人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

地下2階 水の領域

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下の階に降りる前に、僕は階段に仕掛けがないか確認していた。

「そういうとこにも、やっぱ罠とかあるのか?」
「・・・よくある話の一つだよ。下の階に行かなくちゃならないのに、ボス部屋に通じる一方通行の階段とかな」
「・・・嫌な階段だな」

全くもってその通りだ。
だからこそ僕は、変な魔法陣や罠がないか確認して1段目を降りた。

どうやら、罠はなかったらしく、僕と木下は地下2階に降りて通路を覗くと、地面が濡れていた。
いや、地面だけじゃない・・・。

「水か・・・」
「水だと、給水が出来るかもな」
「出来るわけないだろ。敵の影響下にある水だぞ。飲んだ瞬間死んでしまう」

この水が、どこまでモンスターの影響下にあるか分からないが、何かをしてきそうな雰囲気は感じられる。
粘着か、スリップか、攻撃か・・・。

「進むしかなさそうだが・・・」

問題はもう一つある。

「スライム系とナメクジ系か・・・」

共に装備を劣化させるモンスターだ。
特にB級以上のスライムは、普通の剣や刀だと確実に溶かしてくるので、クリティカルな攻撃をする必要がある。

「木下、すまないがスキルを使う。影響を受けない距離を保ってくれ」
「分かった」

僕がスキルを使うと、スライムやナメクジはグニャリと形を変えて、その場で潰れたようになった。
同時に、ベチャベチャっと天井から何匹か落ちてきて地面と衝突する。

・・・そういえば、ドラゴンバスター使ったから替えないと。

僕はナメクジを選んで踏み潰す。
塩でも持っていれば、もっと倒しやすいのだが、持っていたとしても貴重な食料になるため使うことはできなかっただろう。
ナメクジは魔石を残して光になって消えていく。
僕はそれを拾って、ドラゴンバスターで使用した足のカードリッジを外し、中の魔石を入れ替えた。

「木下。スライムの処理は任せる。見逃したら後ろから襲ってくる可能性もあるから」
「分かった。大丈夫と思うけど、倒して進むよ」

まだ動けないスライムたちに、次々と木下は火球を当てて倒していく。
普通のファイアボールでは、B級のスライムを一撃で倒せないはず。
簡単に撃っているように見えるが、おそらく相当な熱量が込められているに違いない。

そのまま通路を進んで行くと、壁の水滴が僕に向けて飛んできた。

「くるぞ!」
「蒸発さす!」

間隔を維持しながら2人で通路を走り抜ける。
何粒か当たったが、貫通力は僕の装備を貫くほどはなかった。
それでも押されるので、可能な限り当たらないように駆け抜けると、地面の水溜りから槍が現れた。

「危ねー!」

後ろから声が聞こえた。
木下にとって、この攻撃は嫌だろうな。
水滴ゆえに、手数が多すぎる。
しかも、多角的に攻撃されるために、避けることができない。
火に対して水は鉄板の弱点攻撃だし。
ただ、阿蘇は火山をメインにしているダンジョンなのに、なんでこんなに水が湧き出ているんだろう?
組合に戻ったら必ず調べないと。

「京平! 休憩! 休憩頼む!」

後ろから木下が休憩を求めてきた。
ダメージもあって辛いのか。
本命のこともあるから、本気は出されては困るが、ちょっと考えないといけない。

ただ、1番の問題は、この階の床や壁、天井が見渡す限り濡れているということだ。

僕はスキルを一旦切った。

「木下! 火で床壁を乾燥させろ! ただし、休憩が出来る範囲だけだ!」
「分かった!」

ジュゥ・・・。

木下の周辺の水が蒸発していき、乾いた岩肌が顔を出す。
彼はその場にドカッと腰を下ろした。
流石に彼の側は熱く、装備の冷却機能に負荷がかかるため少し離れた岩に座った。

「水のフィールドは辛いか?」
「ああ、水滴の個々はどぉってことないんだが、水溜りからの槍が意外と痛かった。そっちは?」
「水滴は問題ない。僕の装備を貫通する力はないから、一点集中されると問題があるかもしれないけど、今の状態なら行ける。ただ、濡れるという状態がまずい」
「水のモンスター相手だから、それを操作されたら・・・」
「僕はなす術なく・・・だね」

僕の装備は気密性はしっかりしていると思うが、宇宙空間や海中なんかを想定していた訳ではないため、声が外に聞こえるぐらいの隙間はどうしても出てくる。

「なあ、俺のこの状態で先に進むのはどうだ?」

周囲を乾燥させまくって進むことができれば、確かに良さそうだ。

「けど、この状態って結構集中力使うんじゃないか?」
「・・・分かるか?」
「想像はできる」

オート状態のスキルやオンオフで済むスキルでない限り、スキルのコントロールには集中力がかなり必要になる。
魔法がその代表的なスキルだ。
術者のイメージとコントロールで大抵のことは実現させてしまうが、その状態を維持するとなると、一歩も動けないどころか、目を閉じないとできない人もいる。
木下のスキルは、そこまで過度な集中力は必要としていないようだが、進行速度は大幅に落ちるだろう。

「ダメだ。時間がかかってしまう。今は14時。地下2階は出来たら後1時間で抜けたい。地下3階は17時までに抜けて4階は19時。そこで食事をとって22時に地下5階を抜けるのが理想だ。それから十分に休憩をとって、次の日中に6階と7階を攻略する6階からは兼良さんに声の状況を聞きながら、如月さんと同じ状態か確認する必要がある。それに今までのように不必要な部屋を探索せずに飛ばすことができない。8階と9階は1日ずつかける必要があると僕は考えている」
「・・・不要なフロアーは可能な限り飛ばすってことだな」
「そうだ。本当はアニメや漫画みたいに床をぶち抜いて進みたいんだけど」

僕が床を思いっきり踏むと、ドゴォォォン! と大きな音を立てて抉れるが、ただそれだけで終わってしまう。

「そんな馬鹿げた力は俺にもねーもんな」
「一層一層進んで行くしかないな」

少しの休憩で落ち着きを取り戻したのか、木下は立ち上がって火球をいくつか作り出し、周辺で僕らを待っていたスライムとナメクジを全て燃やす。

「それじゃ、行くぞ」
「ああ、さっきの感じだな? 先頭よろしく」

僕が走り出してスキルを展開する。
木下はスキルを切らずにその場で一回倒れたが、範囲外に出るとすぐに立ち上がって僕の後を追いかけてきた。
この階層が一本道で助かった。
下手に分かれ道があると、間違った道を進む可能性もあった。

僕らは迷うことなく進んで、風の時と同じような周囲と違う扉の前にたどり着いた。

今回は水の武将か・・・。

まさか、水に中に閉じ込めるとか、水圧で圧殺してくるとかしないでほしいと願ってしまう。

「強さ的には、風のやつも火のやつも青鬼よりももしかしたら弱いんだよな・・・。生命力吸収を使いすぎてたせいだな」
「どうかしたのか?」
「いや、過去の自分の怠慢を嘆いていただけだ」

僕の言葉が理解できなかったのか、木下は首を傾げた後、考えるのが面倒臭くなったのか、視線を僕から逸らして扉を見る。
僕は苦笑して同じように扉を見た。
そして・・・扉を開けた。
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