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黄泉比良坂編
最悪の実験場
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一条本部長が険しい顔で一人一人に視線を向ける。
この場には僕たちと知事以外にも自衛隊から野中さんとあと2人、探索者組合からは才城所長1人だけ、ただ、警察関係者が10人以上いた。
おそらく事の重要性から組織の主なメンバーが集められたのだろう。
「日野、状況の説明を」
「はい。先日の16時53分、私のスキルで瓦礫の中や潰れた部屋に違和感がないか確認していたところ、体育館のステージ台の下に歪んだ扉が発見されました。前回確認した際は私のスキルでは感じ取れないように密封されていたと思われます。内部は整備されておらず、木枠がいくつか確認でき、まるで坑道のようでした」
日野さんが一通りメモ帳を読み上げて目線を一条本部長に向ける。
その視線を受けて、一条本部長は目を閉じて眉間に手を当て、2、3秒後に目を開いて正面を睨んだ。
「聞いての通りだ。おそらく犯人は内部の者。五十嵐所長を始めとする数名が関与している可能性が高い。五十嵐所長はアイテムを所持していたという報告はなかったが、死霊系と道術系のスキルを持っていると思われる。この通路の奥がどうなっているかまだ不明だが、これから特別部隊を編成して突撃する。日野、人選を」
「はい。今回は、通路の狭さと相手側にこちらの行動を読ませないために少人数及び警察以外の組織から選ばせてもらいます。瀬尾、お願いできるか?」
日野さんのお願いに、僕は迷う事なく首を縦に振る。
「それから・・・」
「すまないが、俺たちを参加させてほしい」
日野さんの言葉を遮って、金田さんが手を挙げた。
「人選に予定があったと思うが、瀬尾くんが参加するのなら組合から護衛として行動している俺たちも一緒に行くべきだ」
「金田さん、この件に関しては護衛から外れてもらってもいいですよ? 組合には僕から伝えますし、この場には才城所長もいます。ミラクルミスティーの評判を落とすことにはならないはずです」
僕が才城所長を見ると、彼も険しい顔で深く頷いた。
「俺たちの心情の問題だな。ここで置いていかれるのは暗に役に立たないと言われているように思える」
そんなことはカケラも思っていないのだが、置いていかれる彼らはそう受け取ってしまうのだろう。
「人を殺す必要があるかもしれません」
「切羽詰まれば俺たちだって覚悟を決めるさ。それに、その前に瀬尾くんが無力化してくれるんだろ? 信頼してるぜ」
「予想外の攻撃が来るかもしれません」
「こっちには朱野がいるから大丈夫だ」
金田さんの答えに、朱野さんも自信満々の表情で胸を張る。
僕からは拒否できないことを悟って、日野さんを見て判断を仰いだ。
「2名ほど自衛隊にお願いしようと思ってましたが・・・2級が参戦してくれるのなら文句無しです。野中さんもよろしいでしょうか?」
「こちらとしても問題はない。防衛に長けている者はいるが、攻撃に長けているものとなると選びづらいというのが現状なのでな」
その理由に僕らは納得して頷く。
「それでは、日野たちはすぐに準備に入り研究所へ向かいうように。警察と自衛隊は連携して、いざというとき黄泉比良坂を封印できる最低メンバーを配置する。対策本部は県警察内に設置。作戦指揮は私が行う。他の者は日野から緊急要請があったらすぐに動けるように待機。以上! 解散!」
一条本部長の声が大きく響いて、僕はら緊張した面持ちで部屋を出て、日野さんの誘導の下、別の部屋へと向かった。
「今回は警察主導の作戦になるからな。すまないが頭装備をこちらで支給する物に変えてほしい」
用意されていたヘルメットを確認すると、どうやら警察専用のカメラとインカムが内蔵されているみたいだ。
僕はそれを何とも思わず着けて位置を調整したが、金田さんが何とも着心地が悪そうに顔を顰めている。
「そう言えば、金田さんは頭装備を着けていませんでしたね」
「どうも締め付けられるような感じがして、着けてはいなかったんだけどな・・・今回は仕方がないか」
顎のベルトを調節しながら自分の妥協点を探し、口を歪める。
確かにベルトを締めすぎると唾が飲み込みにくくなる。
かと言って緩めるとヘルメットがズレやすくなる。
