人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

総力戦準備

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強制転移されて、最初に確認することは他の2名の居場所。
二人ともすぐ近くにいたため目視するだけでそれは終わった。
次に周囲の状況。
足場はしっかりあるが、先ほどとは違い光がある。
それも、暖かい日の光だ。
上を見た。
青空が広がっている。
外? それとも異界?

『瀬尾! 聞こえるか? 瀬尾!』

インカムから支部長の声が大音量で響いた。
通信が通じている。
ならここは外か!

『瀬尾!』
「支部長、そんなに怒鳴らなくても聞こえていますよ」
『いきなり映像が復旧してこっちは混乱しているんだ! そっちで何があった!? さっきから起きている地響きと何か関係があるのか!?』

状況を掴もうとしているのか、質問が矢継早に飛んでくる。

「さっきまで僕らはダンジョンのボスと戦ってました」
『ダンジョンボス!?』

支部長の声が裏返った。
まあ、僕も突然そんなこと言われたら確かにビックリするだろう。

『倒したのか?』
「いえ、戦闘継続中です」
『映像では敵が見当たらんぞ』
「後で僕の記録を解析して貰えばいいんですが、短く言うと、さっきまでボスの枝か葉っぱかトカゲの尻尾みたいなのと戦って倒しました。これから本体かその前との戦いになります」

ゴゴゴゴっと地面が唸り声を上げた。

「支部長、時間がありません。恐らくボスの出現と同時に噴火が起きます。規模も溢れるモンスターのランクも不明ですが、A級が何体も飛んでくる可能性があります。自衛隊と警察に連絡して急いで防衛ラインを作ってください」
『分かった! 城島さん、菊野さん聞こえましたね。すぐに通達を頼みます!』
『分かりました。自衛隊は空自にも要請をして被害を最小限に抑えるよう努力しましょう』
『警察としても、モンスターの被害が広がらないよう努力しよう。日野くんも手伝ってくれ』
『来て早々か。温泉に入りたかったんだがな』

え?
聞いた事のある声がインカムから聞こえた。

「日野さん?」
『久々だな、瀬尾くん。しばらく行動を一緒にするからよろしく』

僕からはその姿を見ることはできない。
向こうも僕の姿は確認できないだろうが、それでも見知った人が助けてくれるのは心強い。

地響きは徐々に大きくなっていく。
もう間も無くだ。

『瀬尾、さっきまでボスの枝か? 戦っていたんだよな?』
「ええ、そうです」
『大きさは?』
「だいたい5メートルぐらいです」
『本体かどうかの判別は可能か?』
「多少の時間をいただければ」
「魔力を俺様が感知できれば一瞬だぜ」
『・・・誰の声だ?』
「・・・後で説明します」
『分かった。取り敢えず本体の大きさはそれ以上だな。念の為、市長と宮司に繋げ! 相手がダンジョンボスなら阿蘇神社の力を見せる絶好の機会だ!』

どうやら秘密の何かがあるようだ。

『瀬尾くん聞こえますか?』
「副支部長?」
『支部長が出かけましたので私が連絡係になります。噴火に関しては自衛隊・警察・探索者で連携をとるので心配しないでください。瀬尾くんたちはボスの気を惹きつけて、絶対に阿蘇市にボスの攻撃が向かないようにお願いします。準備が出来次第合図を送りますので、その時はすぐにボスから離れるように』
「準備の時間は?」
『およそ20分』

長い・・・。
だが、やらないといけないみたいだ。

「分かりました。なんとかします」
『お願いします』
『如月、そこにいるか?』

副支部長に代わって館山さんの声が聞こえた。

「いるわよ」
『貴重な体験をしたな』
「貴重すぎて寿命が縮んだわ」
『そっか。残念だが、まだ迎えにいけそうにない。俺たちもこっちで協力することになった』
「館山さんがいるなら安心ね。私も頑張って生き延びるわ」
『おお、頑張れよ。じゃあな』

信頼しているのか、短いやり取りだったが如月の表情も変わってなんとしてでも生き残ってやろうという意気込みを感じる。

「如月さん、噴火が起こると思いますので」
「大丈夫よ。衝撃波や黒煙なんかも対処する。事前にある程度離れて氷のドームを作っておけばその二つは問題ないわ。地震でヒビが入っても修繕すれば黒煙が入ってくることもないでしょう」

流石1級探索者チームの主力メンバーといったところか。
理想通りの対処法に僕は頷いて木下を見る。

「今回のキーマンはお前だな」
「どのくらいの大きさかによるがな」
「5階で見せたあの巨人状態はどのくらいの維持できる?」
「試したことがないからはっきり言えない。でも、やんないとダメなんだろ?」

そう、泣いても叫んでもやらないといけない。
エイジが判別し、支部長たちの準備ができるまで・・・その時間を稼いでもらう必要がある。

ゴゴゴゴと地面が長く鳴動し始めた。

「くるぞ! 如月さんは離れてください!」
「分かった。二人とも気をつけて!」
「しっかり倒して戻ってくるぜ、日和子」

地面の揺れが大きくなった。

「さて、今回はどんな姿だろうな」
「最初はしっかりとした人型だったけど、2回目が溶岩の化け物だったから、今回は炎の巨人かもな」
「俺と丸かぶりじゃねーか」
「その時は、間違って攻撃されないようにしないとな」
「洒落にならねー」

地面が跳ねた。
僕は岩に手をついて体勢が崩れないよう身体を支える。
木下は無難に飛び始めた。
そして・・・

ドゴォォォォォオオオオオオオオオン!!

大爆発と共に大量の黒煙が空を覆って日の光を遮る。
空を見ると黒煙の中に大量のモンスターが見えた。
あれらは他の探索者や自衛隊、警察に任せるしかない。
僕らにも衝撃波が襲いかかり、僕は地面にしがみついて、エイジに可能な限り環境を吸収してもらう。
木下の方を見ると、空中で衝撃を受け流していた。

「木下!」
「なんだ!?」
「僕が合図を出したらボスから絶対離れろ! 絶対に聞き逃すなよ!」
「オッケーだ!」

ズドォォォォォン!

2発目の噴火が僕の身体を跳ね上げる。
上を見ると、さっきと同じ量の黒煙とモンスターが見えた。
多すぎる!
温泉があるとしても、死傷者が出てもおかしくないほど大量のモンスターだ!

僕は唇を噛んで火口を見た。
モンスターは僕の仕事じゃない。
意識を無理矢理まだ現れていないボスに向ける。
火口は2度の噴火によって大穴が開いていてそこから溶岩が溢れ出していた。

・・・くるか。

「褒めてやるぞ、残灰ども・・・」

溶岩の中から巨大な魔人の手が現れた。

「俺の分体とはいえ、よくその矮小な身体で倒せたものだな。その功績を認めて・・・貴様らをこの俺手ずから完全焼却してやろう!」

姿を現した魔人は・・・炎の髪を振り上げて僕らを睨む。
あいつが手をついた地面が真っ赤になって溶けている。
・・・あれの存在そのものが超高温の塊なのだろう。

「エイジ、本体かどうかの判別方法は魔力吸収以外にないのか?」
「魔力を吸収するしか手はないぜ、主人。本体には魔力を統括するコアがあるからな」
「そうか・・・なら頼むぞ!」
「承知だぜ! 主人!」

やる事はさっきと同じ。
あいつに張り付いて魔力を吸い取る!
僕は一呼吸して炎の魔人に向けて走り出した。
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