人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

牛頭馬頭

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獄卒という空想の鬼がこの階にいる。
刺又の投擲で、僕の装備を削り壊す力を持つモンスターだ。
木下の付与と身体強化を合わせても、避けることができなかった攻撃。

「もう一回言うけど、私のアイスアーマーも過信しないで。この壁みたいな防壁なら修復時間を稼げる厚みを出せるけど、瀬尾くんに付与したアーマーにそんな厚みはないわ。あくまで冷却するだけの物だと思って」
「はい、分かっています。モンスターの攻撃は全て躱します」
「吸収すれば攻撃すら来ないもんな」

どうだろう・・・。
武者は出会う度にいろいろな対策をしてきた。
喋るモンスターは別格だ。
別格2体か・・・何を仕掛けてくるのだろう・・・。

僕は氷の壁から出て奴らを探す。
まずは元の広間だろう。
階段のとこにあった広間だが、かなり広かった。
できればバラバラに行動していたらラッキーだと思おう。
僕はそっと歩いて進むが、さすがに足音など全ての音を抑えることはできないと悟って、諦めて普通に歩いた。
そして、彼らはそこにいた。

「ふむ、逃げずに戻ってきおったよ、牛頭」
「我々が急いていただけだったか? まあ、楽しめるのであれば過程は目を瞑ろうか、馬頭」

座っていた2体が立ち上がる。
改めて見るが、かなりデカい。
しかも筋肉がはち切れんばかりに盛り上がっていて力の強さを表している。

「さっきは逃げて悪かったな」
「ほう・・・臆せず話しかけてくるか。まあ良い。そちらにも何か事情があったのだろう?」
「ああ。それも解決した。後はあんた達を倒して、この階のボスを倒せば終わりだ」
「強く出るな、小人。俺と馬頭を1人で倒すつもりか?」
「倒せるさ」
「確かに、あの妙な術があれば、我々は手も足も出ないだろうな」
「そうあっさり認めずともいいだろうに」
「現実を見ることは大事だぞ、牛頭よ」

僕が広間に入る。
あいつらとの距離がまだ遠い。
一歩でも近づいてスキルで倒さなければ、遠距離では勝ち目はない。

一歩、二歩、三歩と足を出した瞬間、僕は後ろに飛び退いた。
三歩目の足の位置に2本の刺又が突き刺さり、地面に亀裂を作り出した。
やはり油断はできない。
僕の額に汗が浮かぶ。

「残念だが小人よ、そこから先へは今はまだ進まないでもらおう」
「今はまだ?」
「おう、今はまだだ。もう間も無く、否が応でも全力で戦ってもらうさ」

牛頭がニヤリと笑みを浮かべた。
悪い予感がする。

「そんなことを聞いてじっとしとくとでも?」
「抵抗するのは自由だ」
「俺の方はお前が暴れてくれた方が楽しいな」

僕が走り出す。
牛頭がそれに合わせて刺又を振った。
空気が唸り声を上げて衝撃波が発生し地面を抉って僕に襲いかかる。
一撃の範囲が広い。
牛頭と馬頭を中心に円を描くように横に移動して衝撃波から逃れる。

「ふん!」

牛頭がさらに刺又を横に振った。
三日月状の衝撃波が飛んできた。
掠ってもアイスアーマーが砕けることは理解しているため、掻い潜ってスキル範囲内に進むことはできない。
万が一のため、広間の壁に手をかけ、一気に登って衝撃波を飛び越える。
その衝撃波は、壁に当たって奥が見えない亀裂を作り出した。
ゾッとした。
A級の大狼の斬撃はここまで出来なかったはずだ。

「さすが別格・・・」

それからも僕に向けて牛頭は遠距離攻撃をし続けるが、馬頭はその場に座ったままピクリとも動かない。
恐らく集中力を必要とするスキルを使用するためだろう。
・・・早くスキル範囲に2体を入れなければ!

近づこうとすると刺又による衝撃波が襲いかかる。
しかも、僕を直接狙うものから進行方向から予測できる場所、足元、着地地点と狙いを変えてくるため近づけない。
まるでブラックドラゴンのような攻撃方法をとってくる。

「待たせたな、牛頭の」
「何回か危ない場面があったぞ。急いでやってくれ」
「では」
「後は運で」
「「恨みっこ無し!」」

二つの体が一つに重なる。

「しまった!」

特殊なスキル中は攻撃できないはず!
僕はスキルの効果範囲に入り、急いで接近して蹴りを出したが・・・一歩遅かった。

「うむ・・・我のようだ・・・」
「後のことは任せるがいい」
「頼んだぞ・・・牛頭よ」

ガクリと馬頭の頭が垂れた。

「さて小人よ・・・」
「こ・・・この!」

右足が押される。

「貴様は武器を持っていないようだが、後悔はしないのだろうな!」

ダメだ耐えきれない!
弾き飛ばされる僕の身体。
空中で体勢を整えて着地してそれを見た。

「二頭同体・・・これならいけると馬頭が言ってな、半信半疑だったんだが正解みたいだな」
「いちよ、生物全般に対して効果のあるスキルなんですけど」
「グァハハハハ! そこは知らん。俺は結果が今の状況で満足だからな。悩むなら悩むといい。悩めるのならな!」

