人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

地下6階 火鼠の巣

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朝6時のアラームが鳴った。
僕は木下から離れてスキルを使って寝ていた。
虫が来なくて重宝している。
木下もスキルを使って寝ていたため、虫の被害はないはずだ。

「木下、起きろ。十分睡眠取れただろ」
「んが! あ・・・がぁぁぁ・・・起きるぞー」

なかなか寝起きが悪いみたいだ。
ゆっくりと上半身を起こして何度も頭を揺らし、また寝てうつ伏せにひっくり返って腕の力で身体を起こす。
荷物は昨日の段階で木下の鎧の中に入れてもらった。
B級魔石と携帯食だけは必要分を持っていなければならないため、僕のリュックは持っている。
冷却システムや通信システムを稼動させている魔石は昨日取り替えた。
こういう安全な場所では、たとえまだ魔石に余裕があったとしても次に備えて万全にした方がいい。

「・・・城が元に戻ってる」
「みたいだね」

流石ダンジョン。
まあ、ポータルなり階段なりが建物の中にあるからだろうけど。

「まずは地下から探すか」

1階に扉があるといいんだが・・・。


まさか本当に20階まであって、隠し扉から地下まで下りることになるとは・・・。

「無駄に歩かされてねーか?」
「壁抜いてショートカットすればよかったかも」

やろうと思えばやれただけに、僕も木下も口がへの字になってしまう。

それから地下に下りて行くと、どこかで見た赤と青に光る石が配置された階段を下りていく。

『・・・ジジ・・・聞こえますか?』
「あ、通信が」
『聞こえますか!? 兼良さん! 通信がも・・・りまし!』

通信が途切れ途切れだが、どうやら復活したみたいだ。
僕と木下は一旦足を止めた。

『聞こえ・・・か? 瀬尾さん、応答をお願いします』
「聞こえてますよ。途切れ途切れですが、内容は分かります」
『よかっ・・・』
『瀬尾さ・・・いますか?』
「松嶋さんですか?」
『はい。今、組合に関係者・・・んが詰めています』
「関係者・・・何ですか?」
『関係者全員です』

・・・その関係者は僕の関係者だろうか。
それとも・・・。

『ブラック・・・イズの主力の方々・・・てますよ』

わざわざ静岡から来たのか。
組合的には三大ダンジョンの一つに常駐してくれる1級が動くことは良しとしていないはずなのに。

『瀬尾くん、ブラックアイズの館山だ。この度はうち・・・メンバーが迷惑をかけて申し・・・ない』
「いえ、アクシデントですので」
『ガキンチ・・・も一緒にいると聞いた。探索のイロハを全く知らないから、迷惑だと思・・・。ただ、持っているスキルは本物だ。力を合わせて如月を救い出してほしい』
「全力を尽くします」

木下のやつ、館山さんにガキンチョって言われてるのか。
ちょっとだけ気分が良くなった。

『瀬尾、そっちはどんな感じだ?』
「支部長。こっちは多分5階と6階の間の階段です」
『1日で5階まで突破したの・・・』
「探索せずに突っ走ってますから。後、木下の炎帝が強力すぎて・・・捗ってます」
『有難いことでは・・・な。今日はどこまで行くつもりだ?』
「6階と7階を突破します。8階と9階は1日ずつかける予定です」
『分かった。如月さんにもそう・・・よう。瀬尾の予想で、灼熱ダン・・・ンは何階層まであると思う?』
「・・・10です。途中の異界で広域フィールドダンジョンと20階まである城を模した迷宮ダンジョンを確認しました。外のフィールドと仙酔峡を考えると、そのくらいで最終ボスがいても不思議ではないです」

ザワザワと声が聞こえてくる。

『攻略は・・・』
「まだ無理です。5階で木下が戦った武者は、僕であればやられてました。最終ボスは如月さんがいたとしても不可能でしょう。火属性はほぼ確定として、亡者、死霊、精霊、ゴーレム系も候補に上がります。生物系なら何とかっといったとこです」
『そうか・・・』

