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黄泉比良坂編

特殊清掃工場防衛②

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僕は貯水槽から飛び、2回ほど梯子に手を当てて減速して着地する。
それからズボンの後ろポケットから携帯を取り出して朱野さんに電話をかけた。

「朱野さん! こちらでドラゴンを確認しました! すでに交戦中です!」
『さっきの変な光ね!? こっちからも確認できたわ。すぐにそっちに向かうから!』
「いえ、朱野さんたちは建物の中で不審な人がいないか、僕らの装備が取られないか確認してください。ドラゴンは僕だけで対処します」
『無茶よ! ドラゴンの恐ろしさは私も知っている!』
「大丈夫です。一度勝ってますから。それに、これから1人助っ人が来ます。その人と僕で十分です」
『そう・・・。死なないでね』
「そちらも、気をつけてください」

走りながら会話をして電話を切る。

「グォォォォォオオオオオオオオオオ!」

アイスドラゴンがまた吠えて、黒いエネルギーを貯める。
僕を狙うのならいいが、施設を破壊されると困ったことになる。

「こっちだ! アイスドラゴン! そんなヘナチョコ攻撃が僕に効くと思うなよ!」

別の場所を向いていた口が僕の方に向けられた。
どうやら、本当に僕のことを恨んでいるようだ。
これなら他の場所への被害を最小限にできるかもしれない!

「エイジ!」
「余裕ですぜ!」

放たれた球状のエネルギーをエイジが吸収する。
攻撃自体は問題なく対処できる。
ただ、空を飛んでいることが問題だ。
あのままだと僕は攻撃できない。
なんとかして地上に落とさないと。

僕は携帯を操作して、着信履歴から日野さんの名前をタップした。

『瀬尾! 今向かっている!』
「お願いします!」

日野さんならアイスドラゴン相手に空中戦もできるはずだ。
それに、今回のアイスドラゴンはゾンビ状態だから、攻撃も前回ほど早くはない。
必ずタメが存在するので回避も防御もやりやすいはずだ。

僕は敷地の中で開けた場所を見つけ、その中央に立って符で覆われたアイスドラゴンを睨む。

「まるで呪われてるみたいだな」

符の中に肉はなく、骨しか残っていないはずだ。
その隙間の分、符を詰めているのか、それとも空洞なのか?

「差し詰め、カースド・アイスドラゴンってとこでしょうかね?」
「呪われた氷龍か。ゲームだとボスキャラだけど、今は誰かの使いっ走りらしい!」

アイスドラゴンの喉が大きく膨らんで苦しそうに口を開き、何か塊を吐き出した。

「おぉう・・・こいつは汚い」

唾液などはないはずなのに、汚く感じるのは、吐き出されたものが10体近くの死体だったからだろう。
それもただの死体ではなく、額に符を貼り付けた・・・キョンシーだ。

「使いっ走りじゃなくて、輸送機代わりだったのか」
「攻撃力高めの輸送機ですがね!」

3体が起立の状態で起き上がって真っ直ぐ両手を前に出す。
筋肉か骨か?
どうやって仰向けで寝ている体勢から直立で起き上がったのか疑問だが、解明する前にその3体が僕に向かってくる。

「叩き潰す方が先か」
「ほら、加重の出番だぜ。しっかり働けよ!」

エイジが形状変化で大鎚を作り出し、僕は3回ほど振り回して、盾を前に出して構えた。

3体がまず向かってきた。
1体は大きくジャンプして、2体は両サイドから低空を跳んでくる。
ジャンプした1体を無視して、左から向かってくるキョンシーに狙いを定めて僕から一足近づいて相手の両手を盾で跳ね上げ、エイジが魔力を吸い取り、脱力して倒れるところを大鎚をその頭に振り下ろして地面に叩きつけた。
パァン! と頭が粉々に弾け飛ぶ。
すでに乾いた死体だったのか、血の類は全く出なかった。
すぐにその場から離れて方向を変えて向かってきた2体から距離を取る。

「主人! 上!」

エイジの声に、僕は何も考えず地面を蹴った。
その場所に巨大な足が落ちてきた。
ドゴォン! と大きな音を響かせてアスファルトを踏み砕く。
歪な筋肉が盛り上がる、継ぎ接ぎだらけの奇怪な右足。
大地を割るその力は危険すぎる。
魔力吸収の範囲に入れて無力化しようと一歩踏み出したところで、別の影が僕の横に現れた。
慌てて盾をそちらに向けると相手の両手の掌が衝突した。

魔力吸収の範囲内にいたのにこの威力!