僕はちょっときつめがいいので、唾が飲みにくいのは妥協している。
「なるべくヘルメットが動かないようにしてくれ。カメラも付いているから映像がブレると指令室が適切な判断をできなくなる」
「1人だけの画像がブレてもダメなんですか?」
「そのブレが、攻撃によるものなのか適正に装備されてないからなのか、指令室が迷うことになるからな。コンマ数秒でも命取りになる可能性は潰しておきたい」
日野さんの言葉に納得したのか金田さんは一回頷いてベルトをもう一段階キツくした。
それから僕らはテーザー銃と呼ばれるスタンガンを各自1丁持って車に乗り込み、日野さんの運転で旧研究所へと向かう。
途中、検問が敷かれていて国道9号が関係車両以外通れなくなっていた。
車はそのまま走って研究所跡地に到着し、僕らは降りてから封鎖されているバリケードの扉を通って中に入る。
中は瓦礫の撤去作業が中断されていて、中途半端に瓦礫と重機が残っていた。
「こっちだ」
天井と壁の一部が吹き飛んだ体育館の方へと日野さんが歩き出し、僕らはその後をついていく。
そして崩れた体育館の中に入り、ステージ台に近づくと、その扉が姿を見せた。
床に設置された歪んだ扉。
「さて、ここから俺のスキルを使用するが、ミラクルミスティーと指令室のメンバーに先に伝えておく。警察の上層部は周知の事実なんだが、俺のスキルは秘匿性が高く設定されてある。理由は万能すぎて俺1人いれば大抵の捜査や探索をこなせるからだ。だから、これから見せることは口外を禁止だ。一条本部長、後で全員の誓約をお願いします」
『分かった。思う存分暴れろ』
「暴れたりはしないですよ・・・」
日野さんは小さく息を吐いて、そのまま小さく呟いた。
「シルフィード、頼む」
日野さんの肩に、風の精霊がとまった。
彼がつけているヘルメットが珍しいようで、しきりにカメラを覗き込んでいる。
「シルフィード、それは後で見せてやるから。とりあえず、俺たちが出す足音や物音を発生場所から5センチまでで消してほしい。できるか?」
日野さんの問いかけに、シルフィードは何度も頷いて親指をビシッと立てた。
『それでは、突入する!』
インカムから声が聞こえたのと同時に、日野さんが風を操って扉をベキベキと捻じ曲げながら開けていく。
おそらく、あの風には僕の身体強化以上の力が込められている。
それでいて、音が全く聞こえない。
僕は先ほど日野さんが使った「万能」という言葉に納得した。
木下の炎帝は風の精霊以上の火力はあったが、隠密性は皆無だったなぁ・・・と考えていると、日野さんについて行くように指示が出たので、最初に階段を下りて行った彼に続いて下りていく。
地下は日野さんから報告があった通り、坑道のように木枠で支えられていて、身長175ぐらいの一般男性が普通に歩ける広さになっている。
僕らは足音なく道を進み、時折隠し扉がないか周囲に注意を払いながら、およそ200メートルほど進んで、外界と中を遮断する見るからに頑丈な扉の前に辿り着いた。
『密封されていて中の様子は確認できない。開くかどうかを確認して突入する』
『許可する』
日野さんがノブを握って力強く下へおろす。
それから彼が押そうが引こうが扉はびくともしないので、スライド式では? と思い伝えると、扉がかすかに動いた。
『シルフィード、中に生物は?』
シルフィードが首を横に振る。
日野さんは扉をもう少し開けて警告灯などがないことを確認して、大きく開けた。
『うっ!』
『何だこれは!?』
『最悪だ・・・』
インカムから指令室の声が次々と聞こえてくる。
日野さんが扉の位置から動かなかったので僕らからは何も見えなかったのだが、日野さんがゆっくりと中に入ったので僕も続くと、その光景が目に入った。
水槽の中に入れられた、死体たち。
それもただの死体じゃない。
モンスターと不完全に融合した気色の悪い、悪趣味な死体だった。
『こいつも・・・こいつも!』
日野さんが死体の顔を1人ずつ確認していく。
『見えているか? ・・・指令室!』
『確認している!』
日野さんと一条本部長の声が何かを押し殺すかのように低く聞こえた。
僕は死体を眺める趣味はないため、注意をしながら奥に進んでいくと・・・不意に視線が一つの水槽を捉えた。
思わず足が止まった。
視界に入ったのがいけないのか・・・見続けてしまったことがいけないのか。
