人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

漏れ出る思い

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棺の中にいるためか、見た目が死んでいるようになっている。
だが、よく見ると小さく呼吸しているのを確認できた。

「どうやって起こすんだ?」
「呼びかければいいだけだ。日和子が起きれば自然と棺も解除される」
「壊すことはしないほうがいいのか?」
「さあ? 本人が起きたら解除されるから壊すなんて考えたこともなかったな」
「そっか・・・。あ、起こす前に兜外しておきなよ」
「? まあ、いっか」

木下が僕の言う通りに兜を外し、棺を軽く叩く。
僕は少し離れて2人の様子を見ることにした。

「日和子、起きろよー。迎えにきたぞー」

木下も彼女の姿を確認して、緊張が少し解けたのだろう。
言葉のペースがゆっくりとなって、語尾が伸びている。

木下が何度か如月さんに呼びかけていると、棺に変化が現れた。
細かく砕けて光になっていくそれを見て、木下も叩くのをやめて棺が消えるのを待つ。

「・・・ん? かず、おみくん?」
「ああ、俺だ。助けに来たぞ」

助けに来たと言う言葉に目を大きくして如月さんが起き上がる。

「和臣くん! ま・・・てた・・・よ?」

如月さんの声の勢いが木下を見て落ちていった。

「和臣くん?」
「おう、俺だぞ。助けに来た。動けないなら抱っこするか?」

木下がどんな顔をしているのかわからないが、如月さんの顔の変化は完全に見ることができた。
まず顔を見て、視線を下げて鎧を確認し、もう一度顔を見て真っ赤に色を染めた。
その顔をじっと見つめて数秒後、口が震えだして両手で隠す。

「もう大丈夫だぞ。後は帰るだけだ」
「ありがとう・・・ありがとう、和臣くん!」

寝起きの頭に木下のバージョンアップフェイスの衝撃を受けて呆然とした後、ようやく自分が助かったことを理解したのか、涙を流しながら如月さんは木下に抱きついた。
木下も彼女を抱きしめて背中を撫でる。

「ありがとうね。ごめんね、私がドジして迷惑かけて」
「何も問題ねーよ。結構余裕だったぜ? いい経験ができたぐらいだ」

苦しい場面はいくつもあったが、もう戦う必要はない。
モンスターは全部無視して、いざとなったら木下が僕らを掴んで飛んでもらおう。
最深部到達が木下とか・・・天外天との探索が霞んでしまうな・・・。
2人の姿を見ながら壁に体重を預けて頬の筋肉が緩む。
軽く火傷したのか、緩んだ筋肉に皮膚が動かされて痛みを感じた・・・。

「なんで、おま・・・」

口に力を入れて漏れ出そうになった黒い言葉を閉じ込める。
それから2人に背を向けて下を向いた。

・・・だって・・・そうだろ?
僕と天外天は何日もかけて、装備を最高の物に切り替えてようやく1階層を探索することができた。
それが僕と天外天のみんなでできたことだった。
なのに、こいつはなんだ?
初見の最難関ダンジョンに碌な知識なく入って、数々の強敵と戦って生き残って・・・彼女まで救出して・・・。
高城さんたちは死んだぞ・・・。
莉乃はどっかに行ってしまった・・・。
僕は散々な目に遭ったのに!
ここは僕のメインダンジョンなのに!
なんでポッと出のこいつは彼女を救えた!?

口を開く。
声を出すことはできない。
音声は録音されている。
僕は無言で叫び声を上げる。
悔しくて・・・憎くて・・・。
僕に出来なかったことを、こいつはやり遂げた。
三大ダンジョンの一つである阿蘇ダンジョンの先駆者になった。

・・・許さない。
・・・全部を手に入れることはさせない。

ここは・・・僕と天外天が先駆者のダンジョンだ!


僕がゆっくりと心を落ち着かせてもう一度木下たちを見ると、木下がスキルを解除して巨大なリュックとポーションを床に置いていた。

「こ・・・これを私に飲めと・・・」
「ん? 何処か怪我とかしてないか? それ次第かなって考えてるけど」
「飲んだほうがいいですよ」

僕が横から口を挟む。

「ダンジョンに入って4日目です。先ほどのスキルがどんな効果かは知りませんが、身体に負担はあったはず。上に戻るだけとはいえ体力勝負になります。食事や飲み物も摂っていないんでしょ? 万全で行きましょう」
「でも、それだったら和臣くんか瀬尾くんが飲んだほうがいいんじゃない?」
「俺はいらねーよ。自爆のせいでどうなったか心配だったけど、特に問題無さそうだしな」
「僕の怪我も、外に出て温泉に入れば治る程度でしょ。如月さんこそ、氷の中にずっと居たんですから、下手したら身体の節々に違和感とか出ていませんか?」
「多少はあるけど・・・これ、数億円するわよね・・・」
「それで本当に買えるかはわかりませんが、如月さんは木下と上に戻れさえすれば大金持ちになるんですから気にしなくていいと思いますよ」
「でも、無駄遣いなんてできないでしょ。これから子供ができたらいろいろなこと学んで欲しいし、出来るだけ良い物揃えてあげたいし、和臣くんが戻ってくる場所は」
「木下、虹色魔石を出してくれ」