僕の身体が弾き飛ばされ地面を転がった。
起き上がって相手を見ると、相手のキョンシーも魔力吸収を受けて倒れた状態から立ち上がっている最中だった。
魔力吸収の効果はある。
防御力も僕の大鎚を防げるほどじゃない!
飛び跳ねるキョンシーに近づいて大鎚を振り下ろす。
その攻撃は避けられるが近づくことはできた。
迎撃の爪を盾で防いで、再度大鎚を一回転させて振り下ろす。
その攻撃は力を失ったキョンシーの頭にヒットして、頭部を打ち砕く。
それと同時に肘の口がアイスドラゴンの攻撃を吸収した。
あいつは前回みたいに氷という質量攻撃をないないので、近づかない限り無視していい。

「間に合った!」

強烈な風が吹いてドラゴンがバランスを崩す。

「日野さん! そいつを地面にお願いします!」
「分かった! そっちの補助は!?」
「大丈夫です! 僕1人で行けます!」

強いのは巨大な足を持った個体とカンフーを使う個体。
そして奥にいてようやく起き上がった2体。
この2体は大きめの服を着ていて、ゲームのキャラのように暗器使いでもおかしくはない。
ただ残念なのは、今回襲ってきたモンスターが全員男だということだろう。

僕が大鎚を振って巨大な足のキョンシーに近づく。
他の個体と違って、こいつは緊急の回避行動が遅い。
まず足に大鎚を振り下ろして叩き潰す。
行動できないようにして、さらに魔力吸収で防御できないようにし、大鎚を頭に振り下ろす。
バゴーン!
大きな音を立てて僕の大鎚が弾かれた。
弾いたのはカンフーのキョンシーだ。
こいつは戦いの流れも読んでいるのか?
厄介なやつだ!

魔力吸収の効果範囲から外れたのか、足を潰されたキョンシーがそのまま足を上げて僕を蹴る。
威力は全くないが、それでも僕の身体が飛ばされた。
その僕の全周囲からナイフが襲いかかった。

「いっ!?」

瞬時に大鎚を棒に変えて何本か弾き飛ばし、盾で後ろを防ぐ。
下からのナイフが足の裏に何本か刺さった。
急いでナイフを蹴り飛ばして地面に着地する。
危なかった。
あのまま着地したらナイフが足を貫いて動けなくなるところだった。
さらに着地場所を狙ってキョンシー2体が腕を振ってきた。
僕はジャンプしてその場から移動して、棒を振って1体の首を折り、もう一回転して頭をぶっ叩いて破裂させる。
残り4体。
暗器使いが厄介そうだが、一番厄介なのはカンフー使いだ。
魔力吸収されても芯まで痺れる攻撃をしてくるし、何より僕の攻撃の流れを読んでいるように見える。
身体強化しているのに、こいつがいるせいで巨大足のキョンシーを倒すことができない。

仕切り直そうと構えたところに、今度は鎖に繋がった分銅が顔に目掛けて飛んできた。
上半身を傾けてそれを避ける。
分銅はちょうど僕の頭があった場所で止まり、一気に引き戻される。
視界の端で黒い光が走った。
できたらあの光がキョンシーに当たって欲しいのだが・・・。

「主人! 来ますぜ!」

しまった!
黒い光に気が一瞬取られた!

僕が視線をキョンシーに戻すのと同時に額に見えない弾が当たった。
殺傷能力はなかったが、痛みを与えるには十分な力。
キョンシーたちを見ると、カンフー使いが指で何かを弾いたことが分かった。

「指弾も使えるのか!」

呆れるほど高性能な死体だ!

状況を把握し体勢を整える一瞬の間に、2体の暗器使いが分銅鎖を振り回しながら僕の左右から襲いかかる。
魔力吸収の範囲外!
僕の攻撃が届かない!
ただひたすら避ける避ける避ける!
ジャンプする、上体を反らす、盾で弾く、棒で絡める、バク転する、バク宙する。
嵐のような2本の分銅鎖を避け続け、時々襲ってくる指弾に警戒しながら盾を構えた。

カンフー使いが指を構えた。
盾を正面に出す。
棒は地面に突き刺す。
暗器使いが分銅鎖を振って僕を前後から挟み撃ちする。
さらに、巨大足が僕を踏み潰そうと跳んできた。

「エイジ、棒を伸ばして」
「承知だぜぇ」

盾にガン! と何かがぶつかるのと同時に棒が一気に伸びて僕の身体を宙へと持ち上げる。
分銅鎖は僕に当たらず棒に巻き付く。
僕の正面には今まさに跳んできている巨大足のキョンシー。

「まずはお前だ!」

棒を縮めて大鎚に変え、無防備なその頭に叩きつけた。
破裂する頭、落ちていく胴体。
僕も重力に逆らえず落ちていくが、暗器使いの分銅鎖が僕に向かって放たれる。
だが、地面から空に向かって放つには、流石に威力が足りない。
僕は2つの分銅を盾で防ぎ着地すると、今度はカンフー使いが突進してきた。
向けてきたのは足の側刀。
まともにくらえば、骨の2、3本は覚悟しないといけない攻撃だが、僕はあえて盾を構えて受ける体勢をとった。
バガァン! と音を立てて盾がくの字に折れ曲がる。
左腕にも激痛が走ったから、ヒビぐらいは入ったかもしれない。
身体強化しているのに、この威力!
犠牲は大きいが、おかげでカンフー使いを魔力吸収の範囲内に入れることができた!

力を失い、ダラリとその場に崩れ落ちたカンフー使いに、僕は容赦なく大鎚を振り下ろして頭を潰した。
残り2体!
息を吐く暇もなく幅の広い剣が左右から僕に襲いかかる。
僕はそれらをしゃがんで避け、
キョンシーたちも勢いに身を任せて転がって僕の吸収の範囲から外に出た。
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