人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

スキル進化

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どこからか声が聞こえた。

「こんだけ俺の家で遊びまくったのに、主である俺に挨拶なしっていうのはどうなんだろうな」

このダンジョンの主!?
これはダメだ!

「逃げるぞ! 木下!」
「日和子! 俺を掴め!」
「ひっ! 魔法陣が!」

細かい魔法陣がいくつも重なって、僕たち一人ひとりを取り囲む。
殴りつけるが魔法陣はびくともしない。

「招待してやろう。光栄に思え」

景色が一瞬で変わった。

見渡す限り溶岩の海。
僕たちが立っている場所だけが岸の状態になっている。
そして、溶岩の海の中央に、それは・・・炎の魔人が座っていた。

「やあ、命知らずの挑戦者達よ。初めましてだ」
「・・・こっちとしては会う前に帰りたかったのですが?」
「つれないことを言ってくれるな。初めての訪問客が俺を目の前にして帰るのを許せると思うか?」
「僕らの意思は?」
「関係ないな。重要なのは俺の意志だ」

完全に自分が強者だと理解している。
これはもう、牛頭馬頭レベルではない。
何とかして逃げることを優先させなければ!

視線を周囲に向けて、どこかに出口がないか探る。
突然、全身を恐怖が襲った。
恐怖の発信源はあの魔人だ。

「俺が喋っている。よそ見するな」

二度目はない。
その表情からそれが伝わってくる。

「まあ、貴様はここに来るまで随分と活躍したらしいからな。多少の無礼は許してやろう。しかし・・・1人だけか、まともに戦えそうなのは」

その視線が木下を見た。

「俺に挑戦することを許してやる」

僕は喉をゴクリと鳴らして木下を見た。
こいつの表情はフルフェイスのせいでわからないが、緊張しているのだけはわかる。

「木下、僕も行く。一緒に飛ばせるか?」
「・・・」

木下が僕に顔を向けた。

「今回は俺1人だ。お前は休んでろ」
「え? うわぁ!!」

体からゴッソリと力が抜けて、その場に膝をついた。

「日和子、コイツが無茶しないように見張っててくれ」
「・・・分かったわ。実際和臣くんしか戦えそうにないしね」
「木下! お前!」

コイツ! 僕にかけてた付与を解除しやがった!

「このダンジョンに来て、俺の強さを見せて役に立つことを教えるつもりだった。結果、京平におんぶに抱っこだったけどよ。でも、1番つえー敵を倒せば認めるよな」
「ふざけるな! あいつは強敵どころの相手じゃないぞ! 本当なら数チームと自衛隊が連携して倒す相手だ! 単独で相手していい敵じゃない!」
「お前だってアルマジロと戦っただろ。俺も見せねーとな!」

木下が歩き出す。

「おい待て!」

僕はそれを追おうとして立ち上がることができなかった。
アイスアーマーが、まるで拘束具のように僕の身体を固めていた。

「如月さん!」
「ダメだよ。和臣くんの言う通りにして」
「あいつが死ぬかもしれないんですよ!」
「和臣くんは生きて帰ってくるよ。絶対に!」
「如月さん・・・」

彼女の身体が・・・小さく震えていた。

クソ!
どっちにしろ、彼女の拘束を解けない今の僕があの場に行ってもすぐに死ぬだけだ!
前を見ると木下が魔人の前で、溶岩の海の上を立っていた。

「来てやったぜ」
「ふふふ・・・態度が大きいな。俺はこのダンジョンの主だぞ?」
「カンケーねーよ。だったら俺は炎帝だ。火や炎は全て俺の支配下なんだよ。つまりお前は俺の下僕ってことだ。ほら、頭を下げろや」
「・・・ここまで辿り着いた事を鑑みて、多少の無礼は許すつもりだったが・・・気が変わった。消し飛ばしてやろう、お前の炎を!」
「支配してやるよ、貴様の炎!」

ゴガン! と両者の拳が打ち合った。
ただの拳じゃない。
巨人クラスの巨大化させた拳だ。
両者とも巨大化させたそれを、全く手加減なしでぶつけたため、衝撃で溶岩が津波となって僕たちの方に向かってきた!

「えっ! ちょっと!」
「如月さん! 早く氷の壁かドームを!」

目の前に5メートルほどの氷の壁が出現して、向かってきた溶岩を防ぐ。
ただ、とてつもない水蒸気が発生して僕らから木下の姿が見えない。
強烈な音だけが聞こえるが、同時に津波まで発生しているため、如月さんも気を抜くことができない。
・・・僕だけが、何もできていない!

焦る。
さっき、ようやく地下9階のボスを倒して妥協しながらも自分の中で割り切ったはずなのに・・・。
この現状で・・・この環境で・・・僕は何も出来ないのか!

ゴガン!
一際大きな音が響いた。

「ぐはっ!」
「がははは・・・。力の差が出たようだな。それでは、愚かな者に代償を。俺に逆らった罰を受けろ!」
「まだまだだ! あいつはこの逆境をいくつも跳ね除けたんだ! 俺だってやってやる!」

二つの声が聞こえた。
木下が劣勢のようだ・・・。
あのバカ!

「和臣くん・・・」

如月さんが不安そうに呟く。
僕はその姿を見て・・・俯くことしかできなかった。

・・・何か・・・ないのか。
出来ることは・・・何か・・・。

不意に、胸の内側で何かが移動した。
ああ、進化の実か・・・。
そうか・・・これがあったか・・・!

「弱くなることは許さない!」

ドクンと僕の中で何かが喜びの声を上げた。

「失敗も、使い勝手が悪くなるのも許さない。必ず最高の進化を! あいつらに負けない力を!」
「瀬尾くん? 何をしようとしているの!?」

如月さんが気づいたか。
でも、もう決めた。
あのダンジョンボスは、僕が倒す。

「進化の実を! 生命力吸収に使用する!」

激痛が右腕から全身に駆け巡った。
あまりの痛みに、僕は叫び声をあげようと口を大きく開ける。
そして・・・世界は白と黒に変わって、僕らの時が止まった。



『緊急事態発生! 緊急事態発生! スキルの異常進化を感知しました! 進化を選択した方は今すぐキャンセルをしてください!』
『黙れ、システム! 母様から最初に生み出されたスキルだからといって、俺様の主人の要望を勝手に跳ね除けてんじゃねーぞ! ようやくだ! ようやく俺様の活躍を主人に見てもらえる!ようやく俺様の時代が! く~~~る~~~~~!!』
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