ちょっと残念そうな彼の声だったが、その後に『無事に帰還してくれ』と言葉をもらって通信を終えた。

「何かあったのか?」

今までの会話が聞こえていなかった木下が聞いてきた。

「ブラックアイズの人たちもこっちに来たんだと。館山さんから如月さんを救ってほしいって言われたよ」
「館山さんも来てんのかよ。静岡は大丈夫なのか?」
「さあ。でも、ブラックアイズってパーティと言うよりクランって言った方がいいぐらい人数がいるんだろ? 大丈夫なんじゃないか?」
「事務系の副長に下が従うかによるんだよな。・・・あん人めっちゃ怖いから問題ないか」
「スキル持ちなのか?」
「いや、理詰めの人。ただ、内勤の人たちが全信頼を置いている人だから、内勤に嫌われたくない人は協力するだろうよ」

組合や所属しているパーティ、クランの内勤に嫌われると、探索者は廃業しなければならないと言われるほど問題になる話だ。
僕自身は差し入れをしたことはないが、時々探索者のパーティが節目節目でお土産を渡しているとこを見たことがある。
僕とは会うことがないので、特に必要な情報ではないだろう。

また下りるのを再開してしばらくすると、冷却システムが稼動を始め、下から赤い光が僕らを照らし出した。

「うえ・・・マジか」
「これは・・・」

階段の途中から壁がなくなり、地下6階の最初の広間が僕らの前に姿を現した。

地面や壁を火鼠が走り回っている。

階段に来ていないのは、ダンジョン特有の力場のせいだろう。
問題はその量で、床は完全に埋め尽くされている。
本来ならこうなる前に共食いが起きるはずなのだが、モンスターはそんな事しなくてもダンジョンから魔力がもらえる。
その結果・・・際限なく増え続けたのだろう。

「木下」
「何だ?」
「おんぶするから僕の背中に乗って」
「・・・はぁ!?」

表情は分からないが、すごく嫌そうな声が聞こえた。

「何でそういうことになるんだよ!」
「僕のスキルを使って突破するからだよ」
「範囲外に俺がいればいい話だろうが!」
「スキル範囲外になった瞬間、ネズミどもに襲われるぞ?」
「燃やせばいいだけだ!」
「あいつらも火属性だ。それに、倒せたとしても、あの物量は防げないだろ」
「物理無効だ!」
「あれ全部引きずって探索する気か?」

下にいるネズミを指差す。
木下が身震いした。
あれが全部自分に襲いかかってくるのを想像したのだろう。
しぶしぶといった感じで、僕の肩に乗った。

「・・・ガキンチョ」
「マジムカつくぞテメー!」

ボソッと思わず出てしまった言葉に、木下が過剰反応を示したので、問答無用でスキルを発動させた。

「探索は任せる。部屋に入って全部探索出来たら四角の火を僕の前に出して。部屋が広すぎて出来なかったら丸でよろしく」

階段から飛び降りる。

僕は衝撃無効で木下は物理攻撃無効だから、多少高いとこから飛び降りても問題はない。

「!!!!!!!」

何だか木下の腕が少しだけ強く締まった気がしたが、スキルの影響下では力を入れることができないはずだ。
・・・気のせいだろう。
ズドン! と着地すると、既に息も絶え絶えなネズミどもと、飛びかかって来ときながらボテボテと勢いを失って落ちて行くネズミたち。
何匹か踏み潰してみると、全く魔石を落とさないことに気づいた。

「こいつら子クモと同じタイプか」

だったらもう無視していいか。
適当に踏み潰しながら部屋を歩き回る。
目の前には木下が火の円を作っている。
ただ、見ることができないせいか、ちょっと歪になっていた。
それでも、中央から円を描くように歩き回ると、だいたい7割ぐらい進んだところで円が四角に変わった。

「罠とかあったら教えてくれ。あ、無理だったらいいから」

そう言うと、火の形が変わった。

『舐めんなカス!』

この野郎・・・。
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