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ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

風の武者との戦い

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風の武者が一気に僕らに近づく。
気づけば目の前で刀を振りかぶっていて、僕らは左右に分かれて飛んで避けた。

「京平! どういう意味だ!」
「言葉のままだ! お前は全力をここで出すな! 本命はまだ下にいる!」

これは僕が最初の武者を見て想像していたことだ。
今回の武者が最初と同じ火なら何も問題なかった。
全力で立ち向かえばよかった。
だが、今回は別属性の風。

「こいつは僕たちの手札を全部出させるつもりだ! まだ土と水がいるぞ!」
「厄介だな!」

刀が襲いかかる。
僕はそれを避ける。
武者が移動する。
素早い!
僕がそちらを向いた時には既に刀を振りかぶっている。
僕は刀が届かないように身を逸らす。
刀が振り下ろされる。
武者が肩を入れて刀身の届く範囲を伸ばしてきた!
僕はそれを左肩のショルダーガードで弾いた。
よかった。
こいつの斬撃はアイスドラゴンの素材を斬り裂く程じゃない。

「この!」

上から木下が作り出した火の玉が武者に降り注ぐが、それらはあっさりと躱されてしまった。
着弾時の爆風も奴には効果がないようだ。

「ちっとは当たれ!」
「木下! 無駄撃ちするな! 砂埃で奴が見えなくなる!」
「くっ! オッケー、オッケー。クールだ。冷静にいくぞ」

撃ち残していた火の玉を消して、僕の横に木下は降り立つ。

「何か倒す案は出たか?」
「何も」
「何も!?」
「そもそも、風系は万能なんだよ。火力が火ほどはないけど首チョンパできるし、水みたいに生体に馴染まなくても隠密、素早さなどのバフできるし、土ほど防御力なくても風の膜とか結界みたいなことができる。やるとしたら・・・それらを上回る攻撃力で潰す。その一点だ。・・・もしくは」

僕は木下を見た。
今の手加減した力でも、僕のイメージ通りになればいけるはずだ。

「何だよ、言えよ」
「・・・あいつ、この会話聞こえてるぞ」
「マジかよ!」

僕がそう言った瞬間、武者が「気づいていたのか」と言わんばかりに笑みを浮かべて体を揺らした。
風だからな。
空気の振動を捉えることぐらい簡単だろう。

「僕が奴を捉える。木下は、ここ! というところで決めてくれ。あくまで今まで使った技で手加減してな」
「マジで難しい注文だな!」

そのぐらいは期待させて欲しい。
僕は武者に向かって突っ込んでいき、右拳を出す。
その腕を斬るためか、武者が刀を下から斬りあげるために構えたので、僕は右拳を途中で止めて、刀を持っているその手を蹴った。
蹴りは奴の意表を突いたのか、見事に決まって体勢を崩す。
僕は隙を与えずに、足をそのまま下ろして奴の左足を踏み潰した。
血や肉は飛び散らなかったが、完全に使い物にならないレベルで潰れている。
僕は更に、相手を倒そうと左手首と胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
だが、僕が掴む前に奴の姿が消えた。

「はぁ?」

いや、正確には消えていない。
薄く空気のような状態になって移動している。
掴んでいた左手首も踏んでいた足も同じ状態になって、別の場所に移動して元の姿に戻った。

「それは卑怯だろ!」

もう一度掴み掛かろうとすると、武者から強烈な突風が発生し、僕はかろうじて加重のお陰で踏ん張っている右足にしがみつく。

「ぐへ!」

木下はまともに受けて、天井にぶつかっていた。
クソ・・・もう少しだったのに!

風が収まって、すぐさま武者に向かって突進する。
武者も変則的なジグザグな移動をして、少し離れた場所で刀を振った。
強風が巻き起こった。
僕の上体が煽られてバランスを崩す。
強引に戻すが、明らかな隙だったにも関わらず、警戒して向かってこなかった。
向かってきたら後ろに転がって仕切り直すつもりだったが、動かないならありがたい。

「的だな!」

木下の火球が3つ連続で武者の背中にヒットした。

「もっといくぜ!」

続けざまに火球を作り出して、四方八方から武者に襲いかかる。
武者は刀を振って火球を迎撃し、また、風で押し返して壁に当てて破裂させた。

・・・今だ!

武者が僕に背を向けた。
僕は足のレバーを上げて、左足に力を込めて地面を蹴った。

一気に近づく武者の背中。
もう少しというところで、武者の目が僕を見た。
火球を切り払いながらも、僕への注意は怠らなかったようだ。
刀が横一線に振られる。
僕は上体を低くしてそれを避ける。
ズパン! と何かが斬られたが僕自身に痛みはない。
上手く動かない右足をコントロールして、踵を地面につけないように地面を踏んで武者の懐に入った。
鎧の隙間に指を入れてそのまま押す。

「おおおおおおおぁぁぁぁぁああああああ!」

二撃目はさせない!
武者を壁際まで押して逃げれないようにし、そこで僕は鎧を放して右足を押し当てる。

「飛び散れ!」

カチ! と音を立てて足からドラゴンバスターが発射され、武者の胴体を貫き、壁に当たって爆風を起こす。
武者のパーツが千々に飛び散っていく。
この瞬間。
この時こそ木下が攻撃する絶好のタイミング!
だが、僕の考えを他所に木下は動かずに何かを待っていた。
一瞬呼びかけようかと考えたが、それよりも先に武者のパーツが透明になって集まり出した。

・・・もう一度か。

そう僕が思った時、それらが一気に燃えた。

「待ってたぜ、俺の炎が確実にダメージを与えれる瞬間をよ」

そう言いながら僕の横に立って、「どうだ?」と言わんばかりに胸を張ってこっちを見た。

目の前では、武者のパーツが実体化して集まることができずに地に落ちていく。
なるほど。
風の状態だったからこそ、炎が内側まで入り込み、実体化しても消えないと・・・。
こいつにしては考えたな。

「見事だよ」
「当然」

僕は燃える武者の頭の場所に近づき、その死に方を確認する。
だが、予想通りそれはまるで僕を笑うかのように震えた。

「オボエタゾ」

前の時と同じように僕に言って、形を崩して消えていく。

これで僕の手札は、完全にこいつの本体に知られたことになる。
でも、後2体・・・。
考えなければ。
新しい戦術を。
水と土を攻略できる手段を。

「瀬尾ォ! 荷物が燃える!」

ハッとして前を見るとどこか見たことのあるアイテムがちらかっていて、木下が急いでそれらを拾っていた。

僕は慌ててリュックを正面に持ってくると、明らかに斬られた面がそこにあった。
屈んだ時のアレだ!
急いで拾ってリュックに入れるが、いつまた落ちてもおかしくない。
ひとまず縛れる場所を縛って、肩掛けをひっくり返してバックのように持った。

「木下、燃えない手を出せるって言ってたな」
「出せるぜ。持とうか?」
「頼む。こいつを片手に武者との戦闘は避けたい」

ちなみにさっきの斬撃のせいで、A級魔石1個とスモモ魔石が2個斬られてしまった。
斬られても、価値はまだあるのだが、正しいカッティングではないため、カッティングされていない物よりも性能が落ちてしまう。

「また取ればいいだけの事だ。今回のアタックで自信はついたからよ、富士でも稼いでみせるぜ」

まあ、確かにこいつならA級を倒すぐらいできるだろう。
如月さんには悪いが、今回の魔石は妥協してもらおう。
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