人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

文字の大きさ
上 下
95 / 155
阿蘇ダンジョン攻略編

守る者たち

しおりを挟む
木下が何とか立ち上がって魔人の背中に殴りかかる。
だが、その行動を読んでいたのか、魔人が振り返って木下の拳を払い落とすと同時に腹に独鈷を突き刺す。

「がはっ!」

物理無効が効いていない!
ダメージが完全に通っていて、木下はその場で再度膝をついた。

「挑戦者よ。元気なことはいいことだが、俺との戦いのために取っておいてくれ。疲れ切ったお前と戦っても面白みに欠ける」
「勝手なこと言ってんじゃねー。テメーが破壊しようとしているものは、俺たちが守っているものだ! そう易々と諦められねーんだよ!」

炎の大剣をまた作り出し、木下が切りかかる。

「ふむ・・・仕方ないな」

その大剣を避けながら魔人は何かを考えて、一度頷いて剣を構えた。

「強制休憩だ」
「うぉぉぉぉおおおおおおらああああああ!」

木下の攻撃を避けて、魔人がすれ違いざまに独鈷を腹に突き刺して手を離した。

「がふぅ! こ・・・この・・・」

独鈷を腹から抜こうと手をかける。
その隙に魔人が刀の柄で木下の首の辺りを思いっきり打った。
堪らず木下がその場に倒れると、その足を2本の剣で突き刺し、押し込んで地面に縫い付けた。

「がぁぁぁぁぁああああああああ!」

痛みに木下が吠える。

「そこで見ているがいい」

魔人が火口の縁に向かって進む。
ダメだ。
まだ準備が終わっていない。

「えいじ・・・すきる、きゅうしゅう」
「・・・」

エイジに僕を縛るスキルの吸収をお願いしたが、エイジはそれに応えない。

「えいじ・・・」
「ダメよ、瀬尾くん。君はもう、何があっても戦わせないわ」

如月さんが強い口調で僕に言った。

「きのしたが・・・」
「信じて。お願いだから、彼と私を。君のパーティメンバーを!」

僕と如月さんが言い合っている間に、魔人は阿蘇市を見渡せる場所に辿り着き、ニヤリと笑った。

「ああ、あるな。あそこだ。あそこに力が集中している。なるほど、あれならば切り札足り得るな。この俺が気づかなければの話だが」

4本の腕を大きく広げ、炎をその中央に集め出す。
その熱量に、魔人が立っている地面が溶け始め、離れているはずのアイスドームも徐々に形を崩し始めた。

「この! 私のドームまで!」

如月さんは高熱に押し負けまいと、スキルに集中してアイスドームを維持しようとする。

そして・・・魔人の前に小さな太陽が出現した。
小さいと言っても僕たちを飲み込むには十分すぎる大きさで、あれが仮に阿蘇市に着弾すれば確実に焼け野原になる。
エイジの吸収なら!
あれを吸収出来るはずだ!

「えいじぃ!」
「ダメだぜ、主人。吸収は出来るだろうが、距離が遠すぎる」

だからと言って見てるだけなんて出来ない!
僕は身を捩って何とか拘束から逃れようとするが、激痛もあって拘束が解けることはなかった。

そして・・・魔人の炎の塊が完成した。

「では、滅びろ。名も知らぬ街よ! この俺が滅ぼした最初の街として名を残すがいい!」

ドン!

重低音が響いて炎の塊が放たれた。
・・・もうダメだ。
阿蘇市は焼け野原になる。
僕はその先の光景を見ることができず、右目を閉じて顔を背けた。

「だからさせねーって言ってんだろうが!」
「貴様! どうやって!?」

木下の声が響いた。
同時に魔人の驚愕した声も聞こえた。

僕は目を開けて見ると、木下が空を飛んで、巨大な盾を作り出して炎の塊を受け止めていた。

バカな、木下は両足を地面に縫い付けられていたはず。
僕がその場所を見ると、そこには切り離された2本の足と、魔人の剣が放置されている。
・・・あいつは、自分の足を切ったのか!?

確かに今のやつなら移動は飛行すればできるだろう。
だけど、力尽きてスキルを解除してしまったら、切った足は手術で繋ぐしか元には戻らないんだぞ!
あいつはバカか!?