刺又が上から降ってきた。
横に跳び、刺又を躱す。
地面が割れて石礫が僕の身体を打つ。
続いて2本目の・・・左手に持ってた刺又が横に回転しながら飛んできた。
巨体の牛頭が持ってても遜色ないほど大きな刺又が唸りを上げて飛んでくるのは恐怖を感じる。
地面に手をつけて身を低くしてそれを避け、牛頭を睨む。
再度上から襲いかかってくる刺又を避けて牛頭の右側面に移動して右足を力の限り蹴った。

「うぉ!?」

身体構造が人間と違っても、二足歩行である限り全体重を支えているのは足だ。
まずは確実に右足を落とす!

「小人のくせに、なかなかやるな」
「褒めても何も出ないぞ!」

ブォン!ブォン! と大きく振られる刺又を躱して正面から右足の膝を踵で蹴った。
氷のスパイクが刺さらなくても、多少のダメージは与えれたはずだ。

「俺から出してやるよ」

カランっという音と共に、牛頭の両手が僕の身体を掴んだ。
しまった!
最悪のミスだ!
牛頭の顔が近づき口が大きく開かれる。

「グォォォォオオオオアアアアアアアアア!」

咆哮・雄叫び。
強烈なそれが僕の至近距離から放たれた。
A級の大狼の咆哮でも多数の人に恐怖を与える力を持っている。
それを牛頭レベルが放つとどうなるか・・・。

「ぐぁ!」

牛頭が僕を放り投げて地面を転がった。
急いで立とうとするが、地面が斜めに傾いている。
平衡感覚をやられた!
しかも、牛頭が何かを喋っているが耳鳴りが五月蝿くて全く聞こえない!

「こぉの!」

向かってくる牛頭の攻撃を転がって避ける。
無様でも何でも、まず平衡感覚を戻さないと話にならない。
壁に背中を預けて必死に立ち上がる。
牛頭が2本の刺又を構えて突進してきた。

クソ・・・武器があれば・・・。
思い出すのは木下の炎の大剣。
だが、剣や刀のように相手を斬ることは僕には難しい。
それよりも力任せでもいいから、確実にダメージを与えて叩き潰す方が性に合っている。
ハンマーがいい。
巨大なハンマー・・・牛頭を潰せるぐらい巨大なハンマーなら打ち合いで決して負けないだろう。

牛頭が近づいてくる。
何故か動きがゆっくりだ。
僕の身体もゆっくりしか動けない。
世界から色が抜けた。
全てが白黒だけど細部まで僕の目に映り、牛頭がこれから何をしようとしているのか先読みができた。
刺又が2本、僕の身体をロックしようと向かってくる。

不意に・・・僕の左手が何かを握った。
何も考えずにそれを前に出す。
それは・・・真っ赤に燃え盛る炎の大鎚だった。

「貴様ァ!」
「・・・」

僕の身体を砕く勢いで突進していた牛頭と刺又を、牛頭の身長と同じ大きさになった大鎚がガッチリと受け止める。

「武器を持っていたとはな! 俺を相手に手加減をしていたか!?」
「・・・クソ下が・・・」

怒りが溢れた。
この階は、あいつや如月さんのサポートは最低限に留めとくはずだったのに・・・あいつらが居ないと倒せないなんて言われないようにするはずだったのに!
結局僕はあいつのスキルに助けられた!

「戻ったら殴る!」

牛頭を一度押して引いた。

「うぉ!」

行動に合わせて大鎚の大きさを僕サイズに変えると、その変化に牛頭がついていけなかったのかバランスを崩す。
その隙をついて壁際から脱出し、グルンと身体を回転させて大槌を振った。

「当たれぇぇぇええええ!」
「こぉのおおおおおおお!」

牛頭の右脇に大鎚がヒットした。
その表情が苦痛に歪んだのを見て、少しだけ溜飲を下げる。
それなりのダメージをようやく与えることが出来たようだ。

さっさと倒そう。
そして戻ったら木下を殴ってボスに挑まないと。

大鎚を両手でしっかりと握り直して牛頭を睨む。
平衡感覚も耳鳴りも治った。
仕切り直しだ!

「行くぞ、牛頭!」
「こい! 小人!」

僕は炎の大鎚を振る。
牛頭はオーラを出す刺又を振った。
二つはぶつかり合って轟音を響かせる。
それはまるで、最終戦のためのゴングのように鳴り響いた。
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