人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

砕けゆく装備2

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2人ゆっくりと8階最後の扉の前に立った。
開くか確認したら、あっさりと開いた。
引くことが正解だったみたいだ。
次は・・・どんなモンスターだろうか?
ドキドキワクワクよりも、もう恐怖の方が先に来てしまう。
そして、食料の問題もある。
カレーを食べたから極度の空腹感はないが、それでも強敵を前にしっかり食べているか否かは勝負に影響する。

「木下、食事にしよう。2本食べていい。水もしっかり飲んでくれ」
「・・・何か考えがあるのか?」
「9階に如月さんが居ることを見越しての判断だ。この先のモンスターを倒して今日は終わる。装備もそうだけど、木下のダメージもバカにできない。しっかり休んで下に下りる。それから、地下9階がどんな場所か分からないけど、必ず見つけ出す。見つけ出さないと食い物がなくなる」

ここまで来たら、覚悟を決めて突撃するしかない。

「ゲームみたいに一回出てもクリアした場所から進めればもっと簡単なんだけど・・・」

それなら少なくとも装備と食料の問題が解消されるのに。
ない物をねだってもしょうがない。
僕も携帯食を一本取り出してしっかりと咀嚼して飲み込み、水をコップに一杯飲んだ。

「京平は一本だけしか食わないのか?」
「・・・この先のヤツを倒したら遠慮なく食べるよ」
「ぶっ倒れたりするなよ」
「カレーを食べたのがいい感じに残っているから大丈夫。お前には迷惑かけないよ」
「・・・俺にじゃなくて、その装備作った人たちに迷惑がかかるんだろ? 俺もそうだけど、京平ももう1発も攻撃食らったらまずいんじゃないのか?」
「・・・僕のこと心配してるのか?」
「悪いか?」
「キモい」
「戻ったら1発殴る」

そう言って木下は水を一気飲みして兜を被った。

「そういえば、兜をとった顔って如月さんは知ってるのか?」
「いや? 炎帝を見つけた後、向こうではアタックで何日も滞在する事はなかったから今回初めてスキル発動させたまま着脱してるよ」
「ふーん・・・如月さんを救い出したら、見せるといいよ」
「? 何か意味あるのか?」
「凄くあると思うよ」

不思議がる木下に僕はそれ以上何も伝えずに扉に手をかける。

「付与はかけた。力加減ミスってコケるなよ」
「もう慣れた。行くぞ!」

扉を開く。
中にいるこの階のボスが姿を現す。
そいつは・・・右手をこっちに向けて構えているファイアジャイアントゴーレムの強化版だった。

「避けろぉ!」

中に入ってすぐに右へと大きく跳んでその勢いのまま走る。
後ろを極太レーザーが通ったが、様子を見る余裕がない!
ゴーレムはその図体に似合わず高速で広間を移動し始めた。

「こいつキャタピラ付きか!」
「京平! こいつ速いぞ!」

木下の声が上から聞こえてきた。
レーザーはうまく回避出来たようだ。
ただ、向こうも発する言葉に余裕がない。
ゴーレムは人体構造を無視した動きで僕らに攻撃を仕掛けてくる。
しかも、色々なギミックがあるみたいで、腕が伸びたり縮んだりしている。

「この!」

伸びた腕を殴り飛ばす。
うまいこと遠くに飛ばせたので本体を叩こうと目を向けると、シュゴォォォ! と音を立てて飛ばした腕が戻ってきた。

「くらうか!」

その腕を飛び越えて、戻ってこれないように蹴り飛ばした。
今度こそ本体に行けるかと思ったが、腕は急速に縮んで本体の身を守る。
僕が移動すよりも遥かに早い。
木下は木下で本体と接近戦をしていたが、あいつの多種多様な攻撃を、ゴーレムは全て迎撃している。

「動きを止めやがれ!」

木下が作り出す縄を、ゴーレムが体から小型のレーザーを向けて打ち消し飛ばす。
大剣を振り回して当てようとしているが、左腕を伸ばして僕を攻撃している時と違って、今は大きく移動して攻撃を当てさせない。

「京平! 何とかしろ!」

何とかしろって!
僕にどうしろって言うんだ!

ゴーレムの左腕がこちらを向く。
必死になってレーザーの射線から逃げながら近づこうとすると、腕が弧を描きながら僕に襲いかかってきた。
向かってきた腕を殴る。
その腕の正面が一部崩れ落ちて、中から銃口のような物が出てきた。

「小型まで!」

先に腕を潰す!
細いレーザーが発射される前に射線から外れて腕の根元に移動し、逃げられる前に掴んで脇でロックした。

ジュゴゴゴゴゴゴゴゴ!

腕の真ん中あたりがパカッと開いて僕のロックから逃れようとジェットが噴射される。

「前に進みたいならぁ!」

腕の向きを本体に向けて、踏ん張っていた足で一気に駆け出した。

「ぶっ刺さってくれ!」

ジェット噴射が何とかして方向を変えようと噴射の勢いを変えるが、変えさせる気はない。

「おおおおおおおおおおおお!!」

ゴーレムの腕が、その本体の左腹に突き刺さって僕はそのままゴーレムの身体を押す。
壁に押し付ければ自由に行動はできないはずだ!
だが、ゴーレムの足がグリっとこっちを向いてキャタピラが高速回転して押す力が殺されてしまった。

ガコン!

