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阿蘇ダンジョン攻略編

地下7階 成長する者

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白鼠を倒した後、ポータルが現れた。
アレに入ったら飛ばされるんだろう。
その前に、簡易食事のバーを2本出して1本を木下に渡し、僕はフェイスガードを上げてバーを齧る。
ダメだ、熱い。
すぐにフェイスガードを下ろしてゆっくりと咀嚼する。
口から水分を奪って行く。
しまった・・・今まで感じてなかったが、バーは口の水分を奪いすぎる!
水をコップに半分ほど入れて木下に渡し、木下が飲み終わった後にコップをもらって同じ量を注いでゆっくり飲んだ。
奪われた水分をコップの水が潤していく。
水を注意して飲まないと・・・梅干しも持って来ておくべきだったか。
ただ、あれも見るだけで口に含んではいけないからイメージするだけでいいのか。

「行こう」
「おっしゃ!」

2人で一緒にポータルに入って次の階へ移動した。
階段とは違って少しだけ浮遊感があるが、そこは木下も慣れたもので、膝もつかずに立っている。

「俺が先を行くから」
「分かってるよ」

6階と同じような洞窟タイプ。
視線に先には、炎の狼がいた。

「丁度いい・・・。練習台になってもらおうか」

警戒する狼に、木下は気軽に歩いて近づく。
何かを確認したのか、木下の足元から陽炎が広がって消えた。

「向かってこないと、練習にならないんだがな!」

巨大な炎の剣を作り出して一気に振り下ろす。
2匹の狼は二手に分かれて大剣を避け、1匹が木下に飛びかかった。
炎と物理の効かない木下に無駄なことを・・・と思って見ていると、狼の口に何かが巻き付いた。

炎の縄だ。

しかも1匹だけではなく2匹同時に口、胴体、後ろ足を縛っていた。

「・・・マジか・・・」

まず、6本の縄を同時に操ってみせた事に驚いた。
人間の脳には限界が存在する。
持っていない器官を突然付けられても使えないし、腕がいきなり増えても満足に握手すら出来ないだろう。
スキルも同じように、突発的に考えたものを現実化させる事はまず不可能に近い。
今回の木下の事例で言うと、炎の縄を出すまではいい。
それを操ってモンスターを縛ることも出来なくはないだろう。
だが、何の練習もなしに離れた位置に炎の縄を出して操り、モンスターを縛ることなんて普通はできない。
僕の知る限り、木下が炎で縄を作ったのを見たのはこれが初めてだ。
その縄を6本同時に、しかも別々の場所から出現させて2匹とも同じ箇所を縛っている。
・・・何度も思ったことだが、天才か化け物だ・・・コイツは。

「よしよし・・・ちょっと難しいけど、京平と同じように動けなくする事は出来るな」

大剣を振り上げて2匹の狼にそれぞれ振り下ろす。
狼も火属性なのに、簡単に両断されて消えていった。
・・・魔石はなかった。

この階は道は一直線だが扉がいくつもあり、確認したかったら一つ一つ開かなければならないようになっていた。
木下は扉の前に立つと、先に陽炎を出して何かを確認し、それから扉を開けた。
・・・罠を確認しているのか?
それなら熱を感知して物の形を把握するだけで分かるはずだったんじゃ・・・より精度が上がったのか?

扉から部屋の中に入ると、大狼と3匹の狼が臨戦態勢でこっちに向かって唸り声を上げている。
木下はまたも何でもないかのように陽炎を出した後近づき、一気に1頭と3匹を炎の縄で縛る。
3匹はそれで動けなくなったが、大狼はそう上手くはいかなかった。
炎の縄を引き千切り、木下に飛びかかる。
だが、木下は焦らずにより太い縄を作り出し、口と首を縛って上へ持ち上げる。
大狼は縄に引かれて宙吊りになった。
前足をバタつかせるが、力が全く入っておらず、ただ空を引っ掻くだけに終わった。

「・・・弱いものイジメしているように感じるけど、日和子を助けるためだから・・・」

大剣を横一線に薙ぐ。
流石に大狼は一撃では無理だったが、続けて2度目の回転切りを叩き込むと胴体が分断され、光になって消えていった。
A級の魔石が落ちたが、荷物になるので無視。
他の3匹も木下が倒したが、魔石は落とさなかった。

・・・まさか、B級魔石はもう出ないのか?
慌ててバックの中を確認すると、B級魔石は残り2個しかなかった。
・・・ドラゴンバスターが後5回で撃てなくなる。
僕の切り札なだけに、顔から血の気が引く。

「どうした京平。何だか気分悪そうだけど」
「・・・隠しても仕方ないな。B級魔石のストックが残り2個になった。ドラゴンバスターが後5回で撃てなくなる」
「ドラゴンバスターって、京平の切り札だよな? A級のモンスターも倒せるっていう」
「ああ。まさか6階からB級がいなくなるとは思わなかった」

これが探索の時に分かったのならすぐにでも引き返すのだが、人命救助の最中に判明した事なので対策を打つことができない。

「A級を入れたらダメなのか?」
「大きさが合わないよ。それに、何とかしたとしてもA級魔石の力に装備が耐えきれない。確実に壊れる」

まいったな・・・。


ドラゴンバスターの件は棚上げした。
今は取り敢えず如月さんだ。
無駄撃ちだけはしないようにすればいい。

木下の足元からまた陽炎が広がった。

「木下、この陽炎って探索系の能力なのか?」
「ああ、そうだ。熱感知だけだとちょっと弱いと思って空気の揺らめきも分かるようにした。熱感知よりも精度は高いけど範囲は狭くなったよ。そこら辺は今後に期待だな。代わりに空間をある程度把握できるようになった。ってか陽炎って名前いいな。もらうぜ」

熱感知の能力だけでも探索系としては十分な能力なのに、空気の揺らめきも分かるという事はモンスター感知の能力まで得た事になる。
木下の急激すぎる成長に僕はもうついていく事が出来ずに現実から目を背けだしている。
そうでもしないと・・・直視できない。

こいつは確実に1級になる。
こいつは確実に色々な人を救う。
こいつは確実に強敵を倒す。
こいつは確実に最強になる。

だけどそれは・・・このダンジョン以外でやって欲しかった。

・・・何でこいつは阿蘇に来たんだろう。
僕のダンジョンに・・・天外天のダンジョンに・・・。
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