長くなりそうだったので、リュックの中から魔石を出してもらった。

「これの1つ下のランクが火龍のメロンサイズの魔石です。いくらかは不明ですが、およそ100億だと思います。良かったですね、数億円ポンと払える稼ぎを木下が取ってきましたよ」
「・・・」

如月さんの目が点になった。

「この魔石に関しては木下が1人で手に入れた物ですから、満額懐に入るはずですよ。戻ったら結婚したほうがいいかもしれませんね」
「・・・」

如月さんの目が何も映してない。
大丈夫だろうか? と思っていたら、おもむろにポーションの蓋を開けて一気にあおった。

「絶対に・・・戻るわよ!」

気合いはしっかり入ったようだ。
これなら、木下と2人で帰ることになっても大丈夫だろう。

それから残りの食材で料理を作ってもらい、僕もご相伴にあずかった。
スープをあらかじめ作って凍らせて持ってきた鍋だったが・・・なるほど、木下が彼女の料理を自慢するのも頷ける。

「本気で美味いだろ? カレーも同じぐらい美味くなってたはずなんだがなー」
「まだ根に持っているのか? じゃあ、お前が信頼する如月さんに聞いてみるといい」
「何かあったの?」
「いや、実はな・・・」

木下が面白おかしくあの時の状況を話してくれた。
話が進む度に如月さんの顔から感情が一度全て抜けて続いて口角だけが上がっていく。
僕は木下に両手を合わせて頭を下げた。

「何だよそれ、京平。俺はなんか感謝されること言ったか?」
「お前の今後を憐れんだだけだよ」
「はぁ?」

木下が不思議そうに眉間に皺を寄せて如月さんを見た。
如月さんは笑顔で木下を見ている。

「ひわ・・・」
「今度、一緒に料理しようか。ただし、自分で作ったものを絶対に自分で食べること・・・絶対にね」

料理が出来る人は絶対に他の人の料理をバカにしない。
どんな料理でも、そこに至る頑張りを知っているから。
1番嫌うのは、他人の努力を無視してせっかくの料理をダメにしようとする行為。
そんな事をした場合、料理人たちはどのような行動に出るか?
その料理を本人に完食させる。
どんなに不味くとも・・・。
木下の胃が、何日自分の料理に耐えれるか楽しみだ。

「ご馳走様です」
「お粗末さまでした」

食べ終わってホッと一息つく。
これから戻りのことを考えないといけないけど、その前の休憩だ。

「瀬尾くん、本当にありがとうございます」
「どうしたんですか? 突然改まって」
「本当なら、1階を探索するだけで終わらせるつもりだったんでしょ? それなのに私のせいで命を賭ける状況になってしまったから」

確かに、僕は1階を探索する計画だった。
それ以上は意味ないと思っていたし、まだまだ力不足と考えていた。
ただ、ここに来ることになったのは、決して彼女のせいではない。

「僕1人で来たとしても、あの罠には掛かってましたよ。なんせ、溶岩の海を渡り切った場所でしたからね。それに、責任を問うなら木下が1番悪くなりますよ?」
「俺!?」
「えっと?」
「だって、あの時のあそこに如月さんを降ろしたのはあいつですよ。しかも、2人いれば発動していなかったのに如月さんを1人にしてしまった。つまり、木下が悪い」

溶岩の海のことを思い出したのか、2人とも変な顔になった。

「そ、それでもありがとうって言わせて。和臣くんだけなら、多分ここまで来れなかっただろうし、私も2人が来るまで待とうって思えたから」
「わかりました。じゃあ、僕からはどういたしましてで。何か困ったことがあって、如月さんの手が必要な時に連絡させてください」
「分かったわ。何があっても駆けつけるから、遠慮なく連絡して」
「ひとまず、如月さんの氷で、僕の装備を補強してもらえますか?」

左半分がなくなったフェイスガード、ヒビがいくつも入り底までどこかに飛んで行った右の靴、削られ欠けたショルダーガード。
他にもいろいろと形状をあれこれお願いしながら、アイスアーマーが出来上がった。

「これって、如月さんから離れても維持されますか?」
「されるけど、割れた時の修復が出来なくなるわよ。修復は私が近くにいて発動するから」
「そうですか・・・」

つま先と踵に氷の剣を取り付けた右足の感触を確かめる。
足首も固めてもらったので、確実に狙った場所を踏むことができる。

これなら・・・

「木下、付与を頼む」
「・・・俺も行く」
「ダメだ。・・・この階は全て僕が潰す。ここは・・・このダンジョンは僕が先駆者だ!」
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