僕はその水槽に横たわった、ザリガニと融合した死体に近づいて顔を確認した。
「何でこんな所にいるんだ・・・香野?」
この場には僕たちと知事以外にも自衛隊から野中さんとあと2人、探索者組合からは才城所長1人だけ、ただ、警察関係者が10人以上いた。
おそらく事の重要性から組織の主なメンバーが集められたのだろう。
「日野、状況の説明を」
「はい。先日の16時53分、私のスキルで瓦礫の中や潰れた部屋に違和感がないか確認していたところ、体育館のステージ台の下に歪んだ扉が発見されました。前回確認した際は私のスキルでは感じ取れないように密封されていたと思われます。内部は整備されておらず、木枠がいくつか確認でき、まるで坑道のようでした」
日野さんが一通りメモ帳を読み上げて目線を一条本部長に向ける。
その視線を受けて、一条本部長は目を閉じて眉間に手を当て、2、3秒後に目を開いて正面を睨んだ。
「聞いての通りだ。おそらく犯人は内部の者。五十嵐所長を始めとする数名が関与している可能性が高い。五十嵐所長はアイテムを所持していたという報告はなかったが、死霊系と道術系のスキルを持っていると思われる。この通路の奥がどうなっているかまだ不明だが、これから特別部隊を編成して突撃する。日野、人選を」
「はい。今回は、通路の狭さと相手側にこちらの行動を読ませないために少人数及び警察以外の組織から選ばせてもらいます。瀬尾、お願いできるか?」
日野さんのお願いに、僕は迷う事なく首を縦に振る。
「それから・・・」
「すまないが、俺たちを参加させてほしい」
日野さんの言葉を遮って、金田さんが手を挙げた。
「人選に予定があったと思うが、瀬尾くんが参加するのなら組合から護衛として行動している俺たちも一緒に行くべきだ」
「金田さん、この件に関しては護衛から外れてもらってもいいですよ? 組合には僕から伝えますし、この場には才城所長もいます。ミラクルミスティーの評判を落とすことにはならないはずです」
僕が才城所長を見ると、彼も険しい顔で深く頷いた。
「俺たちの心情の問題だな。ここで置いていかれるのは暗に役に立たないと言われているように思える」
そんなことはカケラも思っていないのだが、置いていかれる彼らはそう受け取ってしまうのだろう。
「人を殺す必要があるかもしれません」
「切羽詰まれば俺たちだって覚悟を決めるさ。それに、その前に瀬尾くんが無力化してくれるんだろ? 信頼してるぜ」
「予想外の攻撃が来るかもしれません」
「こっちには朱野がいるから大丈夫だ」
金田さんの答えに、朱野さんも自信満々の表情で胸を張る。
僕からは拒否できないことを悟って、日野さんを見て判断を仰いだ。
「2名ほど自衛隊にお願いしようと思ってましたが・・・2級が参戦してくれるのなら文句無しです。野中さんもよろしいでしょうか?」
「こちらとしても問題はない。防衛に長けている者はいるが、攻撃に長けているものとなると選びづらいというのが現状なのでな」
その理由に僕らは納得して頷く。
「それでは、日野たちはすぐに準備に入り研究所へ向かいうように。警察と自衛隊は連携して、いざというとき黄泉比良坂を封印できる最低メンバーを配置する。対策本部は県警察内に設置。作戦指揮は私が行う。他の者は日野から緊急要請があったらすぐに動けるように待機。以上! 解散!」
一条本部長の声が大きく響いて、僕はら緊張した面持ちで部屋を出て、日野さんの誘導の下、別の部屋へと向かった。
「今回は警察主導の作戦になるからな。すまないが頭装備をこちらで支給する物に変えてほしい」
用意されていたヘルメットを確認すると、どうやら警察専用のカメラとインカムが内蔵されているみたいだ。
僕はそれを何とも思わず着けて位置を調整したが、金田さんが何とも着心地が悪そうに顔を顰めている。
「そう言えば、金田さんは頭装備を着けていませんでしたね」
「どうも締め付けられるような感じがして、着けてはいなかったんだけどな・・・今回は仕方がないか」
顎のベルトを調節しながら自分の妥協点を探し、口を歪める。
確かにベルトを締めすぎると唾が飲み込みにくくなる。
かと言って緩めるとヘルメットがズレやすくなる。
僕はちょっときつめがいいので、唾が飲みにくいのは妥協している。
「なるべくヘルメットが動かないようにしてくれ。カメラも付いているから映像がブレると指令室が適切な判断をできなくなる」