「させるか!」

ゴーレムの上半身から何かが外れる音がして木下が叫んだ。

「何があった!?」

前傾姿勢で力を入れているため上を見ることができない。

「背中から腕が生えた!」
「手はあるか!?」
「ある! 今掴んで固めてる!」
「それなら持ち上げ!」

ゴーレムの上半身が突然グルンと回転した。
あまりの回転速度に僕の体が浮いて、なす術なく壁に叩きつけられる。
グシャリと元リュックが僕と壁に挟まれて潰れた。

「避けろ京平ぇ!」
「しまった・・・」

さらに、木下が僕の上から叩きつけられた。
何とかフェイスガードは守ったが、背中の冷却装備の異常を知らせるアラートが鳴る。
本気でまずい!

僕は横から転がり出て何とか立ち上がる。
木下は壁を背に、炎の腕を3本生やして2本はゴーレムの手とガッチリ組んで、もう1本は右腕を押さえている。

「クソが! もういい! 京平! これを頼む!」

小さな手が、赤紫色のポーションを僕に持ってきた。
僕がそれを受け取ると、木下の身体が膨張を始めた。

「これをやるとよ、すっげーきつくなるんだよ。まだ余裕がある時はいいんだけどな、今の状態だと使って決めきれなかったら終わりだ・・・だからさっさと砕けろよ、木偶野郎!」

木下の身体が炎へと変わる。
大きくなり、ゴーレムの腕を押し返して立ち上がった。
地下5階以来の炎の巨人が僕の前に現れた。

僕は急いで2体の化け物の争いに巻き込まれない位置まで移動してポーションを握りしめた。

「うぉぉぉぉおおおおらぁぁぁあああ!」

先に木下が仕掛けた。
ゴーレムの腕を引っ張ってバランスを崩し、右下の手で僕が突き刺したゴーレムの腕を握ってそのまま壁に叩きつけた。
ゴーレムも負けじと背中の真ん中にジェット噴射器を出して推進力を上げ、木下を押し返す。

「スゲーパワーだな。だけどそれだけだ!」

木下の身体が反転してゴーレムの懐の中へ入りその体を背負った。
そうなるとゴーレムはジェット噴射をしていることも要因となったのか、自然と状態が前に傾く。
そのまま木下はゴーレムの頭を見ずに右手で掴んで、背負い投げのように床へと叩きつけた。

鼓膜を突き破りそうな轟音が響き渡る。

多分、あの一瞬だと僕が踏むよりもダメージを与えているはずだ。
倒れたゴーレムが起き上がれないように、身体の至る所に炎の縄が出現して縛っていく。

「どうよ、真壁のおっさん直伝の背負い投げだ。俺も体験済みだから自信ある技だぜ!」

・・・どんな状況で食らったのか後で余裕があったら聞こう。

ゴーレムがギリギリと腕や足を動かそうとするが、その動きは完全に抑え込まれている。

パカッと何かが開いた。

「ああ、あると思ったぜ。なんせ上位ゴーレムだからな。胸には何かしら仕掛けがあるだろうよ。だが、銃口は失敗だ」

木下も右腕を振り上げて炎のドリルを纏わせる。

「その弱点の穴! 遠慮なく殴らせてもらうぜ!」

強烈な粉砕音を鳴り響かせながら、炎のドリルがゴーレムの胸を抉っていく。
ゴーレムもしばらく抵抗していたが、やがて無駄だと悟ったのか、動きを止めた。
もうすぐ終わる。

そう思ったのがいけなかったのか・・・ゴーレムの身体が怪しく光り出した。

「・・・まさか・・・ボスだろ?」

木下はまだ気づいていない・・・。

「木下ぁぁぁぁぁぁぁああああ! 逃げろぉぉぉぉぉおおおおおお!」

僕も壁に背を預けフェイスガードを両腕で守ろうとして・・・ダメだと気づいた。

この状態だと瓶が割れる!
どうする! どうすればいい!
残り時間はもうない!

僕は考えを放棄して木下とゴーレムに背を向け、瓶とリュックを包むように身体を丸めた。

光と爆風が襲いかかり僕の身体が押される。
ゴツゴツとヘルメットが壁とぶつかる。
ゴツンと何かが背中に当たった。
気にすることができない。
今は何より瓶を守らないといけない。
熱風と爆風が治ってようやく危険状態まできているアラートがようやく聞こえた。
早く木下に熱を吸収してもらわないと!

「木下! 木下!」

煙が晴れていくが、木下の姿が見えない。

「きの・・・木下ぁ!」

広間の端に、ぐったりと横たわっている木下に駆け寄る。
最悪をイメージしたが、まだ鎧を着込んでいるからスキルは発動している。
まだ生きている。

「木下! 意識はあるか!?」
「ぐっ! ・・・いてぇ・・・」
「体は起こせそうか?」
「・・・ムリ・・・。ボスが自爆とか、ねぇよ」
「とりあえず移動しよう。階段の入り口が開いた。僕もお前の熱操作に頼らないとまずい状況になってる」

リュックを首にかけて中の魔石を捨て、代わりにポーションの瓶を安全な位置に入れる。

「痛いかもしれないが、耐えろよ」

木下の上半身を起こして両腕を肩にまわしておんぶする。
後ろから呻き声が聞こえたが、我慢してもらうしかない。

「・・・京平・・・背中のやつが壊れてるぞ」
「・・・分かってる」

微かに冷却はされているが、いつ切れてもおかしくない。
階段で木下を下ろして熱を吸収してもらった地面に座った。

「物は食べれるか?」
「・・・もうちょっと時間が経ったら・・・食べる」
「食べれそうになったら教えてくれ」
「・・・おう」

そう言うと、木下はゆっくりと呼吸をして動かなくなった。
一瞬死んだか!? と思ったが、どうやら寝たみたいだ。
僕も何も食べずに目を閉じる。

僕の装備は後どれくらい持つか、如月さんは9階のどの辺にいるか、木下は動けるぐらい回復するのか・・・。

幾つもの悩みが頭を駆け抜けて僕を眠りへと誘った。
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