人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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黄泉比良坂編

死者の倒し方とモンスター研究所

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死者の群れが僕の肉眼で確認できた。
動き自体はすごく遅い。
走ることができないせいだ。

「映画みたいに驚異的な身体能力はないですよね」
「警戒はしておけよ。昔いた死神は例外としても、中洲のホラーダンジョンでは壁を走る個体もいたからな」

怖がりな人が行ってはダメなダンジョンの一つ。
1階だけはモンスターも強くなく、ただ脅かしてくるだけなので一般にも開放されていると言う奇妙なダンジョン。

「その個体が出たのは何階ぐらいですか?」
「確か12階だったか? 今は変わっているかもしれないが、だいたいその辺りだろ」

確かホラーダンジョンは15階建のマンションだったはず。
その12階ということは、かなりの高難易度になっていたはずだ。
日野さんは自分のスキルを風魔法と言っていたが、本当は違うのかもしれない。

「まあ、風使いはただでさえ万能ですからね。適合性20%超えればそんなもんですぜ。あ? 何偉そうにしてんだ? お前を褒めたんじゃねーよ。あくまで主人が疑問を持ってたから教えただけだ! そこまで言うな? 言うに決まってんだろ! どんなに万能でも、俺様の方が役に立ってんだからな!」

途中からスキルと言い合いになったみたいだ。
互いに競争心が激しいのか、それともエイジだけが激しいのかは分からない。
そんなエイジを見て、日野さんが苦笑した。

「俺のスキルは知られてるのかな?」
「いえ、僕の方で教えないように言いました。でも、風魔法ではないことは予想してますよ」
「まあ、そうなるよな。まだしばらくは秘密ってことにしておいてくれ。自分の情報は隠しておきたいお年なんだ」
「わかりました。ひとまず目の前の障害を取り除くことから始めましょう」

1番先頭にいたゾンビに向けて一気に駆け寄り、大鎚を脳天から振り下ろす。
ベチャ!
腐った物を潰した感触が左手に伝わって、ゾンビの頭から肩までが押し潰された。
だが、このゾンビはそれでも手足を動かして僕の方へ向かってくる。

「瀬尾、倒し方が違うぞ」

横を見ると、日野さんが先ほどのゾンビを風の刃を使って細切れに刻んでいた。

「今回のゾンビの動力源は魔力だ。映画のヤツとは違って頭を潰しても動くぞ。武器がハンマーなら、徹底的に潰せ。後は気にしなくていい。一条さんが道に壁を作っているからな」

後ろを見ると、一条さんが道路全面に虹色に光る壁を出して、今どき珍しい紙タバコを咥えていた。

「あと、どうやらこいつらはダンジョンから受肉したモンスターじゃなさそうだ」
「・・・本当ですか?」
「ああ。受肉したモンスターはな、ゴブリンやコボルトみたいに、集団で活動しているやつ以外は、こんなにお行儀良く道を真っ直ぐ歩いたりしないんだ」
「離れていこうとしている個体がいないんですか?」
「いない。気をつけろ。こいつらは誰かのスキルで襲ってきている!」

日野さんの言葉に、僕は気を引き締めて周囲に気を配る。
もしかしたら、スキルの使い手が潜んでいるかもしれない。
ネクロマンサーか? 死体操作か? 幽幻道士か?

「分かりました。エイジ、お前に魔力を吸ってもらう方が早そうだ」
「そうだろそうだろ、主人! 俺様は役に立つスキルだからな! さあ、ワイルドに喰っていくぜぇ~」

エイジがゾンビの魔力を吸い取っていく。
と言っても、一気に離れたゾンビまで吸うことはできず、あくまで僕から2~3メートルの範囲内だけだ。
それでもかなりいい手だったようで、僕に近づくゾンビが順番に折り重なって倒れていった。

「主人! ハンマーを何回か回して攻撃してくれ!」
「こうか?」

右手と一体化しているため、頭の上で腕ごとグルングルンと5回転ほどさせて、重なって倒れているゾンビの背中を叩いた。
ベチャ! と腐肉と骨が飛び散って道を汚す。

「加重は主人がハンマーを回転させた回数分、重くなるようにしたぜ。あと、主人が望めば重さも一定にキープできるようにしたから、主人の思い一つで威力の微調整ができるはずだぜ~」

今までの加重だと、時間が経てば経つほど重くなっていく仕様で、場所場所でスキルをオフにしないといけない場面もあったのだが、これなら加重をかけすぎて道を破壊する心配もしなくて済む。