「1人だけの画像がブレてもダメなんですか?」
「そのブレが、攻撃によるものなのか適正に装備されてないからなのか、指令室が迷うことになるからな。コンマ数秒でも命取りになる可能性は潰しておきたい」
日野さんの言葉に納得したのか金田さんは一回頷いてベルトをもう一段階キツくした。
それから僕らはテーザー銃と呼ばれるスタンガンを各自1丁持って車に乗り込み、日野さんの運転で旧研究所へと向かう。
途中、検問が敷かれていて国道9号が関係車両以外通れなくなっていた。
車はそのまま走って研究所跡地に到着し、僕らは降りてから封鎖されているバリケードの扉を通って中に入る。
中は瓦礫の撤去作業が中断されていて、中途半端に瓦礫と重機が残っていた。
「こっちだ」
天井と壁の一部が吹き飛んだ体育館の方へと日野さんが歩き出し、僕らはその後をついていく。
そして崩れた体育館の中に入り、ステージ台に近づくと、その扉が姿を見せた。
床に設置された歪んだ扉。
「さて、ここから俺のスキルを使用するが、ミラクルミスティーと指令室のメンバーに先に伝えておく。警察の上層部は周知の事実なんだが、俺のスキルは秘匿性が高く設定されてある。理由は万能すぎて俺1人いれば大抵の捜査や探索をこなせるからだ。だから、これから見せることは口外を禁止だ。一条本部長、後で全員の誓約をお願いします」
『分かった。思う存分暴れろ』
「暴れたりはしないですよ・・・」
日野さんは小さく息を吐いて、そのまま小さく呟いた。
「シルフィード、頼む」
日野さんの肩に、風の精霊がとまった。
彼がつけているヘルメットが珍しいようで、しきりにカメラを覗き込んでいる。
「シルフィード、それは後で見せてやるから。とりあえず、俺たちが出す足音や物音を発生場所から5センチまでで消してほしい。できるか?」
日野さんの問いかけに、シルフィードは何度も頷いて親指をビシッと立てた。
『それでは、突入する!』
インカムから声が聞こえたのと同時に、日野さんが風を操って扉をベキベキと捻じ曲げながら開けていく。
おそらく、あの風には僕の身体強化以上の力が込められている。
それでいて、音が全く聞こえない。
僕は先ほど日野さんが使った「万能」という言葉に納得した。
木下の炎帝は風の精霊以上の火力はあったが、隠密性は皆無だったなぁ・・・と考えていると、日野さんについて行くように指示が出たので、最初に階段を下りて行った彼に続いて下りていく。
地下は日野さんから報告があった通り、坑道のように木枠で支えられていて、身長175ぐらいの一般男性が普通に歩ける広さになっている。
僕らは足音なく道を進み、時折隠し扉がないか周囲に注意を払いながら、およそ200メートルほど進んで、外界と中を遮断する見るからに頑丈な扉の前に辿り着いた。
『密封されていて中の様子は確認できない。開くかどうかを確認して突入する』
『許可する』
日野さんがノブを握って力強く下へおろす。
それから彼が押そうが引こうが扉はびくともしないので、スライド式では? と思い伝えると、扉がかすかに動いた。
『シルフィード、中に生物は?』
シルフィードが首を横に振る。
日野さんは扉をもう少し開けて警告灯などがないことを確認して、大きく開けた。
『うっ!』
『何だこれは!?』
『最悪だ・・・』
インカムから指令室の声が次々と聞こえてくる。
日野さんが扉の位置から動かなかったので僕らからは何も見えなかったのだが、日野さんがゆっくりと中に入ったので僕も続くと、その光景が目に入った。
水槽の中に入れられた、死体たち。
それもただの死体じゃない。
モンスターと不完全に融合した気色の悪い、悪趣味な死体だった。
『こいつも・・・こいつも!』
日野さんが死体の顔を1人ずつ確認していく。
『見えているか? ・・・指令室!』
『確認している!』
日野さんと一条本部長の声が何かを押し殺すかのように低く聞こえた。
僕は死体を眺める趣味はないため、注意をしながら奥に進んでいくと・・・不意に視線が一つの水槽を捉えた。
思わず足が止まった。
視界に入ったのがいけないのか・・・見続けてしまったことがいけないのか。
僕はその水槽に横たわった、ザリガニと融合した死体に近づいて顔を確認した。
「何でこんな所にいるんだ・・・香野?」
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