているんだけどね。それで、まだ非公開の情報なんだけど、ダンジョン法に一部改正が行われることが決定したんだよ。具体的には、探索者によるダンジョン内での活動について、動画サイトでの公開制限が緩和される事になった」
「緩和・・・ですか?」
「そう、緩和。無闇にだれも彼もが突撃しないように、国が認めたある一定の基準をクリアした場所に限定されるけど、そこでの動画配信が許可されるようになったんだよ」

旧暦から流行った動画による配信。
当時はYouTubeというサイトがメインだったらしいが、新暦になって一度崩壊し、今では動画ツクールというサイトが日本では主流になっている。

「その流れを受けて、一度学校の方で現役探索者による講演をしてもらい、探索者の現実を知ってもらった方がいいのでは? と関係各所から意見がありました。そこで白羽の矢が立ったのが」
「僕ですか・・・」

正直に言って、お断りしたい。
喋りが得意というわけでもないし、学歴だって、言ってしまえば高校中退だ。
やむを得ずとはいえ、そんな僕の言葉を聞きたい人なんているのだろうか?

「僕より適任がいると思いますが?」
「ブラックアイズからも講義が得意な人に出てもらう予定です」

その人がずっとすればいいのではないだろうか?

「三大ダンジョンの一つを攻略した瀬尾さんの経験を聞きたい人はいっぱいいるんですよ。お願いですから受けてください」

才城所長の目に涙が浮かんでいる。
これはあれか・・・僕の説得を色々な人からお願いされたのだろうか?

「まさか・・・テレビとか、それこそ動画とか撮られたりするんですか?」
「・・・」

その沈黙は答えにしかなりませんよ。
黙る才城所長を睨むと目を逸らされた。
一条さんを見ると、こちらも僕から目を逸らす。
野中さんだけがニコニコと僕を見ていた。

「組合と警察の合同の仕掛けですか?」
「仕掛けとは言葉が悪いな。世間の要望だ。野中さんは平気な顔をしているが、自衛隊関係者からも要望が出てるからな?」
「それは言わないで欲しかったわね。でも、私個人としても、瀬尾さんの話は聞きたいのよね」

どうしても避けることができないらしい。

「期間は鎌谷から協力を得られるまででいらしいわ。それでも1~2ヶ月は掛かるとおもけれど」
「そんなに偏屈なんですか?」
「とてつもなくね」

そんな人をどうやって説得すればいいのやら。
もう1人ぐらい説得役はいないのだろうか?

「ところで瀬尾さん・・・。もう20歳になりましたか?」

才城所長の問いに、僕は頭を掻く。

「来月の3日で20歳ですよ」
「・・・だそうですよ。お別れ会は無しにしましょう」

彼の言葉に、一条さんと野中さんががっくりと項垂れて、この打ち合わせは終わりを告げた。
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