人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

反神教団の声明

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支部長室にいるお偉い人たちがスキルのことで話をしている。
どう発表するかでも悩んでいるようだ。

「そうだ、木下は今回のアタックの報酬は聞いた?」
「いや、魔石の分配を京平に一任したとこで終わってる」
「ふーん。最低300億入るから。後で支部長から契約書もらうと思うけどちゃんと読むようにね。信用して読まないとかするなよ」
「・・・おう」
「ほら考えるのをやめただろ。如月さんと結婚するんだろ? ちゃんと金額確認して、いついくら入るか見てそれから履行しない場合とか遅延した場合とかの条文も確認しないといけないんだぞ」
「待て待て、そんなに言われても俺には分からねーよ。日和子に同席してもらうことできないのか?」
「館山さんは帰ったけど、如月さんは残っているのか?」
「・・・」

木下が席を外して扉を閉めた。
その音を聞いて支部長が僕に目を移す。

「あ、重要な話を忘れてた」

支部長の声に、他の人も次々と会話を止める。

「瀬尾。以前話をした反神教団のことを覚えているか?」
「忘れるわけないでしょ」

安部と・・・莉乃が所属している団体だ。

支部長は一度頷いてリモコンを操作した。
彼の正面の壁に付けてあるテレビが画面の色を変えた。

「反神教団が声明を発表した。そのせいで探索者組合も混乱が起きている。ひとまず瀬尾の感想を聞きたいから、動画を見てくれ」

画面に一人の人物が映し出された。
全身黒ずくめ。
何処かの秘密組織の格好とも思われる姿で、体格からかろうじて男性か? っと想像するぐらいしか情報がない。

『初めまして、皆さん。この度は、私たちの組織が発足したことを皆様にお知らせするために、この動画を公開しました。発足といっても、組織自体は昔からあって、不名誉な名前で呼ばれていましたが、改めて、一部で呼ばれていた組織名を使用します。

私たちは反神教団。
今のこの世界に反旗を翻す団体です』

グッと拳を固く握った。
探して探して・・・何度も焦って尻尾が掴めなくて、掴んだと思ったら逃げられて。
ついに姿を・・・存在を現した。

『さて、皆さんは今のこの世界をどう思いますか? ダンジョンが出現し、モンスターが生み出され、空と海が危険区域になり、生活できる場が狭まったこの世界・・・歪だと思いませんか?
神が存在を明らかにして80年以上が経ちました。
私たちの生活は大きく変わりました。
食料は少なくなり、人口は減って滅亡に近づいている。

何故こうなった?
神が居たと分かり、魔力が与えられたとき、私たちは興奮したはずだ。
今の自分たちからの脱却できることを期待して、強く、裕福になる自分を夢見て!
現実は!?

・・・私たちはダンジョンやモンスターのエサとなっている。

現状を打破するために、私たちは一つの思いを持って神に反逆します。

人類にレベルシステムを授けること。
ダンジョンに対抗し、モンスターどもを叩き潰せる唯一の希望であるレベル!
80年以上前に、神が私たちに授けるのをやめたそれを、改めて私たちに授けるよう直訴します!

必要であれば、神を倒し、その地位を簒奪することも考えて、私たちは動きます。

私たちの考えに賛同しない方もいるでしょう。
神に反逆するという不遜な考えを否定する人もいるでしょう。
ですが、私たちにはレベルが必要です。
生きるために、弱者を救うために、皆様には私たちの行動を静観していただくようお願いします』

映る人物が深くお辞儀をして、頭を上げたところで、同じ格好をした人がその後ろに集まる。
1人ではないことをアピールしたいのか・・・。
その中の一人に・・・目がいった。

「莉乃・・・」

見て分かった・・・分かってしまった。
そしてその映像が数秒続いて動画は終わった。

「感想を聞こう。どう思った?」
「至極真っ当なことを言うんだなっと思いました。犯罪集団のくせに」
「真っ当か?」
「真っ当ですよ。今この世界が歪なことは誰もが感じています。船に乗れず飛行機に乗れず、運輸は廃れ国交はほぼなくなり、その人も言ったように人類は滅亡に向かっています」
「・・・」

僕の断言に全員が黙った。
皆んな何処かで感じていることだからだ。

「打破するためにも、レベルが必要というのも理解できます。銃火器が効かない相手と戦いたいなら、こちらも同じ条件になって戦えばいい。そうすれば、少なくともモンスターと対等になれる。・・・ですが、たった一つの懸念のせいで、僕はレベルシステムを否定します」
「・・・言ってくれ」

支部長の促しに、僕は一呼吸おいて息を吸った。

「悪人が真っ先にレベルMAXにたどり着くという懸念です」

全員の眉間に皺がよった。
警察や自衛隊はその可能性を否定したいかもしれないが、何処にでも抜け道や抜け穴は存在するものだ。

「レベルシステムが授かれば、必ず暴力による混乱が起きます。何か諍いが起きれば暴力で、欲しいものがあったら暴力で、言うことを聞かせたかったら暴力で・・・。既存の銃火器は抑止力になりません。警察や自衛隊もレベルを上げて応戦するでしょう。そして、レベルを上げていない人たちが巻き込まれる。絶対にそうなります」

神がレベルを授けたとして、何処まで強化されるか不明だが何も持たない者の横に突然B級モンスターがいるような状況になる。
一般市民は恐怖で眠れない世界になるだろうな。

画面の人は生きるため、弱者を救うためと言っていた。
耳障りのいい言葉だ。
その後に起こることに目を向けさせないために・・・。

ふと、僕は首を傾げた。
画面の人が言ったことは覚えている。
間違いはない・・・なのに?

支部長を見る。
城島さんを見る。
警察の人を見る。
鬼教官を、日野さんを、鬼木さんを見る。
みんな・・・気づいている。

「支部長・・・もう一度、動画を始めから流してください」
「ああ、いいぞ」

動画が最初から流れる。
画面の人が話を始めた。

「もういいです。止めてください」

僕の言うとおりに支部長が動画を停止した。
・・・間違いない。

「・・・この人の口調や声の高さ、癖が覚えられない」
「ああ、全員そうだ。誰も覚えられない。例外は1人もいない。だから想像できた。・・・こいつがお前たちの言うアニキなのだろう」
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