「言っておくけど、瀬尾くんに和臣くんの行動を批判する権利はないからね。君が取った無茶な行動はあれと一緒よ」

一緒にして欲しくない。
一緒にして欲しくないが、僕は何も言えずに歯を食いしばった。

目の前では木下が炎の塊を押し返そうとして、魔人もそうはさせまいと力を込めている。

「愚かだ! 全くもって愚か者だ!」
「ウッセーな! テメーが俺を批判してんじゃねーよ! 俺は俺で最善を選んでいるんだ!」
「その最善とやらで自分の足を切ったのか? 俺との戦いはどうするつもりだ!」
「どうするもこうするもあるか! お前と俺との戦いはもうない! 俺たちが街を守り切ってお前は倒されて終わりだ!」

木下の身体が金色に輝く。
あいつ自身も炎の塊に対抗するため、かなりの熱を放っているはずなのに、全く恐怖を感じない。
それどころか、魔人の放った熱も和らいでいる。

「お前の攻撃を防げばぁ、俺たちの勝ちだぁぁぁぁああああああああ!」
「戦いながら寝ぼけているのか愚か者! ならば防いでみるがいい!」

炎の塊が大きく膨らんで・・・木下に向けて中に渦巻いていた力が放たれた。
一つの街を破壊することができる力を、木下は大楯で受け止めて耐える。
盾に弾かれた力は千々になって至る所に飛んでいった。

「きゃっ!」

そのうちの一つが僕たちの上を飛んでいって、一瞬でアイスドームが蒸発する。
如月さんが慌ててドームを作ろうとしたが、エイジがそれを止めた。

「安心していい、炎の小僧の奥方。熱やスキルは俺様が吸収出来る。あれはその範疇だから、この場にいる限り安全だと思っていい。ドームは不要だぜ」
「そ、そうなのね」

自分を守る物がないという状況が不安なのか、少し身を震わせて、それでも無様な姿は見せないように胸を張って木下を見る。

飛び散る力が流れ星のように散っていく。
あの先に阿蘇市や他の場所を守っている人がいないことを願った。
上手くA級モンスターに当たってくれると嬉しいのだが。

そうして炎の塊は力を放出し続けて、徐々に消えていく。
防ぎ切った。
最大のピンチを切り抜けたことに喜びを感じたが、その代償は大きく残された。
・・・木下の両腕が消えていた。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・」

息を荒くして、浮遊する力も失い地面に降りてグッタリと座る。
その姿を、魔人はつまらなさそうに見て首を掴み上げた。

「お前は挑戦者じゃない。ただの愚か者だな。俺を前にその腕と足で何ができる? 街を守った。確かにその通りだろうが、お前が死んだら誰があの街を守るんだ?」
「ぐっ! がはぁ!」
「結局お前は何も守れていないんだ」
「こ・・・この・・・」

魔人の腕を振り解こうと身を捩るが、腕も足もない状態ではただ動いているだけに過ぎない。
木下が危ない!

「きさらぎさん、こうそく、といて!」
「・・・ダメよ」
「きさらぎさん!」
「私が行くわ」

如月さんの言葉に、僕は右目を大きく開けた。
流石にそれは自殺行為だ!
魔人と如月さんでは力に差がありすぎる!

「私だってね、1級パーティのメインメンバーなのよ。いざという時に取る行動は決めてるの。それにね・・・」

彼女は僕を見てニコッと笑った。

「彼氏を助ける女性ってかっこいいでしょ」

如月さんの周囲を白い冷気が覆っていく。

「瀬尾くんはここで待っててね」
「きさらぎさん!」
「大丈夫。私たちは勝つ!」

如月さんが駆け出した。
白い冷気が走る彼女をスッポリと包み、その形を変えていく。
そして、1匹の氷の狼が冷気の中から飛び出した。
大きさは水牛ぐらいだろうか?
人と比べたら大きいのだろうが、今の魔人と比べると片足ぐらいにしかならない。
それでも彼女は一直線に向かっていき、魔人が気づいたときには、口を大きく開けて飛びかかった。

「和臣くんを離せぇぇぇぇぇええええ!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」

氷の狼が右足に噛みついた。
そして、どうやらそれは魔人に大ダメージを与えたようで、魔人が初めて苦痛の叫び声を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

処理中です...