僕は近づいては倒れるゾンビを次々と大鎚で潰していく。
上空からは日野さんが無詠唱で風の刃を作り出して屍体を切り刻み、ミラクルミスティーの3人は、何故かみんな鼻栓をして、金田さんと真山さんが剣を振り回していた。

「DかEってところか?」

このゾンビはそこまで強くない。
数が多いから、一般人からしたら脅威だろうが、僕らの前では準備運動のネタにしかならない。
結局、一条さんがタバコを3本吸う間に僕らはゾンビを全て倒し終わった。

「強い個体はいませんでしたね」
「そうだな・・・だけど、操っていたやつは結構それなりに強いスキルホルダーだな」
「普通のスキルだと、こんなに操れないんですか?」
「スキル次第なんだろうけど、俺の知っている死霊魔術士はゾンビ3体が限界だった」
「死霊魔術士の知り合いがいるんですね」
「これから行くところの副所長だよ。そいつ以外にも死霊や霊能関係のスキルホルダーが研究員として従事している」

どうやら特化型の研究所のようだ。
確かに、蘇生やら黄泉がえりをメインテーマとしていたのなら、似た系統のスキルを集めた方が研究もし易かったのかもしれない。

ちょっとだけこれから行く場所のことを考えていると、遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。音が近づいてきていることから、こっちに向かって来ているのだろう。

「・・・この臭いと肉片見ても吐かないよね」

流石に普段ダンジョンに入らない警察と言っても、受肉したモンスターを一定数は狩っているはずだ。
例え腐乱した死体がそこらじゅうに散らばってても・・・、

「「「「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおえええええええええええええええ!」」」」

どうやら耐えきれなかったようだ。

後で知ったことだけど、かなり酷い臭いがしていたらしい。
僕はエイジがそのてのを吸収してくれてたからわからなかったようだ。

「日野さんも大丈夫でしたよね?」
「俺も風の防壁で、大気から来るダメージ系は一切届かないようになってる。毒とか散布されても平気な方だ」

普通の魔法スキルだと、そういう事もいちいち詠唱して発動させないといけないらしい。
しかも動けなくなるとか・・・魔法や魔術系は意外と縛りが多いようだ。
そういえば、植木さんも増幅した魔法を撃った時は安全な入り口から撃ったよな・・・。

とりあえず、ゾンビの千切れ飛んだ肉や骨や変な紙・衣類を清掃業者とまとめてコンテナに入れ、一緒に研究所に行くことになった。
これらのモンスターの素材も研究の材料になるそうだ。
臭すぎて研究どころではないと思うが、そこは僕たちが知らなくてもいいことなのだろう。


「なんでこんな物を正面に持ってくるかな! 裏に運んで! 鳥島くん! そっちは任せるからね!」
「うぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!」

もう既にアウトのような声が。
指示を出した女性研究員の副所長・皆嶋叶さんは、そんな悲痛な声を無視して、凄く濃いクマを貼り付けた顔で僕らを一人ひとり睨んでいく。

「一条本部長、こんな突発的な仕事は困るんですよ」
「いや、確かに困るんだろうが、こっちとしても仕方なく・・・」
「だったら人数増やしてよ。こっちは以前の三分の一になって、寝る間を惜しんで仕事しているんだよ!? 確かに僕たちはモンスターをイジるのが好きだよ。でもね! それは解明したいからであって、死ぬ間際までイジる気はないんだよ! わかって欲しいかな!」

どうやら、抜けた研究員のぶんまで働いているようで、ものすごくストレスが溜まっているようだ。
ブレイクダンスの人がしてるように、髪を幾つもの編み込んで大きな額を惜しげもなく披露して、そこに浮かぶ青筋を僕らに見せつける。

「皆嶋、お久」
「おーおー、久しぶり、日野っち。片目はどっかに落としたのか?」
「ムカつく奴に取られそうになったから破裂させた」
「何その危険な人体武器。もう一回やって見せてよ」
「もう一個も先約があるんだ。諦めてくれ」
「それは残念だ。キャンセルされたら是非とも僕のことを思い出してくれよ。さて、そっちは・・・噂の英雄くんだね」

皆嶋さんが僕に近づいて頭一つ低い位置から僕を見上げる。
興味の光を隠そうとしないその目から、僕は視線を外すことができなかった。

「初めまして。僕は副所長をしている皆嶋叶だ。よろしく頼むよ」
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